表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/96

番外編短編・勘のいい男

季節は秋。


クリス・ドニエは社長室で仕事をしていた。忙しいクリスは社長室から見える窓の景色も無視。葉が赤や黄色に色づいていたが、クリスにとってはどうでもいい事だった。


社長室は骨董品や絵画も飾られ、品よくまとまっている。これもクリスには興味のない事だった。趣味は釣りぐらいしかない。料理は好きだが、実用も兼ねているので趣味というのは微妙。読書もそうだ。これも仕事を兼ねている。


ただ、仕事上で貴族連中との付き合いも多い。こんな風に社長室をデザインする事は、いろいろと意味はあった。主に威嚇、マウントなど。おかげで最近は若き極悪経営者とも呼ばれていたが。とにかく今は仕事だ。今日は主に事務業や細かい確認も多いが、後回しにするのは嫌だ。さっさと片付けよう。


こうして仕事をバリバリと終わらせて、少し休憩。ジャケットを脱ぎ、コーヒーを淹れて飲む。至福の時間だが、たいして喜べない。


アンナの顔が頭に浮かぶ。タラント村の事件も終わり、本気でプロポーズをしていた。先日も、マーガレット嬢のパーティー会場で壁ドンしたが、なぜか逃げられた。


「解せない。ちゃんと王都で流行っている恋愛小説を参考に壁ドンしたのに。うん? 頭ポンポンの方が良かったか? それとも、顎をクイっとした方がいいのか? いや、やっぱり壁ドンが一番いいのか?」


クリスの机の上には、仕事の書類だけでなく、恋愛小説もあった。付箋もびっちり貼られ、小口も真っ黒になるほど読み込んでいる。ここから学べばアンナ嬢も落ちるだろうと考えていた。


ハイスペ経営者で女に毒舌なクリスだったが、恋愛経験は乏しい。元々母親が不倫されて苦労していたからだろう。そんな経験のなさを誤魔化す為、必死に恋愛小説を読んでいるわけだが。


「解せない。なぜアンナ嬢は逃げたんだ?」


しかもアンナ嬢の居場所は不明。執事のじいやもいない。おそらく一緒にどこかへ逃げたのだろうが、行き先がわからない。


ちょうど仕事も終わってる。クリスはジャケットを着こみ、後のことは部下に投げ、社長室を出た。


向かった先は王都の出版社。アンナが小説書いているレーベルの編集部に向かった。期待して向かったものだが、編集長も不在で会議中だった。


その次にアンナが行きそうな書店、カフェ、博物館、公園、成金御用達の服屋やアクセサリーショップなどにも足を運んだが、アンナはいない。文壇サロンのティールームに向かったが、当然のようにアンナの姿はない。


次はアンナの家へ。正直ここまでするのは単なるストーカーだったが、アンナの両親とは親しい。仕事の話をしに来たという事にしておこう。これだったら合法的なストーカーなはず。


金ピカの成金風の門をくぐり、さらのド派手装飾が施された屋敷へ。庶民出身のクリスでさえ、趣味の悪い成金屋敷に引きながらも、客間でアンナの父を待つ。


「メイドさん。アンナの行き先は知りませんか?」


クリスはお茶を持ってきたメイドに聞く。大柄でそばかすだらけのメイドだったが、なぜか睨まれた。


「あんたね、こっちは忙しいんだよ。アンナお嬢様へ嫌がらせの手紙類がきたし、じいやさんもいない。お前のせいだね」


口の悪いメイドに辟易としたが、貴族の令嬢よりマシだ。嫌がらせの手紙の詳細などを聞き、犯人を一族もろとも買収し、よくよく可愛がってあげる事など妄想していると、メイドは引いて出ていった。


クリスは一人になり、客間の金色の猫や龍、カエルなどの趣味の悪い装飾品を見つめた。その時、何かピンときた。


「うん? アンナ嬢、アサリオン村にいるか?」


何の根拠もないが、そんな気がする。あの嫌がらせの犯人はおそらくマーガレット嬢だし、確かあの令嬢一族はホテルを持っていた。アサリオン村のホテルもそう。なんとなく、アサリオン村という言葉にピンときた。


ちょうどそこにアンナの父もやってきた。成金らしく、金色のスーツや指輪、ネックレスなどみているだけで、目がチカチカとしてきたが、元々体格もよく、顔も派手系なので、意外とよく似合ってる。


「お父さん、アンナ嬢はアサリオン村にいるんでしょ?」

「は!? クリスくん、よくわかったな!?」


父はお驚きだったが、クリスの口元はニヤニヤと笑みが浮かぶ。


「ええ。勘ですが、そんな気がしましたよ」

「全く勘が良い男だ、クリスくん。そういえば君、株でも儲けていると聞いたし、本当に運がいいね」

「ええ。という事で明日ぐらいから、アサリオン村へ行ってきます」


再び笑い、父とも仕事の話をして帰る。成金風のお屋敷から出ると、少々ホッとするものだが、呑気にしていられない。


「覚悟しておけよ、アンナ嬢」


そう宣言し、風のように走っていた。相変わら、秋の風景には目もくれていなかった。

ご覧いただきありがとうございます。


実は現在、3部目の完結編を作成中です。今度は孤島編です。まあ、アンナとクリスの仲は決着がついているので、ちょっと長めの番外編という雰囲気の予定です。連載時期は年末年始以降の予定です。完結予定です。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ