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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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番外編短編・その後のタラント村

 タラント村は寒い。冬は雪が降り積もる。毎年、村人にとって雪かきは憂鬱な作業だ。


 現在、アンナ嬢の別荘で管理人の補助的な仕事をしつつ、タラント村のカフェでバイト、手作りのマフィンやアクセサリーなども販売し、生計をたてていたオルガ。一時は奴隷の身分として不遇ナ少女だったが、アンナ嬢に助けられ、今の生活は嫌いじゃない。


 今日も管理人の仕事が終わったら、タラント村のカフェへ出向く。


 まだ雪は降っていないが、風は冷たい。オルガの頬や鼻は真っ赤になり、夏の日焼けの跡も嘘みたいに消えている。


「リズ、カリスタ。遊びに来たわ」


 カフェに入ると、暖炉の炎が目に入る。空気も温か。ホッとひと息しながら、元村長夫人のリズや現村長のカリスタと雑談。


 特にカリスタは村長の仕事で忙しいが、時々、カフェの運営も手伝っていた。現在はカリスタは生き生きと仕事をし、とても楽しそうだったが。


「聞いてよ、みんな。アンナ嬢がまた事件を解決したそう」


 カリスタがアンナ嬢の話題を出す。リズもオルガも身を乗り出す。


 最近、アンナ嬢はアサリオン村で事件を解決したらしい。タラント村でも噂でもちきりだった。タラント村でもアンナ嬢は大活躍だったし、いなくなった今でも、いつまでも噂の的だったりする。


「しかもクリスともついに婚約したらしいわ」


 リズはゴシップ誌まで取り出して、ニヤニヤ。元々は上品でお高くとまっているリズは嫌われていたが、嘘のようだ。


「本当? わぁ、しかも極悪経営者と成金令嬢が婚約ってスクープ出てる。こうして見ると、下品なカップルみたいだけど」


 カリスタはゴシップ誌を眺めながら、笑いを噛み殺していた。結婚式も成金風に豪華にするという噂もあるらしく、誌面は派手だ。


 リズやカリスタはこんな噂を多いに楽しんでいたが、オルガの表情は複雑。


 カリスタが作ってくれた甘いココアやジンジャークッキーを楽しみながらも、どう笑っていいかわからない。


 慕っていたアンナ嬢の婚約。急に遠くに行ってしまったよう。オルガは管理人のシャルルに片想い中だったが、こっちは何の進展もない。急に置いてきぼりにされたみたいで、あんまり笑えない。嫉妬とはちょっと違う感情。


 その時だった。カフェにシャルルがやってきた。


 カフェへの荷物を届けに来たという。シャルルも管理人の仕事をしていたが、今は村で宅配のバイトもしていた。おかげで軽薄な雰囲気もなくなり、村での女性人気はだいぶ落ち着いていた。宅配の作業着もだいぶ板につき、筋肉もついている。


「なんだよ、お前ら、アンナ嬢の噂中か? 全く暇だね」


 口の悪いシャルルだったが、カフェでコーヒーを奢ってもらい、上機嫌。


「まあ、アンナ嬢もめでたいね」


 そんなセリフまで飛び出す始末だったが。


「俺も結婚するかね」


 たぶん、冗談のはずなのに、オルガの心臓は跳ね上がる。別にプロポーズとかされたわけでもないのに、ドキドキする。


「シャルル、そんな女関係にだらしなくて結婚?」

「そうだ、カリスタの言う通りだ。なんで、結婚?」


 もっともカリスタやリズに突っ込まれ、シャルルもタジタジ。残りのコーヒーを一気飲みすると、風のように去っていく。


 気づくと、窓の外はチラチラと雪が舞っていた。遠目には天使の羽のように見える雪。寒いのは嫌だが、オルガは窓の景色を見ながら、楽しくなってきた。


「お、オルガ。なんかご機嫌だね?」

「ええ、リズ。もうすぐ冬ね」


 今のところ、シャルルとの関係は進展していないが、それも悪くない。こんな風にカフェでお茶をし、窓の景色を楽しむ時間は、別に恋が成就しなくたって楽しいものだ。


「さあ、ケーキももうすぐ焼けるわ。リズもオルガも楽しみにしていてね」


 カリスタの明るい声も響き、カフェの中はより一層賑やかだった。


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