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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第40話 クリスの作戦、大成功です

 クリスは一体私のどこが好きなのだろう。心底謎だ。


 私はホテルの裏手から、さらに奥の公園の方へ逃げる。さすがにクリスが追ってくる様子は無かったが、本当に謎だ。本格推理作家がどう取り組んでも解けない謎。もはやクリスの存在自体がミステリー。


 そんな事を考えながら、ボーっと歩いていたせいだろう。公園に人影がいた事に、腰を抜かしそうになり、慌てて茂みに隠れる。


 以前、この公園に来た時はパウラがおかしくなった時だった。今日はそういった女性はいないようだが、あまり居心地いい場所ではない。クリスには会いたくない。さっさとホテルに帰りたかったが、人影から声が響く。


「まったくセドリックもロドルフもつかえねーな!」


 その声には聞き覚えがあり、息を飲んだ。ジスラン支配人の声だ。暗闇でよく見えないが、低めでしゃがれた声は間違いない。


 セドリックやロドルフを使えないってどういう事だ?


 彼らは有力な容疑者だったが、どういう事?


 思わず唾を飲み込む。手のひらもじわっと汗が滲んできた。もしかして事件解決に近づいている?


 私はさらに神経を張り詰め、微動だにせず、声を聞く。夜風の音も響くが、人影に全力集中!


「使えないって何だよ。俺はジスラン支配人、あなたの為にシビルの偽の検死報告をしたんです。お願いですから、シビルの件は一切口外しないでください」


 これはロドルフの声?


 ロドルフの声はよく覚えていないが、話の内容からして間違いない?


 ロドルフが誰かから脅され、偽の検死報告をしたという推理は当たったらしい。この様子では殺害に関与はしていないようだが、諸々の余罪はあるだろう。私は思わず心の中でガッツポーズをとる。事件解決までもう少しだ。


「うるさい! 俺は機嫌が悪いんだよ! あんな成金作家令嬢が新しい支配人になるとか、聞いてない! 女のくせに!」

「ちょっとジスラン、悔しい気持もわかるけど、落ち着いて!」


 また新しい声がした。怒り狂っているジスランを宥めているのは、セドリック料理長の声だ。これは間違いない。少し鼻に詰まったような声は聞き覚えがある。


 私は一人、ニンマリとしていた。ジスラン支配人は、相当機嫌が悪いらしい。クリスの立てた計画が大成功したみたい。パーティーで新しい支配人として挨拶をして良かった。犯人が炙り出されたらしい。


「もうジスラン! 機嫌なおせよ。シビルは死んだんだ。あいつが全部罪を被って死んでくれた事になってる」


 セドリックの声がした。たぶん、ジスランを宥めているんだろうが、もうこれは罪を告白したようなもの。


 おそらくトリスタン先生を殺したのはジスランだ。トリスタン先生にシビルとの件を公表されそうになり、自分達にも芋蔓式で罪が露になる事を恐れたんだろう。ジスラン、セドリック、ロドルフもシビルのいい顧客だった。


 もっとも、私の別荘に遺体を投げ込んだアイデアはセドリックやロドルフが思いついたのかもしれない。こうすれば私に濡れ衣を着せられるしね。


 シビルも薄々、自分のせいでトリスタン先生が殺された事、犯人が顧客の誰かだった事は気づいていたんだろう。偶然、過去の罪が露わになる私の小説も読み、罪の意識の手紙、メモなどを書いたのは確か。


 それを利用し、偽の検死もし、自殺に見せかけたんだ。本格推理作家の私としては杜撰なトリックだったが、いいじゃない。無法地帯の田舎らしい野生味のある真相だ。主要容疑者全員が犯人だったというのも私としては納得いかないが、つくづくフェアプレイでは解けなかった謎だと実感。


 ジスランは我が国の一般的な男とはいえ、かなりの男尊女卑だ。私が新しい支配人になった事に納得行っていないらしく、相当不機嫌らしい。セドリックやロドルフに当たり散らし、大声で文句を言っている姿は実に情け無い。このままだと犯人同士で仲間割れもありうる。実際、ロドルフの声は相当のイライラが滲んでいる。


 クリスの作戦が上手くいった事は喜ばしい。こうして不機嫌なジスランが仲間に当たり散らし、半分罪を告白したようなもの。


 次はどうやって犯人達を捕まえようか。このまま大騒ぎしている所に白警団を呼ぶ?


 あるいは村の皆んなを呼び、タラント村の時みたいに全員で捕まえる?


「さて、どうやって捕まえましょうか」


 この様子では三人とも全く罪の意識はないだろう。同じ罪を犯していたトリスタン先生やシビルとは大違いだ。あろう事かシビルに罪を擦りつけているぐらいだ。この犯人達に一切同情はいらない。一刻も早く捕まえないと!


「うん? こっちの茂みから、気配がしないか?」


 しまった!


 ロドルフが私の方に近づいて来るではないか。


 逃げないと!


 そう思うが、足がもつれて動けない。舌ももつれて声も出ない。犯人が三人も近づいてくると思うと、身体が石になってしまった。


「こ、こいつ! 例の作家令嬢だ!」

「なんだと!」

「こいつ、俺らの話を聞いていたんか!?」


 犯人達の声が響き、逃げ遅れている事を察した。


 タラント村では犯人を追いかけ回した癖に、今はなぜか身体が動かない。タラント村の事件と違い、犯人が三人もいる!


「許せん! 女のくせに!」


 ジスランの声と共に、頭を殴られた。目の前が真っ白になり意識もふわりと薄くなっていく。


 消えかける意識の中、最新型のタイプライターの事ばかり頭に浮かぶ。主犯格はジスランだった。まっさきに私を殴ってくるような暴力性だ。トリスタン先生やシビルを殺しても全く不思議ではない。


 クリスとの賭けは私の勝ちだ。それなのに、どうやら最新型タイプライター、手には入らないかもしれない。墓前に供えられる可能性はあるかもしれないけれど。


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