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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第38話 犯人を炙り出します

事件は進展がないまま、数日が経過。村の森の紅葉も濃くなり、落ち葉も降り積もっている中、私は恋愛小説のプロット作りにも追われていた。エドモンド編集長のダメ出しは容赦なく、私のストレスはマックス状態。連日連夜、髪を掻きむしりつつ、どうにか恋愛小説のプロットも書き終えた時、決戦の日がやってきた。


パーティーだ。あのホテルの新経営陣のお披露目パーティーだ。夕方から夜にかけて行われる予定。クリスとの計画通り、犯人はボロを出すだろうか?


「どう思う、エメ。ボロは出すかしら?」


ホテルの控え室で、私はエメにヘアメイクをやってもらっている。元々、今日のパーティーの服や靴、アクセサリーのコーディネートもエメに監修してもらった。ヘアメイクもお任せして貰う事になった。


ピンク色のヒラヒラ系ドレスに、ヒールつきの赤い靴。アクセサリーは元々私が持っている成金風のものでまとめたが、案外、強そうな令嬢ルックスに変え、メイクもエメにより強気にしてもらった。


「わあ、ちょっとメイク濃い?」

「大丈夫よ、エメ。今日は犯人のボロを出させる為だから、強気で」

「そうか、なるほどね」


エメはそう言い、私のまつ毛にマスカラも塗り、最後に顔全体にパウダーもはたき、メイクは終了。


「しかし、あんた、髪質は弱めだね。ストレスにくるタイプだろ」

「そうなのよ。嫌になっちゃう。仕事で苦手な事しているから、ストレス溜まってね」

「面白いもんだな。さて、だったら、ボリューム出す感じでふんわりとセットするか」

「よろしく」


エメが手際よく、私の髪をセットし、最後に悪趣味な成金ネックレスをつけた。アクセサリーボックスの中にはクリスと変装中につけた指輪も入っていたが、今日はつける必要はないだろう。相変わらずクリスは左手の薬指に指輪をはめているが、どういうつもりなのかは、謎。


「しかしアンナ嬢。ずっと支配人やるわけにはいかないだろ?」

「そうなのよね。まあ、クリスとも一時的にという約束だけど」


鏡で自分の顔をチェックする。良い感じに戦闘力が高めのルックスに変身できたものだが、話題がクリスとなると、エメは笑っていた。おそらく噂のネタにできるから、笑っているのだろう。ゲスっぽい目の笑みは、決して上品ではなかった。


「アンナ嬢、クリスと結婚したら良いじゃか」

「ちょ、今、そんな話する?」

「嫌いではないだろ?」

「そうだけど」


明らかに揶揄われ、鏡の中の私の顔は真っ赤だ。少しむせそうになり、コップの水も飲んだ。


「いいじゃないか。好きな男ではなく、嫌いじゃない男と結婚するのが、長く続くコツさ。好きな男と結婚すると、日常の些細な事にイライラするからね。食べ方とか、言葉使いとか」

「そんなもん?」

「落差がきついんだよな」

「逆に嫌いじゃない程度の男と結婚したら、嫌なところがあってもそういうもんかって思うしね。ちょっと良いところ見ただけで、きゅんともする」

「そうかしら」

「そうだよ。結婚生活は恋愛小説ではなく、現実だからねぇ」


さすが人生のベテランのエメだ。ちっとも甘い事は言わないが、頭の中でクリスとの結婚生活が浮かんで困った。


元々、極悪経営者として性格悪いクリスの印象は最悪だ。ただ、その分、彼が少しまともな言動を見せれば、好感度が上がるのも事実。それに事件を通して一緒にいるうち、彼との日常は馴染んでしまった。こんな風にクリスと一緒にいるのは、嫌じゃない。むしろ、少し楽しい。


そんな事実を自覚してしまったら、もうクリスの事が好きみたいじゃないの。


「これって恋なの?」


恋愛偏差値ゼロの私は全くわからず、エメに聞いてしまう。


「アンナ嬢、推理作家だろう。その謎も自分で解いてみたらいいじゃないか?」

「そうかしら?」

「それにアンナ嬢の気持ちなんて私にわかるわけないぞ。自分で推理するしかないね」


エメの言葉はいちいち正論。それにこんな恋愛相談したら、あっという間に噂が広がり、クリスの耳にも入るだろう。エメへの相談はこれぐらいで辞めておこう。


ちょうどパーティーが始まる時間だ。会場の方からは、ザワザワとうるさい音も聞こえてきた。まずはクリスの会社の経営陣の挨拶の後、私がこのホテルの新支配人だと挨拶もある。


「さて、エメ。もう行くわ」

「ええ。会場で見ているわ。がんばれ」

「ええ」


私は控え室を出て、パーティー会場の裏手で待つ。クリスも壇上で挨拶しているらしく、若い女たちの歓声も響いていた。


「解せない。あんな性格が悪いのに」


思わずこぼれた独り言。まるで嫉妬しているみたいじゃないの。ぶんぶんと首を振り、水を飲み、壇上にあがる為に準備を整え、時間になった。


パーティー会場は想像以上に広い。壇上から見た限りは、ロドルフ、セドリック、ジスラン容疑者三人組は確認できないが、私が新支配人だと挨拶すると、会場はどよめいていた。特に着飾った貴族連中がギャーギャー騒いでる。


「女のくせに支配人か?」

「あいつ、女だよな?」

「あの女、作家じゃなかった?」

「なんなんだ?」

「クリスに股を開いたんじゃないの?」


聞くに耐えないブーイングもあったが、私は平然と挨拶を続ける。文壇サロンのおじ様たちからの暴言に比べたら、いくらかマシだ。


それに会場の隅にジスランも発見。一応ジスランもパーティーのドレスコードに合わせて着飾ってはいたが、顔真っ赤。ゆでダコみたい。口もなんか言ってる。口の動きから「女のくせに」と言ってうるのがわかる。あら嫌だ、何千回もこのセリフを浴びせられているから、口の動きも覚えてしまったわ。


それにロドルフやセドリックもいる。二人とも女囲まれ、満更ではなさそうだったが、壇上の私を睨みつけていた。これは怪しい。クリスが考えた計画は、案外上手く行ったのか?


「我が国は女性の立場がとても低いです。騙されて売春に行ってしまう女性も珍しくありません。少しでもそんな世界が終わりますように。支配人としてもできる限りの事もしたいです」


私の挨拶の言葉は、こんな形で締め括ったけれども、ジスランは「売春」という言葉に、さらに目が真っ赤になっていた。これは怪しい。シビルを思い出したのか?


壇上を降りて、パーティ会場に紛れ、ジスランをさらに観察するが、真っ赤な顔は相変わらず。こめかみの血管も切れそうじゃないの。


私もパーティー会場で色々とブーイングを浴びせられていたが、もう気にしない。ジスランもボロを出した気がする。典型的な男尊女卑だもの。シビルの扱いも酷かったのだろう。想像がつく。


「あれ? 私も私怨で調査してる?」


そんな気もしたが、まあ、いいか。どうせ田舎は無法地帯だ。もう良い子は辞めたんだ。私らしい推理で挑もうではないか。

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