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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第26話 「賭けは俺の勝ち」だと言っています

結局、エメが勝手に盛り上がりクリスの変装が決まらなかった。エメはクリスに騎士風、王子様風、文学青年風などの服を着せ、着せ替え人形化して遊んでしまった為だ。もっともクリス本人は満更でもなく、王子様風のスタイルに着替えた時は「俺と結婚しろ」とまた求愛モードに入り、エメがキャーキャー大騒ぎし、全く変装の服装が決まらず、陽が暮れてしまった。


クリスは別荘まで送ってくれたが、ちょうど管理人にパウラが夕食ができたと言う。みんなで食事をする事に。


別荘のダイニングテーブルを囲む。じいやが盛り付けてくれたシチューはほかほかの湯気が。心地よい気候とはいえ秋だ。朝晩は少し冷える。シチューのような煮込み料理が美味しい季節だろう。


パウラはすっかり元気だ。ニコニコとシチューを頬張り、管理人の仕事を楽しんでいる模様だ。今日はじいやと編み物もしたと言い、もう失恋で自暴自棄になる可能性は低そうだ。パウラの良い印象を持っていないクリスも、それにはホッとしたようで、みんな穏やかに夕食を食べていた。


「ところで、クリスさんとアンナって本当に婚約者?」


そんな中、パウラはこんな話題をぶっこみ、私はむせそうになる。じいやは相変わらずニコニコ。クリスはふんと偉そうに顎をあげていた。


「そうだよ。俺とアンナ嬢は結婚する予定さ。賭け事もしているが、おそらく俺が勝つ。アンナ嬢と婚約を賭けているんだ」

「何それ、クリスさん、強引〜。そんな賭けやるなんて本当は余裕ないんじゃない? やっぱり残念イケメンに見える」


本当にクリスはパウラが苦手らしい。ツッコミを入れられ、クリスはゴホン、ゴホンとわざとらしく咳払い。


「まあまあ、クリス。それにお嬢様、事件の進捗はどうなってます?」


この中でじいやはクッション役になってくれたらしい。穏やかな声で話題を変えてくれた。私もじいやの話題に乗り、今までの事件の進捗を全部報告。


「カツラが引っかかるのよね。ロドルフ先生、ジスラン支配人、セドリック料理長。それにトリスタン先生。何か共通点ってあるのかしら?」


そう言いながら、謎の少年についても何もわかっていない事も引っかかる。ロドルフ先生、セドリック料理長、トリスタン先生には少年と一緒にいた目撃情報があるが、ジスラン支配人にはない。どうも歯車が噛み合わず、機械がちゃんと動かないような。そんな違和感だけ残ってしまう現状だった。


ロドルフ先生の話題を出し、一瞬、表情が曇ったパウラ。そんなパウラを気遣うような表情を見せたじいやだが、何か思い出したらしい。


「そういえば入院中、ロドルフ先生の噂を看護師さんから聞きましたよ。相変わらず、ロドルフ先生の男色の噂も流れていましたけど、とある看護師さんによると、どの女性とも付き合うつもりはなかったそう。告白してそう断られる看護師さんが多かったみたいです。医者の仕事は忙しいですし」


じいやはパウラに気を使ってもいるのだろうが、嘘はつけないタイプだ。この話も事実なのだろうが、この話を聞く限り、ロドルフ先生はわざと男色の噂を流す事もあり得るのだろうか。以前、クリスが言っていたように、訳あり女性と付き合っている可能性は十分あり得る。


だとしたら、ロドルフ先生が密会していた少年はますます謎。シチューを食べながらも黙り込んでしまうが、パウラの口元がかすかに動いているのに気づく。


何か言いたげだ。でも、踏ん切りがつかない様子だったが、クリスに軽く睨まれ、ホテルのカウンター内で聞いた噂を教えてくれた。


「あのジスラン支配人も、少年に会っているとか、男色っていう噂聞いた事がある。すぐにそんな噂が消えたけど、これって関係ある?」

「パウラ! ありがとう!」


思わず感謝する。だとしたら、ジスラン支配人、ロドルフ先生、セドリック料理長、そして被害者のトリスタンに共通点がはっきりとするではないか。共通点は少年だ。この四人と小年の間でトラブルがあり、トリスタン先生が殺された。ようやく歯車が噛み合ってきた感覚がするが、肝心の少年が謎。それにカツラ、性的不品行などの共通点も、謎。


「しかしこの四人は社会的な地位がありますね。一人が男爵家の文芸評論家。もう一人は料理長、もう一人はホテル支配人、もう一人は医者。何か世間で言えない秘密がある」

「じいや、それって男色って事?」


どうもそれだけでは無いような?


「アンナ嬢、そんな机上で考えていてもわからないぞ。事件調査は、推理小説とは違うぞ。作家の思い通りに動かない。現場に行かないと」


クリスの指摘はもっともだ。ぐうの音も出ない。


翌日、クリスと一緒にジスラン支配人の尾行をする事に決まった。クリスは一応メガネとダサいセーターで変装し、私は潜入用の野暮ったい主婦とし、仕事終わりのジスラン支配人を追う。


「まったく呑気だな、あの男。まだ正式に決まっていないとはいえ、あのホテルは俺に買収されるのに」

「ちょ、クリス。静かに」


ホテルの裏口で壁に隠れつつ、ジスラン支配人の背中を追う。私はともかく、クリスは背が高く、髪色も目立つのに、全く相手は気づいていない様子だった。服だけでも、案外、人の印象は変わるらしい。


ジスラン支配人は、村の中央まで歩き、そこから別荘地に向かって歩きはじめた。もう夕方で観光客も少ない。村人もさほど歩いていなかったが、ジスラン支配人は一度も振り返る事なく、早歩きだった。


「あの人、どこ行くのかしら?」

「わからんな。しかし、この四人の男は全員怪しい。ま、大方犯人はあのスケベな料理長だ。で、俺の賭けが勝ちって事で、俺と結婚しろ」

「その自信はどこからくるの?」


相変わらず左手の薬指の指輪を外していないクリスだった。その事はあまり考えたく無いが、ジスラン支配人の後を追う。


「え?」


しかし、その行動は驚いた。ジスラン支配人は別荘地近くのシビルのバーに入店したから。


「うん? シビルとジスラン支配人?」


ここでジスラン支配人が謎の小年と会っていたら、実に都合いい展開。実際は意外な人物の店に行ってしまった。


「どういう事だと思う? クリス?」


確かにトリスタン先生はシビルのバーに支援していた仲だったが、これは予想外。


私はバーに入店したかったが、もしジスラン支配人が犯人だったら怪しまれると、クリスが警告。結局、隣のカフェに向かい、コレット店長に何か知らないか聞いてみた。


「え、シビルの店に支配人きてるの? へえ、私はセドリック料理長がバーに来ているのよく見たけどね。去年ぐらいだったかしら」


コレット店長は実に楽しそうに、例のノートを捲る。


「どういう事?」


手がかりはとっ散らかってる状況だ。ここにきてシビルも容疑者として浮上してきたが、どういう事?


カフェの椅子に座り、考え込んでしまうが、クリスはたったまま、ニヤニヤと笑ってた。


「だから言っただろ。セドリックが犯人だ。おそらく動機は痴情のもつれ。トリスタンがシビルに一方的に懸想したんだ。で、困ったシビルがセドリックに相談し、殺した。あるいは支配人も共犯かもしれない。ほうら、俺の推理は筋が通るだろ?」

「だったら謎の小年は何ー? 筋通ってないわ。穴があるわ。あなた、見かけによらず、残念イケメン?」


コレット店長のツッコミはもっともだ。クリスはそれでも、俺の賭けが勝ちだと、穴がある推理に自信満々だったが。


「っていうか、発注ミスして小麦粉いっぱい買ったんだよね。腐るとよくないし、クリスもアンナも後で小麦粉少し持って帰ってくれない?」


私は推理について考え過ぎていた。おかげでコレット店長の声が遠くに聞こえる。


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