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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第21話 この溺愛の方が事件です!?

翌朝。綺麗な秋晴れだ。日差しも強いが、別荘周辺の森からは、野鳥の声も響き、実に平和。ここで死体が見つかった事など信じられない。もっとも死体が見つかったリビングは誰一人近づかず、二階の個室で眠り、一夜が明けた。


パウラやクリスはまだ寝ている。私は目が覚めてしまい、身支度を整えると、改めてリビングを調べたが、何も出てこない。インテリアなども全くあの時のままで、変化はない。白警団も複雑な密室トリックなどないと判断したのだろうか。


私はため息をつきつつも、別荘の庭を軽く掃除し、コレット店長のカフェへ向かう。確か朝も経営者していたと言っていたが、パウラの事を報告すると、見事に偉そう。


「ほうら、私の推理が当たったでしょ。感謝してね!」


わざとらしくウィンクまでしているコレット店長。


「だったら、トリスタン先生を殺した人は誰?」

「その少年だと思うわ。きっとトリスタン先生と付き合っていてトラブルになったのよ」

「トラブルって何? 証拠は? そもそも少年って誰かわかる?」

「知らないわよー」


あれだけ自信満々だったコレット店長だが、トリスタン先生の事はわからないらしい。


しかしカフェにいると、お腹が減ってきた。スープやパンのいい匂いが食欲を刺激してしまう。窓辺の眺めの良い席に座り、コレット店長に作って貰って食べる。切り株デザインの椅子は少々座りにくくはあるが、窓から見える野鳥の姿も可愛い。オスがメスに餌を持って求愛している様子は微笑ましい。うっかり食もすすみ、綺麗に完食した。


クリスやパウラの分もテイクアウトとして注文し、別荘に戻った。


繊細さのカケラもないコレット店長だが、パウラが見つかってホッとはしていた。パウラの励ます為のパーティーでも開こうという話も出た。ちょうどじいやも退院予定だし、みんなでパーティーをしても良いかもしれない。


そんな事を考えつつ、別荘に到着。もうクリスもパウラも起きていたが、ろくな食材がない、朝ごはんが作れないと騒いでいた。


「そうかと思ってコレット店長のカフェで朝ごはんをテイクアウトしてきたわ。パンとスープ、それにコーヒーよ」


そう言うと二人とも露骨に笑顔だ。全く子供じみていたが、特にパウラはこんな時間が必要かもしれない。


こうしてダイニングルームで朝食を取る事になった。ダイニングルームは広く、窓も大きく開放的だ。木の匂いもあり、本当に死体があった別荘だとは信じられないほど。これは食欲も刺激されるかもしれない。


私はもう食べてきたが、パウラはよっぽどお腹がすいていたのだろう。ガツガツと無言で食べ尽くす。それをみたクリスは引いていた。確かにそうだ。失恋し、大騒ぎしたパウラだが、今は食べながら元気を取り戻していた。顔は疲労感が濃かったが、この調子なら失恋の痛みも乗り越えられるかもしれない。


「いや、女って強いな。殺人事件を解決しようとするアンナ嬢が一番強いわけだが」


クリスは呆れ、苦笑していたものだが、パウラは深く頷く。


「ええ、なんか食べてたら元気出てきたかも。これ、コレット店長のスープやパンよね。なんかあの人の元気なエネルギーが料理から貰った感じ」


パウラの指摘はもっともだ。確かにいつも自信満々、その上村の噂を楽しんでいるコレット店長の事を考えると、恋とか事件とか、推理で深く悩むのも馬鹿馬鹿しくなってくるものだ。コレット店長のように図太く生きてみるのも良い。


「といっても、パウラ。今後どうするんだ? 仕事もホテルのカウンター職続けるんか?」


そんな中、クリスはコーヒーを飲みながら、現実的な事を言う。


「そ、そうだね……。私があんな事をしようとしたのも、お金もなかったからだと思うし。ジスラン支配人にも虐められているし」


しゅんと落ち込むパウラ。そんなパウラを見ていたら、はっと閃いた。これは悪くないアイデアかもしれない。


「だったらパウラ。この別荘で管理人する? 私が雇いましょう。管理人いないのが不安でもあったのよ」

「え、本当?」


パウラの黒い目がきらりと光る。


「アンナ嬢、都合良くないか? そんな甘やかすなよ」


クリスはツッコミを入れる。どうも昨日の一件で、クリスはパウラの印象が悪いらしいが、私は無視。確かにこの展開はご都合主義。もし小説だったた編集部からツッコミの嵐だろうが、それでもいい。パウラのような女性が一人でも減るのなら。


「ほ、本当? だったら私、頑張る。管理人の仕事する」

「この別荘、トリスタン先生の遺体が見つかった場所だけど、それは大丈夫?」

「大丈夫。もう死体ないじゃん。それにアンナが犯人を見つけてくれるなら関係ないでしょ?」


パウラは管理人の仕事にやる気いっぱいだ。昨日の件は嘘みたいに目が輝き、さっそく掃除や買い出しも初めてしまうぐらいだ。


「これはますます事件を解決しないとダメね……」


その後、私は一人、別荘のテラスのベンチに座りながら考える。周辺の森から木々の匂いも感じる。その匂いは私を冷静にさせたが、トリスタン先生とロドルフ先生と関係がある少年って誰だ?


私はこれまでの調査をメモしたノートもめくるが、謎の少年については全くわからない。あの噂好きの未亡人二人でさえ知らない少年とは誰だ?


パウラの件が解決しても、全く笑えない状況に気づく。今日は午後からまホテルに潜入調査の予定もあったが、この少年は見つかるだろうか。


その時だった。クリスが現れた。クリスは仕事もあるので、これからホテルに戻ると言うが。


「アンナ嬢、煮詰まっているな?」


ノートを凝視しながら悩む私。そんな私を見ながら、クリスはなぜか上機嫌。ニヤニヤと笑っている。やはり性格が悪そう。


「俺と結婚すれば、好きな推理も自由にできるぞ」

「は?」


クリスは私の隣に座り、熱っぽく私に視線を送ってきた。今日はクリスの香水の匂いなんてしないが、ほのかに石鹸の匂いがした。手を洗ってきたのだろうが、森の木々の匂いよりはっきり感じられる。


「俺はこの国の男のように男尊女卑などしない。妻には自由に好きな事もやらせる。仕事だってしていい。何なら会社一つぐらい経営を任せてやるよ」


その声はハツミツみたいに甘い。これは求愛。オスの野鳥がメスに餌を持ち運び、求愛している光景も思い出し、恋愛偏差値ゼロの私はクリスの顔が直視できない。


「そ、そんな都合のいい展開は、小説だったら編集部からツッコミが入るわ」

「いいじゃんか。ご都合主義はお涙頂戴ストーリーより幸福な人がいるんだ。悪くないだろう?」


さらにクリスは声低くし、自分と結婚したら、どんなに幸せになるか語る。コレット店長みたいに自信満々。彼女の料理を食べて、クリスも何かエネルギーが注入されてしまったのだろうか。


これは事件だ。


なぜかこんな私に執着しているのか、謎。その謎も解きたいのに、今は何の推理できず、何も言えない。クリスも黙り込み、私の顔をじっと見ているものだから、恋愛偏差値ゼロの私はもう爆発しそうだ。


その時だった。別荘のチャイムが鳴る。この空気から逃れられ、心底ホッとした。郵便局員が手紙を持ってきただけだが、助かった。


しかもその手紙は編集部からだった。トリスタン先生の事、何でもいいから教えて欲しいと手紙を送っていたが、どうやらその返信が来たらしい。


「良かったな、アンナ嬢。手がかりがあるかもよ?」


ニヤリと笑うクリス。その目はまだ求愛モードで本当に困る。

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