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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部 作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜
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第5話 さっそく推理を始めましょう

カフェ店員に水をぶっかけられ、濡れ鼠状態の私とじいや。


その上、村の子供たちに石を投げられ、追いかけまわされ、逃げるように別荘まで帰る。まさに迫害と言っても良いだろう。


別荘は村の中心部にない。川沿いから外れ、村に北西部にあるため、さすがに子供たちも追ってはこなかったが、全く笑えない。


別荘も管理人がいない。遠目にはレンガ作りの赤い屋根で可愛らしい雰囲気だったが、庭は草がボーボー、中も埃ぽい。一ヶ月ぐらい手入れをされている様子がない。管理人のシャルルが行方不明というのも間違いではなさそう。


じいやだけ先に着替えさせた。王都から持ってきた着替えやタオルがあったのは救い。


一方、私は別荘の北側にある管理人室をチェックした。


予想通り管理人のシャルルはいない。誰もいない。机の上にはパンや野菜の食べカスもあり、変な匂いもしたので急いで換気した。


ベッドや床も掃除されていない。埃っぽいが、金庫の中は空っぽ。財布もない。靴もない。服は残されていたが、状況から見て何者かに連れ去られた可能性は低そう。


思わず推理作家の血が騒いだが、濡れ鼠だった事をすっかり忘れていた。盛大なくしゃみが出てしまう。


「あれ?」


その時、シャルルの衣装ケースには女もののワンピースやスカートがある事に気づく。どちらも令嬢御用達のドレスではなく、簡素な綿生地。レースも無い。土やソースのシミもあり、村人の誰かの中古品か?


シャルルは男の名前だ。なぜ女ものの服があるかは謎だったが、背に腹は変えられない。このワンピースを借りることにした。元々令嬢ドレスは好きじゃなかったし、ワンピースはゆったりと着やすい。サイズは少し大きいが、たぶん、私が小柄のせいだろう。


「しかし、なんで女ものの服が?」


謎だ。謎があるという事は、推理しかない。他にもシャルルの私物を漁ると、女ものの化粧品類が発見。ノートや日記類は見つからなかったが、どうやらシャルルはここで女を連れ込んでいたらしい。


「お嬢様!」


そこまでわかったところ。ちょうどじいやがやってきた。執事服に着替えている。髪は濡れているものの、いつも通りの姿に戻っていた。


「管理人室で何を?」

「いえ、行方不明のシャルルを調べていたのよ。どうやら女を連れ込んでいたらしい。このワンピースもここにあったわ」

「さすがお嬢様! ワンピースも似合ってます!」

「じいや、お世辞はいいのよ。この管理人室の様子はどう思う?」


私は電気をつけた。放置状態の別荘だったが、電気は通っているらしく、ホッとしたが。


「そうですね。掃除はされていませんが、何者かにシャルルが連れ去られた様子は無いですね。荒らされた雰囲気はない。自分から出ていったのが妥当でしょう」


じいやもそう推理。


「だったら家出?」


村長殺人事件は、行方不明のシャルルが関わっている可能性が高そう。そのシャルルのせいで私たちの立場も危うい状況だ。シャルルを探すだすのが先決だと思ったが。


「そうです、お嬢様。たぶんシャルルは自分から出て行ったのでしょう」

「たぶんそうね……」


ここで二人で考えていても仕方がない。とりあえず明日は森の木の実、川魚をとり食糧を確保し、シャルルを追う事でじいやと合意。


じいやも長旅で疲れていたらしい。別荘の執事室ですぐに眠りに落ちていた。


一方、私はシャルルの管理人室へ舞い戻り、改めて女ものの服や化粧品類をチェック。


服も化粧品類は全部安物だった。口紅もベタベタと安っぽい色だった。シャルルが連れ込んでいた女はおそらく村人だろう。貴族や成金令嬢が使いそうなものが一つもない。化粧品の傾向から見ると、おそらく二十代から三十代ぐらいの女。我が国の女は家庭に入ると、オシャレが出来ない暗黙の了解があるので、独身の化粧品と推理。


ここまで推理すれば、シャルルが連れ込んでいた女を特定出来るだろう。あとは村で聞き込みすればいいが。


「はあ、でも困ったわ。村での噂が消えない限り、私やじいやが聞き込みするのは無理ね」


それに気づくと、頭を抱えそう。


管理人室の窓の外を見ると、もうすっかり夜になっていたが、今日の村人の様子を思い出すと、楽観視できない。このまま市場で食べ物を入手できなければ、最悪、このタラント村も追放となるだろう。


「はあ、困った……」


シャルルの管理人室を推理しながら少しは元気が出てきたが、全く笑えない。


この土地でも「推理なんてするな」と否定されているみたいだ。思わず文壇サロンのおじ様達の顔も思い出ししまい、胸の奥がどっしり重い。


自分を肯定し、受け入れてくれる場所はあるのだろうか。思えば昔から推理マニアの変わり者だと言われてきた。女性らしくなれず、氷の成金令嬢という二つ名がついている事も知っている。男性に好かれるタイプでもないし、同世代の友達も多くない。特に貴族の令嬢には成金令嬢と見下されていた。


そして文壇サロンでの追放。追放先での洗礼と迫害。


こんな状況で自分を肯定するなんて無理。


「私、どうしたら良い?」


全くわからない。


管理人室の窓の外は静か。風のざわめきしか聞こえないが、夜闇に吸い込まれそう。今日は月も星も全く見えない。


ジ・エンド?


少なくとも今の私は、自分の事を好きになれそうにはなかった。


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