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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部 作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜
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第4話 村人からの洗礼と迫害

タラント村には北から南へ川が流れていた。中央の大きな川が一番目立ち、その周辺に民家や商店が集まっているらしい。特に中央部は小さな村の割には、賑やかだ。


私が取り調べを受けていたタラント村・白警団本部も村の中央部にあり、冷静になって振り返ると、二階建ての木造で小さくはない。


「ねえ、じいや。取り調べなんて初めて受けたわ」


じいやと村の中央部を歩きながら、隣のじいやに話しかける。


前方は山、山、山、山ばかり見える。春風は生ぬるく、目に映る景色はなんとも平和だが、私は笑ってはいられない。


「この村で村長が殺されたらしい。残念ながら村長殺害の状況は教えてくれなかったけどね」

「本当ですか!? お嬢様!」

「ええ。この呑気そうな田舎で殺人事件なんて信じられない」

「そ、そんな……」


じいやは目を見開き声を失っていた。


我が国は魔力が封印されてからは、表向きは人権とか民主主義国家なと言われたが、昔は魔力のせいでなんでもアリだったらしい。魔力を使った殺人事件もザラにあり、戦争も絶えなかったので、当時の権力者が魔力を封印し、人らしく生きる事を宣言した。今から200年ほどの前のことで「人権宣言の日」として祝日にもなっているぐらいだ。


以降、魔力に頼らず、人の努力や知恵でありとあらゆる技術を発展させ平和になった。確かに男尊女卑ではあるが、成金令嬢が呑気に推理作家になれる程には平和な国だ。実際、犯罪率も低く、推理小説が受けないのも、我が国が平和で治安は良いからという研究結果もあった。そもそも魔法が根付いていた国だ。確かに科学的&客観的に推理する小説と魔法は相性が悪い。


そんな我が国で殺人事件。しかもこんな田舎で発生したとは、今は笑えない。推理作家としてドキドキしていたのは最初だけだった。


「それは困りましたね、お嬢様。我々はどうしたら?」

「さあ。推理作家としては、村長殺人事件も謎解きしたいけれど、まだ事件の全容もわかっていない」


事件の全容がわかっていないのも、私は不安だ。私が書く本格ミステリだったら、毒物や鈍器、時計のトリックを見破り、解決したいところだけど、今は何もわからない。殺害方法や容疑者も全然わからない。


「まあ、お嬢様。ひとまずは休みましょ。きっと長旅や取り調べで疲れているんです」

「そ、そうね」

「村の市場に行きましょう。お嬢様が好きな木苺や紅茶を買って楽しもうではないですか」

「そうね!」


じいやと話していて元気が出てきた。さすが第二のパパだ。私がご機嫌になるポイントもよく知っているらしい。


こうしてじいやと二人で川沿いの道を歩き、村の中央部にある市場へ。もう日は暮れかけていたが、野菜、果物、肉が山盛りとなった市場は、多くの村人が集まっている。


菓子やドリンクを売る屋台もあり、王都にがない雰囲気だ。さっそく市場を見て回ろうと思ったが、村人たちの視線が痛い。


村人たちは私たちを確認すると、ヒソヒソと噂を始め、明らかに避けてきた。


確かに成金風の派手なドレス姿の私と、上品な執事姿のじいやは浮いている。村人はそんな派手な格好はしていないし、多くは農作業や家事がしやすい服装だった。


「な、なんか変ね。じいや、この雰囲気おかしくない?」


思わず隣にいるじいやに話しかける。


「そうですかね。珍しい人がいて慣れていないのでは?」


じいやは呑気だった。口笛を拭きつつ、果実の屋台に近づく。屋台には季節のベリー類が山盛り。スコップですくって詰めてくれるらしいが、王都にある市場よりも新鮮で値段も安いく、それには驚き。


私も思わず欲しくなり、じいやと共に店員に話しかけた。


「あんた、シャルルの関係者か?」


店員はなぜか管理人のシャルルの名前を出す。確かにシャルルは行方不明になっていると聞いたが。


「お前たち、噂になってるから。村長を殺すようシャルルに命令したんだって?」

「は!?」


私もじいやも困惑。なぜこんな噂?


「悪いけど私の店では売らないから。犯罪者に売るものはないから! どいて、商売の邪魔だよ!」


じいやも店員に押されてしまう。思わず体勢を崩したじいの腕を支えるが、他の村人からの視線が痛い。


他にも肉、野菜、菓子の屋台を巡ったが、どこも売ってくれない。理由は村長殺しの疑惑があるため。そういう噂があるため。


「お嬢様! どうしましょう!」

「困ったわね」


これには頭を抱えた。市場で買い物ができなければ、飢える事も考えられる。いくらお金があっても、買えなければタダの紙切れはないか。


その後、村の中央部のカフェにも向かった。コミュティカフェ・タラントという店名で、見た目も可愛らしい古民家だ。きっと何か売ってくれると思ったが、全くそうでは無い。むしろ逆だった。


「犯罪者に売るものはないよ!」


カフェ店長からバケツの水もぶっかけられた。私もじいやもびしょびしょ。まるで濡れ鼠だ。


「お嬢様! これはどうしましょう!」


またじいやが泣き始めた。困った。頭を抱えた。どうやら村人の洗礼を受けてしまったらしい。


濡れ鼠状態の私達は途方にくれる。


「じいや、困ったわね……」


情け無い声しか出ない。大好きな推理もできない。今は頭が回らない。


これは迫害!?


どう考えてもジ・エンド!?


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