第36話 みんなでワチャワチャ推理大会です
その後、カリスタの提案で、カフェでちょっとしたパーティーが開かれた。
カリスタ的には選挙当選の前祝いとし、さっそく、彼女の演説から始まってしまった。
「打倒ギヨームよ! 私は村長の意思を引き継ぐから!」
カフェにカリスタの熱っぽい声が響くが、テーブルの上はパン、ケーキ、サラダ、サンドイッチ、各種ドリンクが並べられ、華やかで楽しい雰囲気だった。あの後、私もカリスタとともにケーキやパンを焼いたので、少し腕が痛むぐらいだが、パーティの準備は完璧だろう。
じいや、クリス、オルガもやって来た。シャルルも来た。シャルルは帽子とサングラスで変装している。とりあえず他の村人にシャルルの件はバレていないらしい。
「今度はアンナ。あんたもみんなの前で挨拶しな」
「え、私も!?」
カリスタにマイクを振られた。てっきり、みんなと同じようにケーキやパンを食べるだけだと思ったが。
「アンナ嬢。お前もみんなに決意表明しろ」
カフェの隅に座り、一人で斜に構えたようなクリスだったが、私を顎で使ってくる。偉そう。イラっとしたが、オルガやじいやから声援がわく。仕方ない。前に出てカリスタと同じように挨拶を始めた。
「実は私、推理小説大好きで、自分で書いちゃうぐらいだったけど……」
文壇サロンのおじ様達の話をした時は、心がまだピリッと痛む。
「自分の好きにものも否定しちゃうっていうか、自己否定もしていたけれど、やっぱり私、推理好き」
そう笑顔で語るとみんなから歓声があがる。あのクラスもパチパチと拍手しているぐらい。
「だから、村長やオルガの火事事件も全部解決したい」
私は今まで得た手がかりを全部話す。シャルルはバツが悪そうだったが、深く頷いてくれた。
「みんなも推理して欲しい! 誰が犯人だと思う?」
ケーキやパンを楽しんでいた面々だったが、ここで少ししんと静かになる。
「別に間違えたもいいから。推理はきっと過程が面白かったら、何でもアリ! 面白かった推理は外れていても、私が推理小説でモデルにするよ!」
ここでまた歓声があがり、まずはカリスタにマイクを渡す。
「そうだな。犯人は絶対男よ。村長殺人や火事なんて、暴力的過ぎる。絶対に男だよ!」
若干、私怨も入っていそうだが、一理あるのだ。実際、村長の殺害方法は暴力の一言につきる。
次はカリスタからオルガにマイクが渡った。ケーキをモグモグしていたオルガだが、咳払いし、意外とはっきりと意見を述べた。
「ギヨームは私に優しいから犯人じゃないと思いたいけど。でも今はシャルルにいちゃんのが優しいし! シャルルにいちゃんは絶対犯人じゃないから!」
無邪気にシャルルに懐くオルガ。シャルルは照れ笑いし、本当の兄妹のよう。そんなオルガからシャルルにマイクが渡る。
「そうだな。でも男って優しい演技も上手いから。俺はギヨームが犯人でもおかしくないと思う」
今のところ、ギヨーム犯人説に票が入ってる。そんなシャルルの推理の後は、じいやにマイクが渡る。
「そんな私が推理なんて」
じいやは恐縮しながらも、意見を語る。
「やはり鍵は銀貨伝説でしょう。私の行方不明のコリンが埋まっていると思います。コリンとギヨームにトラブルがあり、彼が殺した」
じいやの語り口は冷静だったが、一同うんうん頷く。しかもシャルルはギヨームと行方不明のコリンは親しかったと証言。昔は二人とも不良仲間だったらしい。シャルルの親から聞いて話というが、重要な証言だ。これはもうコリン殺害はシャルルち見立てて、村長殺人事件に結びつける捜査をしても良いか?
そして、最後にクリスにマイクが渡る。
「俺はセニクが犯人だと思うよな。だってアイツ、アンナ嬢にあれほど嫌がらせしてたんだ。あるいはギヨームと共犯だ。俺はそう思う」
意外にも感情的な口調だった。
「証拠は? 根拠でもいいわ」
私が聞くと、クリスはぷいっと窓の方を向く。不機嫌な子供みたい。
「いや。俺はセニクが嫌いだからだ」
つまり私怨じゃないか。特にじいやとシャルルは呆れていたが、カリスタは手を叩いて大受け。オルガもすっかり元気になり、笑顔だ。
「みんな推理ありがとう。みんなで推理すると、楽しいよね!」
私もそう言うと笑ってしまう。好きなものをシェアするのは、思った以上に楽しい。今までは推理の楽しさは、独占していたけれど、こんな楽しさもあったのかと目から鱗だ。
それにカリスタからは政治。オルガからはお菓子作り。シャルルからはお金の運用。じいやからはリズのような老人の接待方法。クリスからは会社経営。
それぞれ好きな事や得意な事を聞くと、私まで楽しくなってくるではないか。カフェに笑顔と笑い声が満ちる。
そう、好きなものは簡単に奪わせたくない。この事件も絶対に解決すると思った時だった。
リズがカフェに駆け込んで来るではないか。
「聞いてよ、みんな!」
走って来たらしい。息を切らしている。
「さっきギヨームの家の辺りに通りかかったんだけど、大変! 白警団のモイーズがいたわ!」
興奮気味にさらに続けた。
「なんと、あの汚いおじさんのセニクが行方不明になったみたい! ねえ、これって新しい事件!?」
リズの大声がカフェに響いていた。




