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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部・タラント村編

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第3話 推理には客観的な証拠が必要です

「だから、村長を殺したのはお前だろ! さっさと吐け!」


そう言われましても。


あの後、なぜか逮捕された私はあっという間に連行され、取り調べをさられていた。


おそらくタラント村の白警団本部にある取り調べ室だ。勝手に連行された訳だが、この状況から言って間違いないだろう。


推理小説を書くために白警団についても調べた事がある。剣と魔法の時代の終わりかけ、治安維持を目的として設立された組織で、王都に本庁があり、タラント村のような田舎には末端のノンキャリア組が派遣されいるらしい。


元々は昔の騎士団が中核になって結成されたため、庶民からの人望はあつかったが、近年は組織の腐敗が問題になっていると聞いた。キャリア組とノンキャリア組の差が激しいらしい。


その証拠に目の前にいる男は無能そう。名前はタラント村・白警団本部長のモイーズとか言っていたが、でっぷりと太り、実にだらしがない体型だ。一部には強烈なマニアがいる騎士風の制服も見事に似合わない。布がはち切れそう。年齢は三十五歳ぐらいの中年だが、頭も悪そう。男が私を逮捕したわけだが、とても有能そうに見えない。文壇サロンのおじ様よりはマシに見えるが、絶対無能だ。


私はモイーズを推理作家らしく冷静に観察中。


一方的に怒鳴るだけの取り調べ。それにこちらが質問した事にも全く解答しない。ずっと取り調べ室で感情的になっているだけで、会話のキャッチボールができない。


モイーズが言う断片的な情報を総合すると、タラント村の村長が殺されたらしい。理由は全くわからないが、なぜか私を疑っている模様。こうして濡れ着を着せ、取り調べまでしている始末だ。


「お前が犯人だろ? いいか、さっさと吐け!」

「ねえ、モイーズ。こういう取り調べの時はパンと肉料理が出るっていう噂を聞いたけど、本当です?」

「はあ!?」


私があまりにも冷静だったからか。それともパンと肉料理なんていう呑気な情報を出したせいか、モイーズは毒気が抜かれていた。しぼんだ風船のようにトーンダウンしている。


こんな訳がわからない状況ではあったが、推理小説を書くためのネタになるかもしれない。前に書いた本格ミステリは、取り調べの様子にリアルティがなかったし、評論家や校閲にも突っ込まれていた。これは良いネタになるか?


それに村長殺害事件って何?


事件の全容は全く見えないが血が騒ぐ。推理したい。


全く動じず、かえって目を輝かせている私にモイーズは、タジタジだった。怒鳴るのもやめ、本当にパンと肉料理も持ってきたではないか。根は悪い人ではなさそう。やはり文壇サロンのおじ様よりは話が通じる。


硬い田舎パンとハーブのチキン焼きの組み合わせって最高だ。成金令嬢の私としては、こういう庶民の味が好き。お高く止まった美食フルコースはあまり好きではなく、日々の食事は黒パン、芋、スープのループ&ループ。おかげで体型も肌もあまり努力もせず美しくキープできていた。こいういう庶民の味は格別に美味しくはないが、健康には良いものだ。


「お前、変な令嬢だな。なんで肉やパンで喜ぶんだ?」


こんな私にモイーズは首を傾げ、かなりのトーンダウン。とりあえず感情的になるのは抑えられたらしい。


こうして私はモイーズに質問した。トーンダウンすれば相手も聞く耳があったらしい。


数日前、タラント村の村長が何者かに殺されたらしい。が、ろくな手がかりもない。その上、あの別荘の管理人のシャルルが行方不明となり、彼を追っていたところ、私の存在が浮上。逮捕に至ったという。


私は表面上は冷静にパンを食べていたが、内心はイライラとしていた。こんな逮捕は推理小説だったら大問題。犯人と決めつけるのなら、客観的な証拠が必要だ。こんな杜撰な推理小説があったら、編集者と校閲からのダメ出しで真っ赤になるだろう。


「ところでなんで私を疑ったんです? 確かにあの別荘は私たちが使う事になりましたが、関係ないのでは? それに数日前、私は王都の自宅にずっとおりましたわ。書店で買い物した記録などもあります。アリバイも破綻してますわ」


丁寧に自分の無実を説明していたが、骨が折れる。モイーズは私は田舎にはない王都らしいドレス姿だから疑ったとも言っている。杜撰な推理すぎてため息がでるが、タラント村で初めて殺人事件が発生し、右往左往中らしい。


「こんな平和で呑気な土地で殺人事件があったんだ。どうして良いかわからない」


そう愚痴をこぼすモイーズは、ちょっと可哀想。田舎の白警団に本格推理小説のような展開を求めるのは無理?


「だから怪しいお前を逮捕する!」


同情しかけたが、これには同意できない。無能な白警団でも、濡れ衣は冗談ではない。


かといって、このまま無闇に無罪を主張するのも良くない。


私は硬いパンを噛み締めながら推理していた。この状況から抜け出すために、どうすれば良いかと頭をフル回転させながら謎解きを始める。


村長を殺した犯人を見つけるのが一番だろう。たぶんそれが一番の道だが、モイーズが吐くだろうか?


私は推理作家。別に探偵ではないけれど、この土地で推理するべきか?


「ところで村長は毒殺? 撲殺?」


殺害方法がわかったなら、面白い。推やはり理をしよう。手に汗が出てきた。心臓が高鳴る。楽しくなってきたが、相手は無能なモイーズだった。


再び感情的になり、村長殺害の詳細など一切教えない、ずっとお前も重要参考人として逮捕し続けると笑えない冗談を言ってくる。


困った。これには困った。そろそろモイーズのように感情的になった方がいい?


じいやも心配だ。おそらく別荘にいるんだろうけど、一人で大丈夫?


窓の外は薄暗くなってきた。呑気にモイーズと話している暇はない。村長を殺した犯人もまだ村にいるかもしれない。ちっとも笑えない。


「モイーズさん! あの別荘はクリス・ドニエの所有の所ですよ! アンナ嬢をこのまま逮捕しておくのはヤバいですって!」


そこにモイーズの部下らしい男が現れ、彼に耳打ちしていた。


「アンナ嬢、釈放する」


結果、私の取り調べは終了する事になった。社会的地位のあるクリスの名前は偉大だったらしい。その名前の恩恵を受けるのが一番だろう。なぜ別荘まで提供してくれたは不明だが、クリスには頭が上がらない。


「お嬢様ぁぁぁ!」


解放された私にじいやが出迎える。泣いていた。濡れ衣とはいえ、私が逮捕されて心配したのだろう。


「さあ、お嬢様。別荘に帰りましょう」

「ええ」


じいやと二人で歩き始めた。


それにしても村長殺害ってなに?


この村に殺人事件が発生している?


まだジ・エンドではないらしい。こうして外に出られた。じいやも側にいる。それに村長みたいに死んだ訳ではないのは、絶対にジ・エンドじゃない。


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