第28話 推理にも休暇が必要です
あれから数日間、何の進展もなかった。白警団も似たような状況で、村長宅周辺で聞き込みをしているのは見たが、特に何も見つかっていないようだ。それだけが救い。
新村長選挙は大盛り上がり。カリスタとギヨームの一騎打ちだったが、連日、広場では演説が開催され、村を賑わしている。
一方、私は別荘の部屋に篭り、ウンウンと唸っていた。
今まで調査してきたものを洗い、村長と銀貨伝説、二十年前の失踪事件を繋げようとしたが上手くいかない。
二十年前の失踪事件も謎だらけ。クリスによると、失踪したコリンは素行が悪く、お金にも困り銀貨伝説にも興味があったそうだが。
「シャルルも行方不明だし、コリンも殺されている……? シャルルも殺された可能性はなくはないけど……」
色々と仮説を立てるが、煮詰まった。スランプ状態だが、一度銀貨伝説の中心地である森へ足を運んでみても悪くないか?
そんな事を考えていたら、じいやが部屋にやってきた。
「お嬢様、休みましょう。頑張りすぎです!」
「そ?」
「小説と同じですよ。スランプになったら、一度距離をとって考えるんです。推理にも休暇が必要です!」
じいやは今までの調査を記録したノートを机の引き出しにしまってしまった。珍しく強引な仕草だったが、昼間に推理意外で時間を潰す方法は不明だ。外はよく晴れているが。
「だったらお嬢様。森へピクニックにでもいきましょう」
「えー?」
じいやはバスケットにサンドイッチ、チーズやワインを詰めて行こうという。
「気分転換ですよ。小説もピクニック行った後に筆が乗った事があったじゃないですか」
「そうね……」
じいやの言う通りだ。推理にも休暇が必要という事で、森へピクニックに行くことにした。クリスもサンドイッチを作ってもらい、一緒に行くという。途中でオルガとも合流。今日は工房が休みだというので、成り行きでピクニックに行くことに。
リズの別邸の前を通り抜け、森の奥へ。さらさらと小川の流れる音、小鳥の鳴き声が実に気持ちのいい春の日だ。風も暖かく、私たちは束の間、事件を忘れ、サンドイッチやチーズ、ワインを楽しむ。
未成年のオルガは飲酒ができないので、小川の方へキノコを拾いに行ってしまった。毒キノコの種類を教え、食べられるキノコの特徴も伝えると、オルガは興味を持ったらしい。推理小説を書くための調べた事だが、どこで役立つかは想像できない。
「はぁ、じいや。気持ちいいわね」
ワインをちびちびと飲み、私は少し酔っていたかもしれない。
ニコニコと笑顔がなってしまう。
「アンナ嬢はご機嫌だな。犯人はわかったんか? シャルルが犯人だったらどうするん?」
クリスは相変わらず意地悪だ。水をさしてきた
。
忘れていたが、クリスと賭けをしていた。この賭けに負けたら、クリスと強制敵に結婚ではないか。
「まあ、俺と結婚したら養ってやるぜ。好きな推理も思う存分すればいい」
「ちょ、クリス。じいやの前で変な事言わないでよ」
さすがにこの話題はしたくない。私はレジャーシートの上から立ち上がり、オルガの後を追う。
オルガは籠いっぱいにキノコを取っていた。酒も飲んでいなのに私以上にご機嫌だ。
「ところでこの辺りって銀貨伝説で言われている場所よね。掘り出したら何か出てきたりして」
上機嫌のオルガは、湿った地面を見つめながら言う。地面の上にはアリがヨチヨチと歩き、雑草も生えている。枯葉も落ち、ここだけ見ると銀貨が埋まってるようには見えない。
「そうかしら。銀貨でなく死体が埋まっていたりして?」
冗談で言ったつもりだったが、どうも引っかかった。
「アンナ! それってあり得るんじゃない? シャルルの白骨遺体が出て来たりして!」
「え、まさか……」
その可能性については全く考えていなかった。推理小説では古い木や森に死体が埋まっているのは定番だったじゃないか。
「確かに誰かの遺体があってもおかしくないわ」
推理をする。ここに遺体があるとしたら、行方不明のシャルル。同じく行方不明になっているコリンも埋められている可能性はある?
もしかしたら。
「ここで村長が発掘を始めようとしたから、犯人が困って殺した……?」
そう呟きながら、背筋がぞくっと冷たい。酔いなどすっかり覚めた。
休みだったはずなのに、結局推理をしている私。どうやら骨の髄まで推理が好きらしい。




