第27話 銀貨伝説を調べましょう
翌日、私は村の図書館へ向かっていた。村の銀貨伝説や二十年前の失踪事件を調べるためだ。
リズは今度はクリスを家に来るように要求。意外にもリズのワガママを聞くのが楽しそうで、機嫌よく家に出て行った。
今日はじいやが家で留守番だ。掃除、洗濯、食事だけでなく、庭仕事もあり大変そうだったが、快く図書館まで送り出してくれた。
村の図書館は、川沿いの道をずっと歩く、北の方にある。村長の本邸にも近いが、まずは図書館だ。
図書館は村の規模にして大きく、蔵書も悪くない。この蔵書だけでも小説の資料としても十分かもしれない。二階建ての木造建築で周りは木々も多く、日当たりも良くないが、本を保存するにには悪くないだろう。
まずは一階の郷土資料コーナーへ出向き、銀貨伝説の本を漁る。
百年近く前、盗賊団のリーダーは盗んだ銀貨をこの森に埋めたという伝説だ。子供向けの資料は多かったが見つかったが、なかなか核心まで行けない。一つ言える事は、村ではファンタジー化されている伝説で、これを掘り出すと永遠にお金に困らないとか、結婚できるとか迷信も混ざっている。本当に盗賊団がいたかどうかも疑わしく、歴史的資料は何もない。
三十年近く前は、村の小学校でも銀貨伝説を教えていたそうだが、今はファンタジー、作る話の可能性も高く、学校では教えていないそう。
学校で教えていた頃は、生徒達の自由研究で銀貨伝説を調べるのもブームになった時期もあるそうだが、今の子供達には全く刺さっていない事もわかった。
それ以外にも二十年前の事件も調べてみたが、当時の新聞記事はほとんど破棄され、図書館司書によると、白警団に詳しく話を聞いた方が早いという。
そんな事で時に図書館では収穫は得られず、帰る事にした。
といっても手ぶらで帰りたくもない。もう一度事件現場の村長宅に行ってみる事にした。
今日は昨日とうって変わり、綺麗に晴れていた。淡い雲は綿菓子のよう。春の日差しも心地よい。村長宅の前まで来てみたが、殺人事件があった事は信じがたい。
とりあえず庭の方に回り、犯人の逃亡ルートなどを想像してみた。裏手から出てこのまま森の方に逃げたら、誰も目撃者はいないだろう。
一方、正面玄関から逃げた場合は、目撃者がいても不思議ではない?
聞き込みだ。聞き込みすれば証言が得られるかも知れない。私が書いた推理小説には地道な聞き込みで犯人を捕まえたら話は無いが、何もやらないよりはマシだ。
私は村長宅の正面玄関かた小道を通り、川沿いの道に入ると、通りかかった村人に声をかけるチャンスを待っていた。
この辺りは村人はあまりいない。ようやく会えた農家らしき村人にも声をかけたが、事件当日は何も見ていないという。
思わず肩を落としかけたが、聞き込みを続けよう。トリックもない単純な殺害方法だからこそ、地道な聞き込みが大切かもしれない。
「村長が殺された日?」
「さあ、知らんね」
「知らない」
「その日は何も見ていないよ」
村人達の証言に涙目になりそうだった。地道な聞き込みも実を結ばない?
ちょうどその時だった。白警団のモイーズも村長宅周辺で村人から聞き込みをしているのが見えた。
あの濡れ衣を着せられた日以来だ。ブヨブヨな体型は相変わらずで、汗をハンカチで拭きつつ、村人に聞いている。第一印象と同じく白警団の制服も全く似合ってるいない。
まさかモイーズも村長事件について聞き込み中?
「そうだよ。困ったね。シャルルも見つからないし、もう目撃情報頼りかもしれない」
そのまさかだった。ため息をつくモイーズは、疲れ切っている。目の下も黒く、肌も荒れているようだった。
「アンナ嬢、何をしている?」
そんなモイーズだったが、目を光らせる事は忘れない。
「何してる?」
これはまた疑っている可能性大だ。私の心臓は緊張でキリキリ痛くなってきた。
しかしシャルルはもう捕まっていないらしい。という事は、今のところ私と白警団は似たような地点にいる。確実に負けてはいなさそう。私は少し余裕が出て来た。
「ただの散歩ですわ」
「本当かー?」
「ええ。しかしこんな村で事件だなんて。二十年前も事件があったと聞きましたけどね」
我ながらナチュラルに二十年前の話題に入れたと思う。
「まだ解決していないとか」
「そうだ。まあ、失踪したコリンの家には争った形跡なかったんだ。こっちも単なる家出として処理したんだが」
「へえ……」
白警団、雑すぎないか。
「うん? アンナ嬢、お前はなぜこんな話題が知りたいんだ?」
「え、いえ?」
「さては何か知っているな?」
「知りませんって」
またモイーズが疑ってきた。もう取り調べを受けるのはごめんだ。むしろ犯人を捕まえて白警団に突き出してやりたいぐらいだったが。
「では、村長。失礼しますわ!」
一応令嬢らしく微笑み、別荘へ帰る事にした。もう濡れ衣はたくさんだ。
今日の図書館や取り調べで実になった事は何一つないが、大丈夫だ。私達は白警団と同じ地点にいると分かっただけでも大収穫だ。




