第22話 村長選挙スタートです
交換条件を出し、私達と取引きしているリズだったが、また引きこもりに逆戻り。森の別邸に引きこもりを続けている。
リズの一件から二日がたったが、事件は何の進展もない。クリスは急な仕事が入ったらしく、部屋にこもっていたし、オルガの店も相変わらず。
一方、カリスタは新村長選挙に出馬の決意を固め、店カフェは休業中だった。村長はもういない。新村長選挙があるのは、必然的な流れだった。
ロゼルにも会いに役所に行ったが、向こうは相当忙しいらしく、全く捕まえられない。役所内でロゼルの噂話を探ったりシャルルの人柄なども村人に聞いてはみたが、新情報は何一つ得られなかった。
結局、リズから情報を得るのが早いとわかり、私は一人、森の別邸へ向かっていた。
本来ならじいやも連れて行きたいところだったが、別荘の掃除や食事、洗濯の準備もある。
「えー、今日はじいやさんはいないの?」
「いないわ」
リズは玄関先で口を尖らせる。あの時よりはだいぶ元気そうではあったが、ブーブー文句をつける姿は相変わらずだった。
「でもじいやが作ったパンやスープはお土産で持ってきたわよ。どうぞ」
私がお土産の紙袋を渡すと、リズがケラケラと笑っていた。まったく現金なものだが、玄関先で立ち話をしている場合ではない。
「ところでこの別邸には村長の部屋はある? 今日はそこを見たんだけど」
「いいわよ。コッチには白警団は調査に来ていないからね」
「あのモイーズも?」
「ええ。シャルルを一番に疑っているそうよ。これからシャルルを探しに王都に行くんですって。昨日の夕方、そう報告してくれたわ」
「本当?」
どうやらモイーズは犯人=シャルルと見立てて、本格調査をしているらしい。悔しいが向こうの方が一歩先を進んでいる。
「ええ。王都にはシャルルの親戚や友人もいるから、そこに逃げているんだろうって」
「へえ」
「シャルルといえば、女ばっかりと仲良かったけれど、ギヨームとも親しかった記憶はあるわね。うちの夫とはさほど面識はないと思うけどね」
そんな事を言いながら、別邸の村長の部屋にも到着。こちらは北側に面し、あまり日当たりの良い部屋ではなかった。
部屋にはベッド、机しかない。別邸のように賞状などは一つもない。リズに聞くと、こちらのは一年に数回しか来なかったらしい。
「ちなみにこれが旦那が書いたラブレターよ」
「見ていい?」
「いいわよ、忌々しい」
リズはベッドの上に手紙を放り投げた。これが工作して隠した手紙か。
手紙を一枚だけベッドから拾い、読んでみたが、後悔した。ロゼルへ胸や尻を称え、手紙を受け取ってくれない事を嘆いている。どうやらロゼルは村長の手紙は受け取らないでいたらしい。しかし、別の手紙を確認すると、ロゼルはカバン、化粧品などのプレゼント、現金は貰っていたらしい。ちゃっかりしている。手紙の印象では男をたぶらかす嫌な女にも見え、これは何かトラブルがあると察した。
「リズ、ロゼルへの貢ぎもの、お金はどこから出ていた?」
「わからない。彼のポケットマネーとは言いがたい気がするわ。村長といってもすごい高給取りでもないからね」
「そう」
手紙はもういいのでベッドの上に置き、今度は机をチェック。こちらも仕事上のメモ類ばかりで、何も出てこない。
「なんか匂うわね?」
そうは言っても、推理作家の勘が冴えてきた。昔、私が書いた作品ではベッドの下に証拠品を隠している描写もあった。
「まさかと思うけれど……」
「何、アンナ嬢?」
ベッドの下にしゃがみ、手を入れた。埃臭さに顔を顰めたが、何か指先にぶつかる。取りにくいが、どうにか手を伸ばし、何かを掴んだ。
それは封筒だった。中には現金も入ってる。
「何これ、旦那のへそくり?」
リゼは明らかに不機嫌になってきたが、無視してお金を確認。中には帳簿の一部も入っていたが、オルガの工房の国からの給付金を中抜きしているらしい。ロゼルのサインも入り、彼女はこの件を把握していた? その上で村長からの貢ぎものを受けていた。
動かぬ証拠が出てきた。ロゼルにこの事を確認しなければ。噂では身が硬い女性の印象だったが、そうでもないらしい。むしろ、村長の手紙を見る限りは悪女系だ。
「何、アンナ嬢、何かわかったの?」
不機嫌になりかけているリズを無視し、別邸を後にした。ロゼルが事件に関わっている可能性が高い。ようやく大きな手がかりを手に入れられた!
早歩きで森を抜け、川沿いの道を走り、村の中央まで来た。
もう新村長選挙が始まったらしく、広場ではカリスタが演説し、大騒ぎだ。
立候補者はカリスタだけでなく、ギヨームも出ているらしい。村長の意思を引き継ぐと熱意を語るカリスタに比べ、ギヨームは減税や福祉の充実を訴え、特にオルガの工房も村の中央に移そうと訴え、両者とも堂々と演説し、村人も熱心に聞いていた。
「気になるけど、今はロゼルよ。早く行かないと」
広場の演説は気になったが、今はロゼルに会う事が最優先だ。
すぐに村役場の方に走る出そうとした時だった。背後から声が聞こえてきた。
「作家令嬢ですか!? まさか推理作家のAさんです!?」
若い男の声だった。
なぜ村で私の筆名を聞いてくる!?
王都でもなかった事なのに。急いで振り向くと、赤髪でそばかすの男性が立っていた。
「僕はあなたのファンです!」
嘘!?




