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第15話 また朝が来ました

翌日、朝がやってきた。二階の私の自室にも朝陽が差し込み、実に明るい。今日もよく晴れている。


私の部屋は別荘の二階、角部屋にあった。別に陽当たりの良い部屋は希望していなかったが、クリスは一階の玄関近くの書斎、じいやは管理人室の近い執事室で寝泊まりする事になり、消去法で私の部屋もそこになった感じだ。


ベッド、机、クローゼット、ソファなどもあり、窓も大きくゆったりした部屋だ。じいやが掃除もしてくれた為、ベッドもクローゼットも使いやすく整っていた。


とりあえず二階の洗面室で顔や髪を整え、再び部屋へ。今日の服はどうしようかと悩んだが、あまりにも村娘っぽい服装も合わない。結局、王都の自宅から持ち込んだ一番地味なワンピースにカーディガンを合わせた。王都ではかなり地味な服装だったが、このタラント村では、派手過ぎず、地味すぎず、いい感じに馴染めるかもしれない。


時計を見ると、少し早く起きすぎたらしい。まだじいやは起きてなさそう。


という事で、私は王都から持ち込んだ荷物を漁り、ノートや万年筆などの筆記用具を出す。


推理小説のネタを練る為だ。文壇サロン追放された後だったが、何か新作のアイデアは浮かぶだろうか?


ノートにいろいろと思いついたテーマを書くが、いつものような本格ミステリは浮かばない。いつもは大好きだった毒物や毒草、鈍器なども色褪せてくる。実際の村長殺人事件に関わっているせいか?


うんうんと唸りつつも、本格ミステリでない物を書いても良い気がする。


「あれ? この事件を小説にするって言うのもアリかしら?」


そんなアイデアも浮かんできた。明るい朝の日差しは私の心までも明るくしてきたのだろうか。


この事件を小説化するのなら、本格ミステリではない気がした。


「だったら何かな?」


本格ではなく、もう少しライトで、村が舞台で、特定の天才探偵が活躍するのではなく、みんなで協力して謎解きするミステリ。小さなコミュニティが事件解決の肝となる。男の推理ではなく、女にしか書けないもの?


「そう言うジャンルなんだっけ?」


比較的、男尊女卑がゆるい隣国では、素人女探偵が活躍する推理ジャンルがあった記憶がある。私は本格ミステリ作家希望だったので、興味はなかったが、今は視野が広くなっていた。確かそんなジャンルは、ライトミステリとか、素人探偵ミステリとも言われていたが。


「もしかしたら、素人探偵ミステリものでもいけるか?」


我が国では全く存在しない推理ジャンルだが、可能性としてはゼロではない。村長殺人事件をベースに軽くプロットやキャラクターを立てていた。


主役はカリスタのようなカフェ店長を据え、小さな村で起きる大騒動を書いたら、もしかしたら文壇サロンのおじ様方にも対抗できる?


こんな推理小説は文壇サロンのおじ様には絶対かけない。また、おじ様方が私の作品を盗作したとしても、作風が違い過ぎて絶対にバレる。


思わず口元がニヤけるが、まだまだ村長殺人事件も解決していない今は絵空事だ。


とりあえずノートの書いたものは保留にし、ネタを深く詰めていこう。


「カリスタっぽいカフェ店長が主役、いいじゃない……」


そう呟きつつ、窓の方を眺めると、クリスが庭にいるのが見えた。


じいやが手入れしてくれたとはいえ、まだ少し荒れている庭に、クリスは椅子を出し、何やら物思いに耽っていた。


その表情はいつもの嫌味っぽさは無い。むしろ、何かに悩んでいるようで気になる。


思わず私も庭に行き、クリスに声をかけていた。


「クリス、おはよう」

「ああ、アンナ嬢か」


私の姿を確認したクリスは、目をぱちぱちとさせている。まだ眠そう。何かに悩んでいるように見えたが、気のせいだったのだろうか。


「ところでクリス。あなた、何で別荘提供くれたの? そもそも何でここへ?」


その謎は考えないようにしていたが、こうして彼と二人きりでいると、不思議で仕方ない。確かに親切心といえばそれまでだが、経営者として天才的な彼が、意味もなく、無駄な行動する?


だめだ。この謎はなぜか全く解けない。事件の謎だったら、いつまでも考えていたいけれど、今は頭が白くなりかけていた。なぜだろう?


「お? それは前に言った通りだぞ?」

「そう」


クリスは片眉を上げ、また嫌味っぽい表情を浮かべた。


「アンナ嬢は考えすぎだ。単純な謎もあるもんだ」

「へぇ」

「ま、この土地は俺の母が元々持っていた所でもあるな。母方の親戚が住んでいたんだ」


ここでクリスは咳払い。こほんと小さな音が響く。


「でもな、母の親戚の息子が行方不明になり、心を病んで長期入院している」

「え? どういう事?」


それは初耳だった。


「二十年ぐらい前の事らしい。まあ、息子は素行が悪いヤツだったらしく、評判も良くはなかったが」

「そう」

「子供が帰ってこない親の気持ちはわかるだろう。母も胸を痛めてるってわけさ。親戚といっても姉妹のようだったらしいんだ」

「そうか……」


もしかしたら、クリスは行方不明の息子を探すためにここに来たのか。といっても二十年前だ。今更何か手がかりはあるか?


「息子の行方不明と、村長殺人事件って関係あると思う?」


クリスはゆっくりと首を振り、またいつもの表情を見せた。


「考えすぎだ、アンナ嬢」


同時にじいやの声が庭まで響く。もう朝食の準備はできたらしい。


「さあ、アンナ嬢。今日も調査をするんだろ? 腹が減ってたら調査なんてできんぞ」

「ええ。食べるわよ」

「だったら良い。たんと食えよ」


二人で一緒に別荘に戻り、ダイニングルームんまで歩く。


相変わらずのクリスだったが、私と歩く歩幅を合わせてくれた。


前に村の市場を歩いた時もそうだった。やはり根は悪い人物ではない。


クリスについても、私は考え過ぎていた?


そうかもしれない。単に休暇でここにきてうらだけ。ついでに母方の親類の事件も調べに来たという感じか。


だとすると、筋は通る。何も推理までする事ではない。


クリスについて考えすぎるのは、しばらく休みだ。きっとその方が良いはず。


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