番外編短編・その後のロルフ
ここはとあるホテルの一室だ。王都にあり、出版社にも近い。ここは作家のかんづめの場として御用達だった。
「なんでこんなスケジュールが詰まってるんだ?」
作家でもあるロルフ・ガイストはこの一室で頭を抱える。編集部からさまざまな依頼があり、もうパンク状態だ。過去のようにアンナを誘拐し、恋愛ごっこをする暇も無い。
「しかたがない。とりあえず仕事だ」
ロルフは机に向かい、原稿用紙に向かう。万年筆を持つ手が痛いが、どうもタイプライターは苦手で手書き派だ。それに赤も入れやすい。
こうして何時間も机に向かっていると、スタテル島の一件は忘れられそうだ。正直、反省点も多い。自分が悪かった部分しか思いつかず、嫌悪感で眠れない日もあったが、アンナとクリスの温情により、逮捕は免れた。たぶん、もうそれだけで御の字。自分に言い聞かせ、アンナへの未練も断ち切り、仕事に没頭している時だった。
「お客様、フロントにお手紙が届いております」
ホテルのスタッフが手紙を持ってきた。
「ありがとう」
受け取り、机に戻って手紙を開けた。アンナからだった。
「もはやクリスと婚約解消か?」
長い髪をかきあげ、淡い期待を持ちながら手紙を開けるが……。
ロルフの眉間に皺がよる。近況報告だったが、クリスがいかに素晴らしい男か、いかにイケメンか、いかに仕事ができるか、いかに料理が上手いか。そんな事ばっかり書いてあり、ため息しか出てこない。これは単なる惚気じゃないか。
「くそ、クリスのやつ、やっぱり許せない」
思わずイラッとして爪を噛んだが、まだ手紙があった。アンナが作った暗号文だ。解けたら結婚パーティーに招待するという。結婚パーティーはミステリイベントも同時に開催するらしい。
「へえ、アンナらしいね」
とはいえ、暗号文はかなり難しい。頭を抱える難しさ。
「俺はアンナには勝てないらしいよ」
情け無い声だけが響いていた。




