第42話 事件の後のお魚料理
クリスの驚異的な回復力、医者も驚くほどだった。傷跡は残ったが、もうすっかり元気だ。
今日は退院祝いもかね、波音食堂で食事中だ。おかみさんに頼み込み、ランチ用特別メニューも用意してもらった。ムニエル、お魚スープ、アジフライなどなど、どれも絶品お魚料理だ。笑顔で舌鼓を打つ。
「クリス、とっても美味しいわ!」
「ああ、美味しい!」
私もクリスも語彙が崩壊し、美味しいとしか言っていない。周りの客もそんな感じだった。今日も島民で賑わっている。
窓からの景色も素晴らしい。海を一望でき、海面は太陽の光が反射し、キラキラと輝く。島の子供のはしゃぎ声やカモメの鳴き声も響き、なんとも平和だ。もう事件も解決したと実感し、さらにお魚料理が美味しく感じてしまう。
結局、クヌート所長は逮捕された。現行犯だった。クヌート所長の自宅には数々の魔法グッズや魔導書が見つかり、妻のチェルシーとともにオカルト趣味に興じていたらしい。
表向きは製薬の研究員だった。実際、過去には業績があったが、次第に行き詰まり、チェルシーの影響もあり、魔法にハマっていったらしい。魔法戦争資料館のレオン館長の説通り、魔法と科学の関連性を主張する歴史家も多いという。レオン館長はこの結局に驚いていない。島でもさほど驚かてはいなかった。薄々どこか怪しいと思っている島民も多かったらしい。
犯行動機は私たちの推理通り。マリアを生贄にし、チェルシーを生き返らせたかったようだ。ただ、いくら魔法でもそれは不可能。あの後、レオン館長も数々の文献を調査したが、魔法で寿命を変えたり、生き返らせたケースはひとつもなかったそう。命の領域は人間の誰も侵入できないのだろう。
テオも共犯者として逮捕されたが、意外にもハンネスが協力的で、テオを素直に自首させたという。
一方、誘拐事件の方はうやむやになり、結局、クリスがロルフの会社を買収という結果に落ち着いた。古城も手放し、王都で仕事をしながら謹慎するという。ハンネスは島に残り、テオの世話を続けることに。マクダは当初の予定通り、私の実家でメイドをしてもらう事に決まった。
それに被害者のマリアも記憶が戻った。クヌート所長に殴られたと証言しているという。
こうしてマリアの事件も誘拐事件も終わった。マリアもすっかり元気になり、これから歌カフェのステージに立つという。私たちも歌カフェに向かう予定だ。
「じゃあ、クリス。そろそろ歌カフェに行く?」
「そうだな」
食事を終えると、波音食堂から歌カフェへ。今日はマリアの復活ライブだ。歌カフェは客が押し寄せてる。ハンネスやマクダだけでなく、レオン館長の姿も見え、盛り上がっていた。歓声や拍手ですごい熱気。
私たちも隅の方でマリアの歌声を聞いていた。元気そうだ。弾ける笑顔も見える。真っ赤なドレスもよく似合ってた。
「そうだわ。せっかくだし、いつも世話になってるリネット店長も一緒に歌わない?」
ふと、マリアは一曲歌い終えると、リネット店長をステージに呼んだ。
「噂ではリネット店長、歌が上手いって? 本当なの?」
マリアの声が響く。はしゃぎ声だった。
「そんな……」
リネット店長は困惑気味だった。カフェ店員スタイルのリネット店長だ。確かにステージに馴染んでいなかった。「なんだよ、高齢女のくせに!」とやじを飛ばす客もいた。
本当はリネット店長の正体、知ってる。その秘密を知る私たち、ステージに釘付けだ。
「頑張って、リネット店長。恥ずかしくないよ、大丈夫!」
つい口から滑ってしまった。やじの声に頭がきたからかもしれない。何よりリネット店長の歌声、もう一度聞きたい!
「リネット店長、大丈夫!」
隣にいるクリスも声援を送る。
ついにリネット店長も覚悟ができたらしい。深く息を吐くと、マリアと共に歌い始めた。
あの人魚の歌だった。切ない歌詞とリネット店長の歌が混ざり合う。さっきまでのヤジも一瞬で止まってしまう。客たちの視線も感情もステージの二人が支配していた。
私もついつい聞き入っていた。クリスもそうだ。やっぱりこの歌声、夜にこっそり響かせているのはもったいない。実際、客たちも全員歌の世界に引き込まれ、もうステージに釘付けだ。ヤジを飛ばしていた客も目が潤んでるではないか。
「うん?」
ただ、客席の前方にいるレオン館長、顔が真っ赤だった。うっとりとリネット店長を見つめてる.
「アンナ、レオン館長が一目惚れしたな」
「え、そう!? クリスもそう思う?」
私も恋かもしれないと気づくが、歌の世界に引き戻されていく。
歌の世界にいると、事件のことなど全部忘れそう。忘れてもいいかもしれない。もう解決したんだ。新しい恋も生まれているみたいだし、事件は忘れても大丈夫。




