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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第41話 一緒に生きる覚悟

 深夜の病院は静かだった。ロビーには私とマクダ、ロルフ、リネット店長がいた。誰も話さない。緊張感しかないが、こうして待つことしかできなかった。


 あの後、クリスは病院に運ばれた。今、ずっと治療中だった。クヌート所長はついに逮捕され、テオも事情を聞かれてる。テオにハンネスも付き添っている。うるさいハンネスがいないせいで、余計に病院のロビーは静か。


「大丈夫よ、アンナ。おかげでクヌート所長が犯人だって現行犯逮捕もできたじゃないの」


 隣にいるリネット店長、私の肩をさすり、励ます。


「そうよ。あんな性格悪そうな人よ。ちょと刺されたぐらいで死ぬわけないわ」


 マクダも私の手をとり、励ましてくれた。二人とも家に帰っていいはずなのに、一緒に待ってくれている。それだけで胸がいっぱいになる。少しは不安も減ってきた。


 一方、ロルフは待合室の椅子に腰掛けたまま、黙っていた。求愛モードも見せず、眉間には深い皺がよってた。こんなロルフは始めてみた。確かに今は笑っている状況ではない。


 私はふと立ち上がり、壁に貼ってるポスターを眺める。この病院の説明があった。魔法戦争時代、迫害されつつも、戦禍での怪我人を治療し、その医療技術の向上は現在でも続いているという。我が国でもトップレベルらしい。


 また不安が減ってきた。そうだ、魔法戦争時代でも活躍した医療技術ならば、クリスも助かる。絶対助かると自分に言い聞かせた時だ。


「クリスさんのご家族の方!」


 看護師に呼ばれた。急いでむかう。クリスのいる病室の前で医者もいた。


 厳密では私はまだクリスの家族じゃない。単なる婚約者だ。それでも、医者から事情を聞く瞬間、家族になる覚悟ができてしまった。医者も私が婚約者というと、すぐに納得してくれた。


「大丈夫です。傷跡は残ると思いますが、クリスさんは大丈夫です。命に別状もありません。意識もあります。ええ、あの人、すごい生命力で」


 もう医者の声まど耳に入ってこない。クリスが助かった。それだけでいい。全身からと力が抜けそうだったが、五分程度なら面会もできるという。この後、しばらく入院生活になるらしいが、傷の回復次第、退院もできるという。


 少し緊張する。力が戻ってきたが、唇を引き締め、クリスのいる病室へ走った。


「クリス!」


 病室は他の患者はなく、クリスだけがベッドの上にいた。顔色は全く良くない。包帯もまかれていた。それでも何とかいつものような目を見せていた。


「クリス!」


 わけもなく名前を読んでしまったが、クリスは生きていた。もうそれだけでいい。他に欲しいものはない。涙が滲む。声も震えてしまうが、あろうことかクリスは悪態をついてきた。


「あんな馬鹿なクヌートの攻撃で死ぬわけないだろ。心配するなよ、アンナ。心配する方が愚かだから」


 口が悪い。性格悪そうにも笑っていたが、ようやく安堵できた。


「もう、クリス。こんな私を庇うとか辞めてよ。おねがいだから、そんな私の為に命を捨てないで……」


 どうにか声を出す。声は震えていた。もはや涙声。


「婚約者のためだったら、普通だろ。命を捨ててでも、守るから」


 一方、クリスは平然としていた。少し笑ってもいるぐらい。痛みもあるだろうに、私を心配させないようにしているのだろう。


「そんなの普通じゃないから。愛が重すぎるわよ。っていうか、本当に死なないで。クリスと一緒に生きられなきゃ、意味なんてない……」


 思わず左手の薬指を見る。婚約指輪が収まっていた。普段はすっかり忘れていたが、アサリオン村から帰った後、クリスから贈られたものだった。今、改めてこの指輪を見ていると、涙も止まってきた。覚悟だけが芽生えてくる。この人と一緒に生きる覚悟が。楽しいことだけじゃなく、代償や義務を受け入れる覚悟も。こんな風な目に遭っても大丈夫、二人で生きていくという強い意識が芽を出していた。


「ああ、そうだ。アンナ、どんな時も一緒に生きよう」

「ええ」


 クリスにもそんな覚悟が伝わったのだろう。顔を見合わせてて、深く頷いた。


 ちょうどこれで面会は終了。看護師がきて、また明日着替えやタオルをもってくるように指示された。


 再び病院の待合室に戻る。マクダやリネット店長にも報告した。


「ああ、アンナ。良かった!」


 リネット店長に肩を叩かれ、優しい言葉に気が抜けそうだ。


「そうよ、アンナ。あんな性格悪そうな人、そうそう簡単に死なないって。すぐ復活するわ」


 マクダにも肩を叩かれ、さらに安堵してくるが、急にロルフが目の前にやってきた。


 なぜかロルフは頭を下げていた。どういうことだろう。


「俺、クリスには負けた。命を捨ててもアンナを守ったりはできない。たぶん」


 いつもと全く違う声だった。誠実さ、真面目さが滲む声で、私は何も言えない。マクダやリネット店頭もポカンと口を開けていた。


「誘拐の件も悪かった。正攻法でいくべきだった。ズルした。よくなかった」


 その上、すっかり自分の罪を認め、項垂れていた。


「俺の会社、クリスに渡す。古城も好きにしていい。しばらく謹慎しようと思う」


 この変わりようだ。普段からロルフをよく知っているマクダの目が丸くなっているぐらい。


「つまり、これってマリアの事件も誘拐事件も一石二鳥で解決ってこと?」


 ようやく私の声も出る。かなり素っ頓狂な声だったが、ロルフもマクダも頷いた。リネット店頭は歌っていた。軽い鼻歌だ。それでも事件解決を祝っているみたい。私も思わず笑顔になり、頷いていた。

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