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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第40話 犯人を論破します

 あの後、クリスと共に隠し通路にいた。クヌート所長を見張っているマクダやロルフ達によると、もう最終の暗号文も入手し、解いてる最中だという。ちなみに他の参加者はそこまで辿りつけず、ノベルティや賞金をもらい、ご機嫌で帰っていったらしい。


「もう袋のネズミだ。あの論破王、絶対に捕まえる」


 クリスは楽しそうだ。口元はふむふむとし、悪いことを企んでいる様子だ。薄暗い隠し通路でも、クリスの姿はよく目立つ。


「クリス、事件を楽しんでいません?」

「いいだろ、別に。あの論破王を捕まえられると思うと、楽しい」


 私はため息をつくが、足音が響いてきた。今までゆるく話して私たちでも緊張感が走る。クリスは私の前に立った。影ができて入り口が見えにくいが、守ってくれているのかもしれない。


「なんだ? なぜか成金令嬢と極悪経営者がいるんだ?」


 ついにクヌート所長のお出ましだ。袋のネズミであることも察したらしい。私たちの顔をまじまじと見つめると、地団駄を踏む。そのはずみで小石が転がり、カラコロと音が響く。


「なんだ? もはや、こんなイベントを開き、俺を油断させ、捕まえようとした?」

「御名答。魔法オタクの所長さん、よくわかったな」


 クリス、あきらに挑発している。さらに緊張感が走るが、テオとクヌート所長はキャラが違う。テオは北風と太陽作戦で良かったが、クヌート所長には甘い態度だと絶対舐められる。クリスのやり方が正解かもしれない。


「なんだ、そこまで知ってるのかよ」


 推理の結果を話すと、クヌート所長は全く動じない。暗号文の紙をぐしゃぐしゃ丸めてポイ捨て。


「クヌート所長、ゴミはちゃんと拾ってよ。掃除するマクダが大変だわ」

「は? 成金令嬢が何を偉そうに」


 この男、よっぽど私を見下しているらしい。ポイ捨てした暗号文、さらに足でガシガシと踏みつけていた。


「成金令嬢、程度の低い暗号文だった。もっと真面目にやれよ。推理作家のくせに、あっと驚く暗号文も作れないのか。この無能。本当にろくでもない暗号文だった」


 卑怯なやつだ。クリスには勝てそうにないから、私へターゲットを変えたらしい。さらに開き直り、マリアの事件の証拠はないとネチネチ主張してきた。


「テオが証言してくれたわ。今、オーレリアンに自首しに行ったわ」


 だからって私も負けていられない。クヌート所長に詰めると、一瞬だけ頬が引き攣ったが、すぐに論破王モードになった。テオは嘘つき、無能、証言も科学的じゃないと鼻で笑ってる。


「科学的って……。魔法オタクのあんたのセリフか? 研究所の事務員に聞いたが、肝心の製薬開発は進んでいないらしいね?」

「ク、クリスのいう通りよ! 魔法好きはチェルシーの影響? マリアを生贄で殺してチェルシーを生きかえらせようとしてた?」


 相手はいくら論破王でも負けられない。私たちも言い返していた。


 意外と効果があった。クヌート所長、目が泳いでる。どうやら急所はチェルシーだ。私はこの隙を逃がさない。相手が論破王なら、暴力はダメなんだ。こっちも口で戦おう!


「いいわ。もしチェルシーが魔法で生き返ったとしても。でも、マリアを犠牲にして生き返ったと知ったら、どう思うかな。最初は幸せかも知れない。でも人の心があったら、罪責感に押し潰される」

「アンナの言う通りだよ。そんな方法で願いを叶えて本当に幸せか? ズルじゃないか。不正だ! 幸せになりたいんだったら、正攻法で戦えよ。あ、ちなみに俺らは婚約中な」


 クリスはわざとらしく私の手を取り、指を絡めてきた。恋人しかしないような手の繋ぎ方だ。恥ずかしい。でも、ここではあえてバカぽいカップルを演じよう。


「ええ。クリスはそんな魔法なんて使わなかった。妙な壁ドン、しつこいプロポーズ、実家での工作活動などなど全部正攻法で私を落としたわ」

「おい、成金令嬢! この男も大概な方法で女を落としてるじゃねーか!」


 クヌート所長、こめかみの血管が浮いている。相当頭にきているみたいだが、論破王が動揺してる。


 さらに私たちは見つめ合う。演技とはいえ、こうしてクリスと熱く見つめると面白い。バカなカップルのフリ、たのしい。


「私たちは婚約して幸せよ」

「なあ、アンナ。あんな魔法とかいってるクヌート所長、可哀想だな」

「ええ。天国にいるチェルシーもさぞガッカリでしょうね。結婚した相手が犯罪者とか」

「俺は犯罪はしないぜ」

「でも犯罪級にイケメンよ。なんて素敵な方かしら」

「アンナも犯罪レベルでいい女だ。罪深いな。こんな美しい女、どこを探してもいない」

「クリス……」

「アンナ……」


 クヌート所長なんて無視し、熱く見つめ合う。やだ、クリスの目に私が反射して映ってる。恥ずかしいが、バカなカップルのフリは楽しい。


「うるさい! お前ら、バカップルしてないで俺の話を聞け! チェルシーをなくして俺がどんなに辛かったか、聞け!」


 何か吠えていた。ハンネスみたい。ハンネの声もいつも無視しているので、クヌート所長の叫ぶ声もスルーしてしまった。


「アンナ……」

「クリス……」


 茶番劇のようだったが、クヌート所長、明らかにペースが乱されていた。あとは、そう。この男が自爆するのを待つだけだ。この調子だったら、うっかり犯人であると漏らすだろう。


「お前ら、聞け! チェルシーを生き返えらせるのには、もう魔法に頼るしかなかったんだ! 必要だったんだ! マリアには悪いと思ったが、人魚の代わりにはちょうどよく……」


 引っかかった!


 クヌート所長、ついに罠にハマり、自爆した。口を滑らせた。犯行を自白しているじゃない!


 すぐに私たち、バカなカップルの演技も辞めた。真顔でクヌート所長に詰める。


「あなたが犯人ね?」

「お前が犯人だな!」


 クリスと共に詰め、クヌート所長も一瞬項垂れた。しかし本当に一瞬だった。


「うるさい! お前らが悪い!」


 その上、ポケットから折りたたみナイフを取り出しいいた。感情にまかせて振り回している!


 これは予想外!


 刺される!


 そう思い、ぎゅっと目を瞑った瞬間だった。大きな音が響き、暗闇にいるような感覚が襲う。


「え?」


 クリスは私の足元で倒れていた。


「え、え?」


 刺されたのはクリスの方だった。私を庇い、腹を刺され、床には血が溢れていた。鮮やかな血。人間の生命の証拠みたいな色。


「クリス!」


 同時に隠し通路にオーレリアン、ハンネス、ロルフが駆け込んできた。クヌート所長は現行犯で捕まった。


 大声が飛び交う。救急隊も来た。クリスは担架に乗せられ、あっという間に消えた。


 残ったのは血溜まりだけだ。クヌート所長が逮捕されたのに、どういうこと?


「マクダ! クリスが刺されちゃったの! どうしよう!」


 頭は混乱し、どうしていいかわからない。隠し通路にやって来たマクダやリネット店長に支えられていたが、力が出ない。


 血の匂いが鼻につく。もうどうしたらいかわからない。


 クリスが刺されてしまった。

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