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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第38話 古城ミステリーツアーの開幕です

 あの後、急ピッチでミステリーツアー企画の準備を進めていた。


 暗号文はどうにか完成し、今は古城のパーティルームの設置をしていた。


「マクダ、この飾りつけはこんな感じ?」

「ええ、アンナ。綺麗につけられてる!」


 壁に飾りつけもし、華やかなイベントを演出中だった。ちなみにロルフやハンネスは島中を巡り、イベントを開催することを広報し、クヌート所長やテオにも招待状を届けに行っていた。


 他にもリネット店長が島の歌手たちに呼びかけ、イベントの告知や準備を手伝ってもらっていた。


 普段は静かな古城も準備中の今は賑やかだ。このパーティー会場も受付やルール説明などのポスターも貼られ、着々と準備中だ。


「あ、でもこうこんな時間よ。アンナもクリスも少し休憩してね」


 マクダに気を使ってもらい、しばらく休憩することになった。このパーティールームの隅に向い、クリスと共に座る。クリスは男手とし、重たい荷物なども運んでいたので、汗だくだった。シャツにも汗が滲み、顔の疲労感も濃い。


「クリス、大丈夫? 疲れてない?」


 いくら仕事が忙しい時でも、全く疲れた様子を見せなかった。珍しい。私はマクダにお茶の手配を頼み、クリスにお茶を持っていく。


「あぁ、大丈夫だ。しかし疲れる。イベントと言っても、準備があるのは忘れてたわ」


 クリスはそう言い、おでこの汗を拭う。


 そんなクリス、いつものような性格悪そうな目は見せていない。むしろ優しげな目。


 思わず胸がキュンと揺れる。たぶん、ここまでしてくれたのは、私のためだ。私が作った暗号文、なんとか活かそうとしてくれていたのだろう。


「クリス、大好き」


 そういえば、私からこんな告白するのは初めてだったが、口から勝手に滑り落ちてしまう。


「な、なっ。ど、どういうことだ……」


 クリスは顔を赤くし、むせていた。それはそうだろう。こんな素直な私、自分でも相当珍しいはずだから。


「いやいや、アンナ。どうしたよ? 変なもんでも食ったか?」

「いえ、思ったこと口にしたらダメ? それともロルフのがカッコいいとか嘘つくべき?」

「それはダメだ!」


 クリス、動揺して大声が出たらしい。マクダだけでなく、手伝ってくれていた他の島民にも注目を浴び、慌てて口を閉ざしていた。


「冗談よ。ロルフなんて一ミリも興味がないから。そもそもあの男、誘拐犯なのよね」

「そうだな」

「私は推理好きとして犯罪者は嫌うわよ」


 ここでクリス、ようやく冷静になってきた。顔の赤みも引いていく。


「マリアの事件ですっかり忘れていたけれど、ロルフの誘拐の件はどうしようかしら。白警団に行っても無駄でしょうし」


 それを考えると憂鬱だ。だからといってこのまま無罪放免にもできない。この誘拐事件の顛末をエッセイにして公開することも考えたが、それも微妙だ。ロルフは作家だが、その奥に編集部や作家との付き合いもある。うっかりその人たちの地雷を踏もつけてしまう可能性もありえる。要するにしがらみがあるのだ。この方法もあまり良くはない。そもそも読者に需要があるとも思えない。


「だったらアレだ。あいつが持ってる会社を俺が買収し、ハンネスも俺の会社に引き抜こう。そうすれば事実上、ロルフもやばいことになるな」


 ここでクリス、性格悪そうに笑っていた。元来の性格の悪さ、そう簡単には治らないらしい。


「マクダはどうするのよ?」

「それはアンナ、君の実家で雇えばいい。元からそうつもりだっただろう?」

「そうね……」

「この古城も買収したいもんだわな。この成金風インテリアも、本当に趣味が悪い。こういう古城はきちんと管理して欲しいもんだ。歴史的な意義もあるんだから」

「そうね」


 結局、ロルフの対処についてはクリスに丸投げすることに。いつも通り、買収という手段になるが、仕方がない。


 そしてミステリーツアーの準備も着々と進み、夕方には全て完了した。あとは当日を待つばかり。肝心のクヌート所長もチェルシーの遺品目当てで来るらしい。テオも弟のハンネスの頼みというなら来るらしい。


 容疑者は揃った。イベントの準備も整った。そして当日。


 昼間からの開催だったが、島民が押し寄せていた。この古城を解放することは滅多にない。古城を自由に巡り、暗号を見つけて解いていく形も島民に受けているようだ。


「皆さん、ようこそ、いらっしゃいませ」


 私は古城の門の近くに立ち、来場者たちを出迎えていた。


「ミステリーなんて難しそうだけど、こういう体験イベントなら、いいかも?」

「プレゼントももらえるんでしょ?」

「ワクワクしちゃう。早く始まってほしい」


 島民たちの声が聞こえる。笑い声も混じる。このミステリーツアーイベント自体は、好評らしい。


「アンナ良かったな。ミステリーでも意外と嫌われてないんじゃないか?」


 隣にいるクリスも、笑顔で言う。


「そうね。肝心なのは見せ方次第かも」


 私は深く頷く。確かの我が国、推理小説はマイナージャンルだったが、見せ方を工夫すれば、まだまだ可能性がある。文壇サロンおじ様の発言をいつまでも気にしていられない。


「あ、クリス。見て。テオが来てるわ」


 ちょうどそこにテオが古城へ入ってきた。前と同じように重苦しい前髪。表情も不機嫌そうだった。キノコみたいな雰囲気は相変わらず。


「こんにちは、テオ。まずは一階のパーティールームでルール説明があるの。スタッフのハンネスやマクダの説明をよく聞いてね」


 私はテオに駆け寄り、古城の間取り図やルールをまとめたチラシを渡す。参加者全員に配っているものだったが、テオは私を睨みつけ、ひったくるようにチラシを取った。


 感じ悪い。とはいえ、ここに来ただけでも良しとしよう。


 その後、平和食堂のおかみさん、リネット店長、地元の歌手、魔法戦争資料館のリーゼ、レオン館長も続々と古城へやってきた。さらに古城は賑わいを見せる。中の方からは歓声や拍手の音なども響く。


「あ、アンナ。見ろよ。ついにラスボスがやってきた」

「本当だわ」


 そしてクリスを指さす方向にはクヌート所長がいた。今日は白衣姿ではない。真っ黒なスーツ姿だ。ネクタイもシャツも黒い。靴もツヤツヤな黒だ。末裔のロルフよりも、魔王のような風格さえある。論破魔王。そんな造語が頭に浮かんでしまうぐらい。


「成金令嬢が考えた暗号文なんて、鼻歌交じりで解けるわ。楽勝ー!」


 クヌート所長、私に嫌味を言うのは忘れない。しかも浮かれた声。まさかクヌート所長を捕まえる為のイベントとは夢にも思ってなさそうだ。完全に油断しきってる。


「クヌート所長、お越しいただき感謝ですわ。ええ、推理作家の私が考えた暗号文を解きながら、古城を探検してください。きっとクヌート所長には簡単すぎると思いますけど」


 私は笑顔をみせた。わざと口元を緩くし、バカっぽい笑顔。令嬢らしからぬ笑顔だが、クヌート所長を油断させたい。我が国は女がバカにされている。だったら逆手にとって利用しよう。


「そうだ。あんたの暗号文など、すぐに解いてやる」


 その作戦が上手くいったかは不明だが、クヌート所長は古城の中へ吸い込まれていく。


 敵は私たちの陣地へ入った。あとは罠にかかるのを待つだけ。


「クヌート所長、袋のネズミだとも知らずに……」


 クリスは笑いを噛み殺していた。実に性格が悪そうな顔だ。でも、ジョーカー役としてはピッタリ?

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