第35話 犯人がわかってしまいました?
リネット店長、もう夜が遅いので帰ってしまった。コテージには私とクリスだけが残される。
お茶を淹れ、しばらく二人で飲んでいたが、ここにきて重要な証言を得た。現場でクヌート所長を見たという証言だ。また現場に残されたネックレスもクヌート所長の持ち物だった可能性大。
「でもなんでリネット店長はオーレリアンに言わなかったんだ?」
クリスはそこが引っかかるようだ。お茶を飲み込むと、疑問をつぶやいていた。
「言っても無駄でしょう。あの無能なオーレリアンよ? それになぜリネット店長が現場にいたかって問い詰められたら? 歌っていたなんて言えないわ。バカにされるわよ。それにあの男、元々リネット店長に無礼だった」
「確かに」
クリスは腕を組み、深く頷いていた。
「そうよ。リネット店長の秘密、明かせないわ。重要な証言だったけど……」
そのことに気づき、全く喜べない。確かに犯人の名前はわかった。状況的にみてクヌート所長が犯人だろう。動機は生贄目的。人魚の代わりにマリアを襲い、願いを叶えようとした。その願いは、おそらく死んだ妻関連だ。墓場で項垂れていたクヌート所長の顔を思い出し、頬が引き攣ってしまう。もしかしたら、死んだ妻を生き返らせたいと願っていた?
「リネット店長の証言以外、目立った証拠もない。このネックレスも事件現場で落としたとも言えない。別の日に落としたと言い逃れができる」
「そうなのよね」
クリスと語りながら、頭を抱えてしまう。状況証拠は揃いつつあるが、物的証拠がない。客観的かつ科学的証拠は何もない。証言もリネット店長の事情を考えると公にもできない。もどかしい。
「クヌート所長は論破王だった。単なる男だったら、状況証拠で落とせるかもしれないが、相手は口達者だ。これは動かぬ証拠を示さないと、論破されるに違いない」
クリスの声を聞きながら、ますます頭を抱えそうになる。つまり、今も何の事件の進展はないのだ。全部私たちの思い込み、妄想だと言われてしまえば、反論できない。「はい、論破!」と笑うクヌート所長の顔が目に浮かんでしまう。
「まあ、アンナ。落ち着け。お茶でも飲め」
クリスにお茶を勧められ、ゆっくりと飲む。この時間にカフェイン入りの紅茶を飲んでいるのはどうかと思ったが、少し落ち着いてきたのも事実だ。
状況証拠しかなくても、犯人の影は掴んだ。もしかしたら、自白させるのも一手?
「ねえ、クリス。もう明日にでもクヌート所長に会いに行かない? で、説得して自白させるのよ」
「できるか?」
「墓場で泣いていたクヌート所長を思い出して。論破王だけど、根っからの悪人かしら? たぶん奥さんのことは愛していたから、ちゃんと話したら通じるんじゃない?」
「話せばわかってくれるなんて甘いぞ。自分勝手な目的のために女を殴ったヤツだぜ? そうだ、このネックレス使おうぜ。返して欲しければ自白しろと言うんだ」
「脅しじゃない。だめよ、それは……」
いつもみたいに性格悪そうに笑うクリス。相変わらずだが、そんなクリスを見ていたら、ちょっとホッとする。気が抜けてくるのも事実だ。
「そうだ、ロルフを使わない?」
そういえば、あの男。クヌート所長に謝罪していない。妻を殺した元凶の男・ロルフを使えば、クヌート所長も折れるだろうか。
「げ、あの男を使うのかよ」
クリスは露骨に嫌な表情を浮かべていた。よっぽど嫌いらしい。
「でも、ロルフを使ったら、クヌート所長も自白する可能性がある。あの男を利用してもいいんじゃない? 誘拐の件も全く反省していないけど」
「本当にな、あの男が全ての元凶じゃないか。反省しろと言いたい」
クリスは嘆息し、またお茶を啜っていたが、これ以上、クヌート所長を自白させる方法が思いつかない。不本意だったが、ロルフを使うのが一番だと決まった。明日、古城へ出向き、ロルフに事情を説明し、クヌート所長に会いにいく計画を立てる。
「しかし、クヌート所長、論破王だ。自白するか?」
「それでも、仕方ないじゃない」
クリスの懸念はもっともだが、状況証拠しかない今は、自白させるケースしか思いつかない。
「俺はクヌート所長、そう簡単な人物とは思わないが……。まあ、いいか。とりあえずロルフを使ってみよう」
「そうね!」
ここまで話すと眠くなってきた。今はカフェインも効果が薄くなってきたらしい。クリスはまだ眠くなさそう。もう少し何か語りたいと言ってきたが、まぶたの重さには勝てない。今日は平和祭りで楽しんだ。その疲れも出てきたのだろう。
「もう、寝るから。クリス、おやすみ」
「あぁ」
クリスはなんだか不満気だったが、まあ、いいか。もう眠気には勝てないし、明日は大仕事がある。クヌート所長を自白させるという大仕事が。




