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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第34話 重要な証言です

 リネット店長、私たちに歌手だと知られ、動揺中だった。顔は真っ赤だし、口元はわなわなと震えている。目も伏せ、ろくな声も出せていない。


 とはいえ、コテージに連れていき、お茶を飲ませると落ち着いてきた。一緒にカードゲームもした。ババ抜き、神経衰弱、ポーカーをしたが、リネット店長、ポーカーが強かった。クリスと互角に戦っていた。


 こうして緊張も解けた。夜がふける。波音だけが静かに聞こえてきたが、ここでようやくリネット店長は事情を話す。話すというよりは、呟くという感じだったが。


「私はね、歌が好きだったのよ。王都で少し歌手活動もしていたぐらい。でもね、才能の壁はあつかった。それに私の容姿でろくに聞いてもらえないことも多々あった」


 そう語るリネット店長の目は虚無だ。過去についてはなんの感情もなさそう。あえて感じないようにしているのかもしれない。


「そして島に逃げ帰ってきたの。はは、私は負け犬ね」

「そんなこと……」


 クリスは否定しようとしたが、口篭っていた。


「でも島の連中はそんな優しくもない。子供もいない独身女、女のくせに歌カフェ店長、よく笑われたわ。腫れ物扱いよ。ロルフたち魔王一族もそんな感じね。あの人たち、だから私のことあんまり悪く言わない」

「そ、それはよかったわ」


 淡々と事情を語るリネット店長。私もどう反応いいかわからず、無難な発言しかできない。


「そうね、私のこと悪く言わないのは同じ地元の歌手、魔王一族の末裔の人たちぐらいね。特に魔法戦争博物館のレオン館長は同年代でいい友達だけど」


 リネット店長、肩を落として、力無く笑っている。長年、島民からの笑い者にされてきたと思うと、なんて声をかけていいかもわからない。クリスも黙り込む。でもだからこそ、切なく歌えたのかもしれない。リネット店長の人生が滲んでいる歌声。今思い返すと、なぜあんな歌だったのか分かる。


「それでも、どうしても歌は捨てられなかった。好きだもん。だから、夜、海辺でこっそり歌ってたの。発声練習の意味もあった。このコテージのあたり、あんまり島の人たちもいないしね」


 謎の歌手の正体、はっきりした。リネット店長だった。気持ちも立場もわかる。私も文壇サロンおじ様たちに踏みつけられた過去がある。それを思い出すと、リネット店長の事情、よくわかってしまった。


「ええ、わかるわ。私も作家として色々言われるから。本格推理小説を書いていたけれど、文壇サロンおじ様に推理なんてやめろって言われたり」

「そうかい。アンナは私の気持ちがわかるか?」

「同じ女としてよくわかるから」


 思わずリネット店長の手をさすり、深く頷く。この様子にクリスは咳払いしていた。クリスは男だ。色々と理解があるとはいえ、我が国の女の生きにくさは理解できないのかも。居心地悪そうだが、私たち二人ともこの件は決して口外しないと約束した。


「ありがとう、二人とも」


 リネット店長、安堵したのか項垂れていた。窓の外を眺めている。遠い目だ。その横顔、若者には決して出せないような色気がある。見た目は地味な女性だったが、それだけじゃない。


 そんなリネット店長の姿に、クリスはさらに居心地悪そうだ。また咳払いすると、話題を変えた。引き続き事件を調べていることやテオの容疑は晴れつつあり、クヌート所長を疑っていることなど。


「ク、クヌート所長?」


 さっきまで遠くを見ていたリネット店長だが、その言葉にビクッと反応していた。クマにでも出くわしたような反応だった。


 頬や指先は固まっていた。これは何か事情があるにに違いない。私はリネット店長のためにお茶をそそぐと、聞いてみた。


「何か事件について知っていることはない?」


 それに事件現場のネックレスも見せた。今のところ、持ち主は不明だが、何か手がかりが見つかるかもしれない。


 リネット店長は俯き、あまり話したくなさそやうだ。


 それでも、事件解決のためには仕方ない。


「リネット店長、被害はマリアだけじゃ済まないかもしれない。もし犯人が人魚の代わり、生贄目的で暴行したとしたら、また別の被害者が生まれる可能性もある」


 考えたくないことだが、可能性はゼロじゃない。最悪の自体も想定する。私はリネット店長の手を握り、極力優しい声を出す。


「リネット店長、お願い。あの事件の夜、何か見なかった? もちろん、あなたが歌っていることは口外しない。約束するわ」

「アンナの言う通りだ。俺も約束する。この件は絶対に誰にも言わないから」


 今まで黙っていたリネット店長。お茶を飲み、深く息を吐いた。


「あなたの歌、素晴らしかった。島の人たちなんかに教えたくないし。そうだわ、王都で私の家に来ない? 私の誕生日や結婚パーティーで私とクリスだけに歌ってくれないかしら?」

「アンナ……」


 ここでようやくリネット店長、私たちを信頼してくれたらしい。もう一度、息を吐くと、あの事件の夜の話を語り始めた。


 あの夜、いつものように歌っていた。その時、ちょうど帰宅途中のマリアを発見し、急いで岩陰に隠れた時だった。人影を見たらしい。


「暗くてよく見えなかったけど、マリアの後をつけていた男を……」


 リネット店長は声を低くし、その男の名前を口にした。


「クヌート所長だった。いえ、暗かったから確証はない。私の見間違いかもしれないけれど……」


 そして例のネックレスを見つめて続けた。


「これはクヌートの妻、チェルシーがよく身につけていたネックレスと似てる。形見かしら……?」


 声が詰まったのか、リネット店長はこれ以上、何も語らなかった。


「これ、やっぱりクヌート所長の落とし物?」


 私の疑問に誰も答えなかったが、一つだけわかった。これは重要な証言だ。私たちの推理、的外れでもなかったらしい。

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