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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第33話 謎の歌手の正体

 平和祭りは大盛況のうちに終わった。ステージでは劇やダンス、それに地元の歌手のパフォーマンスも楽しめたし、屋台の料理でお腹いっぱい。


 夕方にコテージに帰っても、全くお腹が空かず、結局、クリスと二人で暗号作りに興じていた。あのテオとの一件もクリスにも報告済みだ。ますますクヌート所長が怪しくなっていたが、証拠はない。つまり、事件の進展はなく、こうして暗号文作りに戻ってきたというわけ。


「しかし、いっぱい暗号文作ったな。さすがアンナじゃないか」


 気づくと、もう十本以上の暗号文を作ってしまった。クリスも関心するほどだが、今のところ本格推理小説の執筆予定はない。依頼もない。企画すら求められていない状態だった。この暗号文、作っただけ無駄になりそう。クリスにだけは認められていたが。


「そうだけど、なんか勿体無いわ。今のところ、本格推理小説で使えそうにないし」


 窓の外から波音が響く。もう夜になっていたせいか、カモメの鳴き声はあまり響いてこない。


「それに結婚の予定もあるでしょう。エドモンド編集長、最近は気を使ってスケジュールも余裕入れてくれるのよ」

「そうか、あの編集長、意外と優しいな」


 クリスはそう言った後、何かを閃いたようだ。ポンと手を叩き、この暗号文、イベントに使えないかと提案してきた。


「イベント?」

「他の国ではミステリーツアーイベントっていうのをやっているらしい。どこかの会場を貸し切り、参加者一人一人が暗号文を解きながら、宝を探すゲームだ」

「なるほど」


 私もそのイベントは聞いたことがある。しかし我が国、推理小説は受けない。もしそんなイベントントを開催しても、客が集まるかは未知数だ。協賛してくれる出版社や企業など無いだろう。面白そうな企画だが、現実的な問題がある。


「だったら俺が金出すし。っていうか、何ならロルフの古城でも貸し切ってイベントでも開こうじゃないか」

「えぇ、そんなのできるの?」

「できるさ。あいつは誘拐犯だぜ。ちょっと脅せば、イエスとしか言うしかないだろ」

「とは言っても……」


 古城でミステリーイベントの企画。何とも魅力的だ。思えばタラント村でもアサリオン村でもなぜか本格ミステリーのような推理は全くできなかった。依然としてこの島でもその傾向にあるが、もしミステリーイベントができたら?


「このイベントに怪しい人間、容疑者全員招待して、自白させるって可能かしら?」


 そんなアイデアまで浮かんでしまった。やっぱり推理が好きだ。ちょっと考えただけでも色んなアイデアが溢れてしまう。


「いいアイデアじゃんか。それ、やろうぜ」

「でも、できる?」

「古城のロルフにも働かせるんだ。あそこは昔、パーティーもやってた。できないイベントでは無い。なんせもう暗号文はできてる」


 クリスはノートを取り出す。そこに古城の間取りをざっと書き、暗号文の配置場所を書く。一つ暗号文を解くたびに次の宝箱の場所が明らかになる。そして、そこには新しい暗号文があり、さらに新しい宝箱を探す。最終的に古城の隠し通路にある宝箱を最初に見つけた人が優勝。中に賞金が入ってる。


 いいアイデアだ。考えただけでもワクワクしてしまうが、クリスにそこまで協力させるのは悪い気もする。こんなの、完全に私の趣味じゃない。


「そんな遠慮するな。アンナの願いは俺の願いさ」


 まっすぐに見つめられ、甘い言葉もくれる。思わず、頬がぽっと熱くなってしまう。


「い、いえ。クリスこそ、本当に願い事はないの?」

「ない。むしろアンナの願いを叶えたい」


 耳元で囁かれた。クリスの掠れた声、今まで以上に色気が漂い、冷静さなんて全部抜けていく。


「い、いえ。じゃあ、私がクリスに死んでって頼んだら死ぬの? さすがにそれは無理では?」


 あえて無理難題をふっかけてみたが、クリスは涼しい顔で頷く。


「いいさ。アンナの為だったら俺の命もあげよう」

「な、何言ってるの?」


 信じられない。こんなセリフ、さらっと言えてしまうなんて。


「何か? 変か? それが女を愛することではないのか? 普通だろ」

「わからない。クリスの普通って?」


 だんだんと頭が混乱してきた。一体、クリス、何を考えているのだろう。そこまで私のことが好きとか、全く想像できないのだが。逆に私がクリスのために命を捨てられるか、わからない。


 これ以上、何も言えない。ずっと頬が熱っている。熱でも出たみたいじゃない。一方クリスは平然とお茶を飲も、暗号文を眺めていた。


 タイミングが悪いことに、また窓の外から歌声が響く。あの謎の歌手の歌声だった。切ない人魚の声を歌い上げ、私たちのムードも妙に熱っぽくなっていく。


 クリスは私を見つめ、目元も潤み、無言。冗談でも言ってくれればいいのに、まっすぐに見つめているだけだ。私の頬の温度はさらに上昇中。本当に熱が出そうだと思った時。


 急に謎の歌手の声が止まる。


「何?」


 マリアの事件の時も歌声が急に止まった。嫌な予感しかしない。私はクリスと目を見合わせると、コテージを飛び出した。


 今夜は月も星も見えない。薄暗い中だったが、砂浜に降り、歌声が響く方向に走る。ちょうどマリアの事件現場も通り過ぎ、さらに奥の方へ足を進めた。


「え?」


 変な声が出た。薄暗くてよく見えなかったが、そこには、意外な人物がいたから。クリスも目を丸くしてる。裏切られたとでも言いたげの顔。


「アンナ、それにクリスも……」


 リネット店長の声が響く。波音が響く中でもちゃんと聞こえた。あの謎の歌手、まさかリネット店長?


 今も黒っぽいワンピースにメガネ姿だ。髪も一つにまとめ、とても地味だ。とても歌手には見えないが、状況的にそうとしか言えない。


 それによく考えたら、リネット店長の声質自体は良かった。先入観さえとれたら、別に不自然でも何でもなかった。歌カフェの店長の仕事もしている。歌が好きなのも間違いない。


「どういうことなの? リネット店長、何か知ってるの……?」


 私の声は波音にかき消されてしまう。


「リネット店長、うちのコテージで事情を聞いてもいいか?」


 一方、クリスの声はハッキリしていた。リネット店長もクリスには逆らえないようで、深く頷いていた。

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