第31話 お祭りを楽しみましょう
そして、平和祭り当日になった。もちろん、私もクリスも参加予定だ。私は全く成金令嬢に見えない白いワンピースを着た。クリスもラフな白シャツに短パンという格好で、お祭りの会場へ向かう。
会場は島の中央にある公園だった。前日に式典も開催され、こちらは真面目な雰囲気らしいが、今日の平和祭りは島民の劇や歌などのイベントも多く、自由な雰囲気。
会場に近づくと、すでに人混みができていた。花火の音も響き、ここからお祭りムードが漂う。
「すごい、ねえ、クリス。楽しそう!」
「そうだな、今日は事件を忘れて楽しむか」
クリスも楽しそうだ。もっとも事件は何も進展してなく、暗号文だけが大量にできている状態だ。ロルフにも会っていない。誘拐事件もあやふやになっていたが、せっかくの祭りだ。楽しもう。
「我が国は魔法を取り戻すべきです!」
「他国は魔法で国防している!」
「魔法を取り戻し、強い国にするべきだ!」
「魔法復権!」
門の近くでは魔法復権を願うデモ団体がいた。大声で何か主張し、白警団のオーレリアンも逮捕するぞと揉めていた。ここだけお祭りの雰囲気とは無縁だった。他の客たちも避けて歩いていた。
王都でもこういうデモ団体がいた。確か誘拐される直前にも見た。
「大方、利権を主張しているんだろうな。寄生虫だな」
隣にいるクリス、デモ団体とは全く目を合わせず吐き捨てた。
「魔法で? 利権もあるの?」
「ああ、他国は魔力を手放していないからな。利権で楽できる。要するに金儲けだ。会社でも作ってビジネスすればいいのに。こういうヤツらはどこにでもいるな」
「つまり、魔法やオカルト自体に興味があるって感じでもない?」
「犯人の可能性は低いかもしれない」
お祭りなのに、結局、二人で推理をしてしまった。まだ事件が解決していない焦りもあるのかもしれないが、会場に入ると、平和を象徴した白い花をもらった。
それに屋台も賑わっていた。ステージの方は混み合っていけないが、屋台で買い物することに。
「クリス、見て。この貝殻のアクセリー可愛くない?」
「それはいいな。店員さん、いくらだ?」
貝殻のアクセサリーも買ってもらった。貝殻とビーズのブローチだ。さっそく胸元につけたが、クリスは満足気に頷く。
「ありがとう、クリス!」
「こんなのお安いもんだ」
相変わらず偉そうな態度のクリスだったが、他にも海塩のバスソルトの店、島の伝統的な織物、楽器の店など、どこを回っても楽しい。
私達もすっかりお祭りムードにやられ、屋台を回っていた。もちろん、絶品お魚料理にも目がない。平和食堂や波音食堂の屋台を見つけ、魚の串焼きやフィッシュバーガーも購入。
さっそく会場の食事スペースに向かう。混んでて席を確保できなかったが、どうにかすみの方にあるベンチに座れた。
魚の串焼きもフィッシュバーガーも絶品だ。ついつい無言で食べ続け、至福の時を過ごす。
「とっても美味しいわ。本当、事件のことなんて全部忘れそう」
「まあ、アンナ。今日ぐらいはいいだろう。どうせ、まだ進展はなさそうだ。焦るな。焦ってもろくな推理はできない」
「そうよね、楽しみましょ!」
という事で今日は徹底的に事件を忘れ、お祭りを楽しむことにした。
次はステージの方へ向かい、観劇することに。レオン館長からチケットをもらったおかげで、比較的前の方の席がとれた。
この島の子供たちの劇だった。魔法戦争時代を舞台とし、自分の願いを叶えようとした少年の物語。タイトルは「魔法で願いを叶えたとそても」。この島で古くから伝わる物語らしい。
主人公の少年は魔法戦争により貧困になった。食べるものにも困り、ついには魔法に金持ちにしてほしいと頼る。結局、願いは叶ったが、家族を戦禍で失い、少年は幸せになれなかったというバッドエンド。
「魔法を使っても幸せになれなかった」
そんな少年のセリフで劇は終わった。後味は悪いのに、なぜかグッとくる物語だった。教訓があるかもしれない。
「クリス、やっぱり魔法を使っても、幸せになれないの?」
劇が終わった後、思わず呟いてしまうぐらいだ。拍手喝采で私の声はかき消されそうだったが。
「そうだな。犯人もマリアを生贄にして願いを叶えようとしても、幸福感は感じていないだろう」
クリスはいつものように性格悪そうな顔で言う。
「だから俺は仕事でも恋愛関係でも、ルールに反することは絶対にしないぜ」
「そうかしら。ぜいぶんとしつこい印象よ。特にアサリオン村の時のプロポーズ」
「でも、魔法は使っていないだろ?」
隣にいるクリス、自信満々だ。その根っこがわかった気がする。クリスは性格は悪いが、ズルをしたり、ルール違反はしない。もちろんロルフのように誘拐なんて手段は取らなかった。プロポーズもしつこかったけれど、私が嫌がることは決してしなかった。たとえそうでも、すぐに謝れる人だ。性格が悪いのも経営者として大きく振る舞っているだけ。根っからの極悪人ではないこと、私が一番よく知ってる。
そうか、私。クリスのこういうところが好きなのかもしれない。私も十分クリスが好きなのか。今、気づいた。胸がぽっと温かくなってきた。
「クリス、あなたと結婚できるの、我ながらいい判断だったと思うわ」
今日はお祭りだ。いつも以上に島の空気に感化され、素直になってしまった。隣のクリスは顔を真っ赤にさせていた。珍しい。タラント村でのプロポーズした時以来じゃないか。
「やめろよ、照れるだろ……」
「いいじゃない? 次は音楽やダンスの舞台、見に行く?」
クリスは大人しく頷いていた。悪くない。こんなクリスを見るのも面白い。私は思わず吹き出ししまっていた。




