第29話 絶品お魚料理でリフレッシュしましょう
私とクリス、魔法資料館を後にした。精神的には疲れた。事件の進展もなかったし、過去の我が国の過ちを考えるだけでも憂鬱になりそうだが、資料館を出た時、時計を見たらちょうど十二時。
「クリス、お腹空かない?」
「そうだな。行くか」
ということで、クリスと二人で魔法戦争資料館の周辺を歩く。このあたりは図書館や役所などの公共施設も多いが、一軒だけ食堂を見つけた。
店名は平和食堂だった。路地裏にあり、外観はぼろっとし、綺麗ではなかったが、いい匂いが漂う。これはきっとお魚スープの匂い!
この匂いには逆らえない。クリスの腕を引っ張り、半ば無理矢理この食堂へ。
中は狭く、雑多な雰囲気だ。壁にはメニューや平和祭りのポスターなどがはられている。島の民芸品や貝殻の飾りもあり、ごちゃごちゃしてる。決して綺麗ではないが、客たちや店主がワイワイと賑やかだ。
「美味しい! クリス、ここのお魚スープも絶品!」
さっそくお魚スープを注文し、一口食べるが舌が溶けそう。ミルク仕立てで赤身魚がゴロゴロとし、味が染み込んでいた。このスープだけでも満足しそうだが、付け合わせのパンとも相性がいい。パンをスープに浸して食べると、さらに美味しい。
「クリス、魔法戦争資料館は憂鬱になりそうだけど、これは美味しいわ」
「だなぁ。すっかり生き返るよ」
しばらくクリスと無言で食事中だった。フィッシュバーガーも注文し、これも白身魚が絶品で、二人とも無言になってしまう程だったが、ちょうどその時。
レオン館長がやってきた。どうやらレオン館長も昼休憩らしい。店は混み合っていたので、レオン館長と相席となった。少し狭いが、こんな絶品お魚料理を食べているのだ。文句など出てこない。
「ここは島の地元の人しか知らない食堂ですからね。アンナさんたち、よく見つけてました。穴場ですよ、うまいんだな、これが」
レオン館長はそう言い、フィッシュバーガーを楽しんでいた。大口をあけ、雑に食べている。見た目は知的なおじ様だったが、それだけではなさそう。少し親しみも持てるぐらいだったが、ふと、顔が曇っていた。
おかしい。こんな絶品お魚料理を食べて顔が曇ることなんてあるのだろうか。
私は首を傾げてしまうが、クリスはレオン館長に尋ねていた。今日は珍しく極悪な顔を見せていない。魔法戦争資料館に行き、今は丸くなったのかもしれない。
「いえ、テオのことが心配で。あいつは劣等生だった。弟のハンネスと比べたら出来が悪い。でも、かえって可愛いというか。わかるかね?」
レオン館長、目尻に皺が出ていた。優しそう。この人、仕事中はキリッとしているタイプだが、私生活では気のいいおじさんかもしれない。
「だからテオがマリアを殴ったとか信じられない。まあ、ストーキングみたいなことはしそうだが、暴力方面に行くとは考えたくないんだよ。あいつは気弱だし」
「レオン館長、まさかテオを庇ってません? アリバイもあなたと一緒だから成立したと聞いている。嘘ついてません?」
クリスは目を光らせていた。やっぱ性格が悪そうだったが、レオン館長はすぐに否定した。あのマリアが襲われた時、ちょうどここでテオと二人で食事中だったといいう。
「本当?」
私はすぐに席から立ち上がり、厨房の方にいる店主や店員に確認した。あの時、テオとレオン館長、客として来ていたとはっきり記憶していた。これ以上の証言はない。
「ありがとう、店員さん。美味しいお魚料理もありがとうね」
そう言って席に戻ったが、ますますテオが犯人から遠のいてしまったではないか。
がっかりだ。調べれば調べるほど、テオの無実が証明される。一方、新しい容疑の影も形も出てこない。魔法戦争資料館への来たこと、事件についてはあまり意味はなかったかもしれない。
「そうか。テオじゃなかったら、一体誰が犯人だろう……」
レオン館長も腕を組み、考え込んでしまった。
「何か知りません? あ、あと私たち、コテージの近くで綺麗な歌声も聴きました。誰が歌ってるか謎ですが、心あたりは?」
ここでクリスはさらに質問をしていたが、レオン館長、はっと顔をあげた。
「その歌、去年一回だけ聞いたことある。コテージの方だろう? いい歌声で惚れそうだった」
レオン館長、顔が赤い。知的なおじ様という第一印象が崩れていく。
「私は研究や仕事漬けだった。結婚には縁がなかったからね。まるで人魚のような歌声に、若い頃の気持ちを思い出したよ」
遠い目をしているレオン館長。ロマンティストかもしれないが、私までちょと恥ずかしくなってきた。クリスも咳払いしている。この島の人たち、全体的に嘘がつけず、素直な性質があるらしい。この事件の犯人も下手に推理するより、対話し、自首までもっていく方がいい?
そんな気がした時、壁に貼ってある平和祭りのポスターに目がとまる。日付は明後日だ。会場はこの島の中央公園で音楽や演劇のイベントもあるらしい。レオン館長によると毎年盛り上がるという。
「アンナさんもクリスさんも是非、平和祭りに来てくださいよ」
レオン館長に誘われ、イベントの優先チケットや屋台の割引券ももらってしまった。屋台ではお魚料理も楽しめるという。
「もちろん、行くわ。楽しみ!」
平和祭りが楽しみだ。結局、今回は事件の手がかりは見つからなかったが、楽しみは見つけられた。クリスも穏やかに笑っている。悪いことばかりじゃなさそう。




