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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第25話 動機がわかったかもしれません

 私たちは隠し通路を抜け、使用人の館へ。そのまままっすぐにマクダの部屋に入り、休んでいた。


「まあ、とりあえず、お茶でもしない? クッキーも焼いてあるから」


 このマクダの提案には断れない。クリスと共にお茶やクッキーと共に一休みしていた。


 思えば昨日は島を歩きまわり、マリアの事件にも遭遇した。気は休めていなかったが、今は少し肩の荷も降りそうだ。お茶も美味しい。マクダが作ったクッキーも最高。クリスも笑顔でクッキーを齧ってる。


「やっぱりマクダ、王都で私の実家で働かない? 給料はここの倍以上出すわ。もちろん、ボーナスも」


 このクッキーの味、この孤島だけに閉じ込めておいたらもったいない。ついついまたマクダをスカウトしようとしたが、クリスはやんわりと止めてきた。


「それよりアンナ。その紙箱は何だ? 隠し通路にあったものか?」


 クリスは例の紙箱を指差し、頷く。


「ええ。中には魔導書があったわ」


 私は紙箱から例の魔導書をクリスやマクダにも見せる。古い紙の匂いが漂い、二人ともくしゃみをしていた。想像以上に古い本だ。


「チェルシーの私物っていう紙箱に入っていたの。チェルシーって誰?」


 くしゃみをし、鼻をぐずぐずとさせていたマクダだったが、その名前を聞いた瞬間、さっきと同様、露骨に顔が曇った。下を向き、唇も硬く閉ざしていた。普段クールなマクダだったが、こんな表情、はじめてだ。


 一方、クリスは鼻をハンカチで抑えつつ、魔導書を開く。私が古語を教えながら、内容を説明すると「魔法って案外物理的、科学的な面もあるんだな」と感心していた。とはいえ、動物を殺して魔力を得るテーマについては引いていた。


「魔法ってよくないな。むしろ残酷な面もあるじゃないか。百年前の魔法戦争後、我が国が魔力を放棄した意味、わかるな。こんな力、人間には正しく使えない。絶対に悪用するだろう」


 クリスはしみじみとつぶやいていた。私も全く同意見だ。動物を殺して魔力を得るとか、暴力性も感じる。例え魔力で願いが叶ったとしても、それでスッキリと満足できるかわからない。むしろ、ズルしてゲームに勝ったような後味の悪さもあるんじゃないだろうか。こんな魔法に頼るのは、よっぽど酷い状況の人かもしれない。貧乏だったり、家族がいなかったり、病気だったり。要するに判断力が低下している人。


「そうよ、魔法なんて全くよくない……」


 ふと、ずっと黙っていたマクダが呟く。


「ロルフも魔法肯定派で、魔法の実験もしてた。でも失敗し、この古城の半分以上吹き飛ぶ事故も起こしたからね。亡くなったメイドもいるから」


 そう語ったマクダは、例の紙箱をじっと見つめていた。


「もしかして、チェルシーがその亡くなったメイド?」


 そんな気がして言うと、マクダは頷く。その目は潤んでいた。


「ええ。チェルシーはいい先輩だったわ。ロルフっていうか、やっぱり魔法は大嫌い。アンナやクリスの言う通りよ。人は魔法を正しく扱えない」


 マクダの言葉にもう誰もクッキーもお茶も楽しんでいなかったが、クリスははっとしていた。何か勘付いたらしい。


「もしや、製薬研究所のクヌート所長、チェルシーの夫か?」


 クリスの発言に私もはっと顔を上げた。確か論破王のクヌート所長、そんなようなことを言ってた。


「よく知ってるわね。その通り。チェルシーの夫はクヌート所長」

「チェルシーってどんな方だったの? マクダ、何か事件と関係あるかもしれない。詳しく教えて」


 私は思わず身を乗り出し、聞いてしまう。マクダは話したくなさそうだったが、渋々教えてくれた。


 チェルシーはベテランメイド。ガイスト家の親族ではなかったが、かなり優秀だったという。夫との仲も良いが、子供はなく、そのこともコンプレックスだったらしい。


「我が国で子供がいない女は肩身が狭いからね。だからか歌カフェのリネット店長とも仲良かったかな。あの人も独身だから。ええ、魔法にも興味があるみたいだった。この古城の図書室、魔導書の管理もチェルシーの仕事だったけど」


 チェルシーの人となりが見えてきたが、クヌート所長との仲良かったとは。あの論破王に付き合える女性、想像がつかない。


「クヌート所長はどんなやつだ? こんな妻を失い、ロルフを恨んでるんでは? 俺だったら千倍にして復讐するぞ」


 クリスはそこに引っかかったらしい。腕組みし、口元が強張っている。納得いないとでも言いたげだ。眉間に皺も寄っていた。


「それが意外にもクヌート所長、葬儀の時も冷静で。全くロルフを恨んでる風じゃなかった。むしろ、悲しみでいっぱいの顔だった。確かに論破王で癖のある人だけど、あの時は可哀想だった。まあ、これで島の人はクヌート所長には腫れ物扱いって感じね。同情はしているけど、深く関われないっていうか。ちなみにロルフは上級国民だから何のお咎めもなしだったわ」


 なるほど。チェルシーやクヌート所長のこともわかってきたが、まだ事件に関するものはわからない。


 結局、ここにいる全員、魔導書の内容が気になり、私が古語を解説しながら、読み進めていた。


 人間に知能が近い動物を殺すと魔力が増えるということだったが、その中でも一番は人魚。


「人魚を殺すと、魔力が増え、永遠の命が得られるかもしれないって書いてある。え、あの人魚伝説の話、嘘じゃなかったの?」


 古語を解読しながら、こんな文章もあり、一同全く笑えない。


 しかし、この魔導書、相当古い。紙も劣化し、一部虫に喰われてしまっていた。それ以降の魔導書も内容、三人の知恵を合わせても、解読できない。


「この人魚伝説のように永遠の命を得るために、マリアが殴られた可能性はない? 確かにマリアは人魚じゃないけれど……」


 私はその可能性に気づき、血の気が引いてきた。知能の高い動物を殺せば魔力が増える。その法則通りなら、もし人間を殺したら……?


 それ以降は考えたくない。ただ、何らかの事情で、永遠の命を得たくて魔力に頼った。修行や呪文に限界があり、ついに人を殺すまでいきつくのは、自然な流れではないか。


 なぜマリアがターゲットにされたかは不明だったが、見た目だけなら人魚に似ている。もしかしたら、人魚と見間違えられて殴られた可能性も捨てきれない。


 マリアが襲われた動機は、永遠の命を得るため?


 そんな推理を披露すると、クリスはパチパチと拍手を送っていた。マクダも頷いてる。


「その推理、いい線いってる。第一容疑者のテオにもアリバイがある。別の犯人がいるとしたら、動機は永遠の命の為だろう。おそらく魔法やオカルトに傾倒している人物だ」


 そんなクリスの声を聞きながら、やっぱりロルフが怪しくなってきた。確かに完璧なアリバイがあるが、魔法についてはあの男が一番詳しいはずだ。魔王の末裔だ。百年前の歴史も何か知っているかもしれない


「ロルフと賭けをしている場合じゃないわ。ここは事件解決のため、協力してもらった方がお得!」


 私はそう言うと、再び隠し通路に走った。古城に戻るためだ。


 正直、ロルフは変な男だと思う。誘拐犯でもある。あまり関わりたくないが、事件解決の為なら仕方ない。

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