第23話 賭けをしましょう
海辺にそびえる古城。遠目には美しい。海の色とも調和し、情緒豊かに見えたものだが、近くで見ると、そうでもない。
城壁はぼろぼろ。魔法戦争時代、爆撃を受けた跡が今でも残っている。壁も色褪せ、近くで見るものでもない。それに中はセンスの悪い成金風だ。これ以上に遠目で見るのにぴったりな場所が思いつかない。
「なんだ。古城といってもどうにもボロいな」
古城の前に到着すると、クリスはニヤっと笑っていた。
「こんな城に住む主人も大したことないだろう」
「もう、クリス。推理はどうでもよくてロルフにマウント取りたいだけでしょ?」
マリアを襲った犯人をロルフだと決めつけ、古城までやってきた私たち。クリスはどう考えてもも推理目的で来たには見えない。昨日の夜に続き、単純にロルフとマウント取り合いたいのだろう。
案外、子供じみた部分があるクリス。この島の解放的な空気に感化されたのかもしれないが、ため息しか出ない。ロルフにはアリバイもある。どう考えてもマリアを襲った犯人ではない。ここに来たのも無駄足になりそうだったが、ちょうど門の方からマクダが現れ、古城の中へ案内された。
この正門から入るのは初めてだった。一階のは豪勢なレセプションルームやホールもあるという。締め切られた部屋がいくつか見えたが、確かにどれも広そうだ。
「昔はよくパーティーをしていたみたい。でもこんな古城にお客様も来ないし、今はすっかりカビ臭いわ。全く掃除していないから」
マクダは呆れつつも案内してくれ、二階のダイニングルームの到着した。
誘拐された時も来たダイニングルームだったが、相変わらずの成金風のインテリアだった。巨大なシャンデリアや大理石のテーブルなど、高級感はあったが、一つ一つの主張が激しく、センスはまるでない。
「趣味悪い部屋だな」
クリスはマウント取るというよりは、素直な感想を口にしている模様。
もっとも壁にかけられた代々魔王の絵は、歴史が滲み、そこだけは成金風ではなかったが、すぐにロルフもやってきた。
ハンネスもやってきた。マクダとともにお茶を振る舞ってくれが、昨日より不機嫌そうだった。テオの件で不機嫌なのかもしれない。
「やあ、アンナ。今日の清楚なワンピースはよく似合ってるね。あざといぐらい綺麗だ」
ロルフ、さっそく口説いてきた。婚約者のクリスのいる前で、堂々としたものだ。相変わらず深めのいい声で口説かれたが、私の隣にいるクリスは露骨に舌打ちしていた。こっちはかなり機機嫌が悪い。既に極悪モードにスイッチが入ったかもしれない。
私はこんなクリスの要素を察し、ロルフの発言は無視した。元よりロルフには全く興味はないが。
「しかし趣味の悪い古城だな。主人のセンスが出てる」
クリス、やはり極悪モードにスイッチオン。口元は一応笑っていたが、出て来る言葉はチクチクだ。
「ちょ、クリス。本当のことを言ったらダメよ」
私はクリスを止めようと試みたが、なぜかマクダは吹き出し、ケラケラと笑っていた。
「うっさい、お前ら! 他人の古城に押しかけて何の用だよ? 失礼だ!」
ハンネスはキャンキャンと吠えていたはが、クリスは余裕。意外にもロルフも余裕だった。そしてまた二人で睨みあい、野良猫のようにバチバチと視線をぶつけている。むしろ二人とも楽しんでいるみたい。
「お前、誘拐犯だろ。マリアもお前は殴ったんだ。白警団に突き出すぞ」
「何を言ってるんだ、極悪経営者さん? マリアの事件のとき、君たちと一緒だったじゃないか。このアリバイはどう崩す?」
ロルフのツッコミ、真っ当だ。ハンネスも声援をおくり、ここは一気にロルフが優勢。
「たが、お前らが誘拐事件を起こしたのは明白だ。毒物も盗んだ罪がある。さて、これは白警団もスルーするかい?」
一方、クリスは全く顔色を変えずに反撃。マクダも目を丸くするぐらいだったが、ロルフは切り札を出してきた。トランプのジョーカーか?
「そうはいっても、私は一応魔王の末裔だ。かつては我が国を支配するほどの力を持っていた。いわゆる上級国民だ。白警団もやすやすと捕まえることなんてできない」
とんでもないジョーカーだった。私は何も言えない。ハンネスはパチパチと拍手してる。その音がダイニングルームに響くなか、クリスは、いつも以上に冷静だ。そしてロルフを真似るかのように、わざと低い声を出してきた。
「だったらロルフ。賭けをしようではないか」
一瞬、沈黙。ロルフはクリスの言葉の意味がわかっていないようだた。戸惑い、目をパチクリとさせていたが、私にはわかる。
タラント村でもアサリオン村でもクリスは賭けを持ち出してきた。二度とあることは三度ある。もはや全く驚かないが、その内容は予想外だった。
「先にマリアの事件の犯人を見つけたら、アンナの結婚できる。どうだ、この賭けは。乗ってみるか?」
クリスは相当自信があるのだろう。一切顔色は変えない。堂々とし、落ち着き払っていた。
「いいだろう。その賭けに乗ってみる」
ロルフは頬をひくひくとさせ、少しは動揺していたが、すぐに同意し、またクリスと睨み合っていた。ハンネスはロルフに声援を送り、マクダは呆れつつお茶のおかわりを注いでいたが、ちょっと待て。
賭けのネタにされた私の意思、意見は無視?
「ちょっと、クリス。何、勝手に私を賭けのネタにしているの?」
「大丈夫だ。俺が勝つに決まってる」
クリスは自信満々だったが、そういう問題ではない。
「いいや、俺が勝つ!」
ロルフもクリスに感化されたのか、やたらと胸を張り、顎もつんとあげていたが、万が一、クリスが負けたらどうなるの?
というか、私の意見を無視して話が進行していく様子に違和感しかない。
「ちょっと、私の意見は無視!?」
一応、大声で言うが、クリスもロルフも無視だ。二人とも野良猫のように睨み合いを続けていた。
「もう何なの……」
呆れてものも言えない。クリスの性格もわかっていたつもりだったが、ここに来て子供らしさを隠しもない。ため息が出てくる。このままいくと、マリッジブルー的な何かを患いそう。
いてもたってもいられない。この場所にいるのがしんどくなってきた。
クリスの気持ちもわかる。婚約者が誘拐され、ちょっかいをかけてきた男が現れた。余裕がないのはわかるが……。
もう耐えられなくなってきた。恋愛小説では「私のために争わないで!」というシーンだが、いざ自分がその立場に立つと微妙だ。
気づくと私はダイニングルームを飛び出していた。向かった先は古城の隠し通路だった。なぜ、こんな通路に逃げ込んだかは謎だ。本格推理小説家の私でも、よくわからない。




