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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第22話 推理にはアリバイが重要です

 翌朝、私は波音で目が覚めた。王都では考えられない生活だ。いつもは目覚まし時計で起こされていたが、波音で目覚めるのも悪くない。


 窓の外を見るといいお天気だ。今日も日差しが強い。窓を開け換気もしたが、今日は風は強い。


「はぁ。よく寝たわー」


 換気を終えると、一通り身支度をし、今日も軽いワンピースに着替えた。色は白く、袖はふわっとし、裾にはレースもたっぷり。清楚風だ。この格好で成金令嬢とは言わせたくない感じ。


 じいやから送ってきた荷物を探すと、帽子やサングラスもあった。


「わぁ、じいや気がきくわ! 本当によくできた執事!」


 これで日差しの強い島を歩きまわるのも苦じゃないだろう。


 しかしクリスはまだ寝ていた。昨日はあの後、疲れ切ったクリスはすぐに寝てしまった。私もすぐ寝たが、マリアが何者かに殴られた。事件が起きてる。今日も事件調査だ。いつまでも寝ているわけにはいかない。


「クリス、起きて。もう朝だよ」


 一階のベッドで眠っているクリスを揺り動かす。まつ毛が長く、相変わらず寝顔だけは綺麗なものだったが、すぐに起きてきた。


「おはよう、クリス。さあ、今日も推理するわよ!」

「アンナ、朝から元気いいなぁ。っていうか、今日のアンナも綺麗だ」


 不意打ちに褒められた。寝起きの無防備な声で言われ、いつもより甘いんですが?


「褒めても何も出ないから!」

「いやいや、その白いワンピース、よく似合ってるぜ。誰にも成金令嬢とは言わせないっていうオーラがある。素晴らしい、完璧だ」


 露骨に褒められた。もう私の顔は真っ赤だ。こんなさらっと甘い言葉を言われ、嬉しくない女がどこにいようか。恋愛偏差値が限りなく低い私でも、嬉しいものは嬉しい。


「ク、クリスだっていい寝顔だったわよ」

「あたり前だよ。俺を誰だと思ってるんだ?」


 まあ、クリスは相変わらず偉そうだったが、彼も身支度を整え、髪もセットすると、白シャツに短パン姿に着替えていた。ラフな格好だが、見た目のいいクリス。それだけでも島の中で目立つ。


 さっそく二人で海辺を歩き、昨日の現場を見てみた。


 今日は風が強く、私の髪もクリスの髪も崩れてきたが、現場には何も残ってはいなかった。


「犯人が落としたものとか、ないかしら?」


 砂浜にも降り、目を皿のようにしていたが、特に何も無い。


「ちょっと、アンナ。これはなんだ?」

「え、クリス。何か見つけたらの?」


 クリスは砂浜から何か見つけたたらしい。拾い上げて見せてくれた。


「何これ? ネックレス?」


 シンプルな鎖だけのネックスだった。ゆえに男性のものか女性のものか、判断つきにくい。チェーンも長めだ。男女兼用かもしれない。カップルでつけるものとも考えられる。


「なんだ、ネックレスか? 犯人のものか? アンナはどう思う?」

「わからない。でも一応、持っておきましょうか」


 私はそのネックレスを袋に詰め、メモに日付と場所を書くと、カバンに入れた。犯人のものかは不明だが、現場に落ちていたのは気になる。それに無能なオーレリアンだ。遺失物もちゃんと処理できるか不安だ。これも自分で持ち主を探した方が早いかもしれない。


 その後、しばらく砂浜を探索していたが、めぼしいものは出てこない。海の方も観察したが、相変わらず穏やかな雰囲気。人魚の幽霊などが出る様子もない。


 こうして歩き回っていたら、お腹もすいてきた。そういえばまだ 朝ごはんも食べていない。


「波音食堂へ行く?」

「そうだな、アンナ。あっちの食堂行くか」


 クリスとも合意し、東部の商業地区へ歩いた。商業地区へつくと、島民で賑やかだったが、いつも通りの雰囲気だった。平和で呑気そうだ。昨日、マリアの事件が起きたことは嘘みたいだった。


 一方、食堂へ入ると、雰囲気は違っていた。島民たち、マリアの噂で持ちきりだった。ざわざわと不穏な雰囲気。昨日と同じように窓辺のいい席に案内されたが、島民たちの声は嫌でも耳に入ってきた。


「マリアが殴られたらしいよ」

「へえ、本当?」

「前々からストーキング被害に遭ってた噂あったし」

「ファンの仕業?」

「さあ。でも、あの熱狂的ファンのてテオが犯人じゃない?」

「でも、俺、今朝テオを見たぞ」

「うそ、まだオーレリアンのやつ捕まえていなかった?」

「さあ? でも、普通に出勤していたみたい」


 そんな噂声を聞きながら、私とクリスは顔を見合わせた。


 テオは捕まっていない?


「オーレリアンのやつ、何してるんだ。無能だ」


 クリスは吐き捨てていたが、食堂のおかみさんからも噂を聞くと、やはりテオは捕まっていないらしい。


「いくらオーレリアンが無能といっても……」


 私は呟きつつ、お魚団子のスープを見つめた。昨日はあんなに美味しかったスープ。実際、とても美味しかったが、テオが捕まっていないのが気がかりだ。もぐもぐと呑気に食事する気になれない。いや、お魚団子は本当に美味しいけれど。


「アンナ、次は歌カフェ行くか? マリアが殴られ、リネット店長も気掛かりだろう」

「そうね」


 リネット店長、マリアをとても可愛がっている様子だった。クリスの言う通り、こちらも気掛かりだ。


 テオの件も気になるが、まずはリネット店長の様子を見よう。


 こうして食事をおえると、歌カフェへ向かう。食堂とは目と鼻の先だ。歌カフェは準備中だったが、入り口は開いていた。ちょうど開店準備中のリネット店長に声をかけた。テーブルを布巾でふき、清掃中だったが、リネット店長もマリアのことが気掛かりらしい。顔は全く明るくない。


「本当はもう、店を開ける気分じゃないわ。マリアのことは娘みたいに可愛がっていたから」


 リネット店長、お疲れのようだった。くまが濃く、声も枯れている。よっぽどマリアのことが心配らしい。見た目は地味なリネット店長だが、中見はそうじゃないかも。むしろ、情にあつく仲間思いなタイプかもしれない。実際、今朝、マリアのことが心配で病院にも行き、白警団のオーレリアンにも会いに行ったそう。


「リネット店長、血も繋がっていないマリアにそこまでするか?」


 これにはクリスも不審がっていた。もっとも、ここは小さな孤島だ。人間関係も想像以上に密だろう。


「私はこの歳まで独身で子供もいないからね。しかも歌カフェを運営しながら。男尊女卑の我が国では私は異質だね。だからマリアのことも家族みたいって思うよ。マリアだけじゃない。この歌カフェのシンガーもお客さんも。全員、私の仲間だ」


 思いがけず、リネット店長の内情も知ってしまった。バツが悪い。あのクリスも咳払いし、リネット店長に無礼を謝っているぐらいだった。


 リネット店長の目尻には深い皺がある。きっとこれまで、いろんな人に差別や無礼を受けてきたんだろう。特に男尊女卑の我が国だ。リネット店長の立場を想像すると、私でも心がぎゅっと切なくなってきた。リネット店長の気持ちは想像できる。


「そうなのね、リネット店長。マリアのことは心配ね」

「ええ、アンナ……。しかもオーレリアン、テオは証拠不十分で捕まえられなかったらしいわ」

「え?」


 しかし、この発言はいただけない。オーレリアン、やっぱりテオを逮捕できなかった?


「オーレリアンによるとテオにはあの日、アリバイがあったらしい。あの夜、レオン・ガイストと一緒に食事していたらしいわ。レオンはこの島の学芸員で資料館の館長さん。いい人よ、ガイスト家の親類だけど、落ちこぼれのテオにも気にかけているような聖人君子」


 リネット店長の情報を総合すると、確かにテオは逮捕できない。アリバイがあるからだ。


 ここにきて一気に振り出しに戻った。マリアを殴った人物、テオじゃなかったら、一体誰?


 推理にはアリバイが重要だ。魔法や幽霊でなければ、人間の身体は一つだけ。同じ人間が、同じ時間に別の場所で存在することは、絶対に不可能。


「だったら犯人は決まってる」


 一方、クリスは偉そうに顎をつんとあげていた。先程、リネット店長に頭を下げていたのは嘘みたい。


「ロルフだ。誘拐するよう男だぞ。マリアにも何らかの恨みがあり、誘拐でもしようとしたんだ」

「あのね、昨日の夜、ロルフと一緒にいたでしょ。それ、完璧なアリバイ!」


 私はクリスの私怨かつ雑な推理にツッコミを入れたが、クリスは無視。ロルフを捕まえるためにこれから古城に行くという。


「ちょ、待ってよ、クリス! ロルフには完璧なアリバイがあるのよ!?」


 といっても、クリスは古城へ走り出してしまった。


「推理にはアリバイが重要だから!」


 クリスの背中に叫んでも、聞く耳持たない。推理云々というより、ロルフにマウントをとりにいきたいのだろう。


 こんな展開、アサリオン村でもあった。私にちょっかいをかけた男を犯人だと決めつけていた。あの時は実際、それが当たったが、今回はどうだろう。ロルフのアリバイ、どう考えても崩れそうにない。

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