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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第20話 人魚の歌声

 ババ抜きは単なるカードゲームだ。それでも、こんな人の性格が出るものは無い。断言できる。


 ロルフは負けそうになると、癇癪を起こし、カードを投げてゲームから離脱。マクダに八つ当たりもし、ひどい男だ。マクダが職場の愚痴をこぼす理由がよくわかる。


 執事のハンネスは器用で運もいい。勝つことも多いが、ロルフに気を遣い、さほど喜んではいない模様。確かに主人よりも執事が勝ってしまうのは微妙だが、ここまで気を遣わせるロルフって一体。


 クリスはじっくりと参戦し、終盤でひっくり返して勝っていた。粘着質な目でゲームに興じていた。負けそうにかってもドンと構え、全く表情を変えない。ロルフと対照的だ。


 メイドのマクダは最初からやる気がなく、勝っても負けてもどうでもいい感じだった。そもそもこういったゲーム、あんまり好きではなさそう。


 私はそんな面々を観察し、それぞれの性格を見るのが楽しかったりする。ゲームそのものより、ここにいる人間観察が好きみたいだ。


「アンナ、もうババ抜きはいいから、俺とお茶でも飲まないかい?」


 早々にゲームから離脱したロルフは私の耳元で囁く。深くていい声だが、ゲームで負けそうになったぐらいで癇癪を起こしていたロルフ。それを思い出すと全くときめかない。むしろ萎える。それにクリスも目を光らせていた。さすがのロルフも大人しくなり、またゲームに戻っていた。


「じゃあ、今度は神経衰弱でもする?」


 ババ抜きも飽きたので、私は次のゲームを提案した。神経衰弱はマクダが無双していた。この中で頭が一番いいのはマクダかもしれない。記憶力に自信がない私は早々に負けた。


「くそ! なんで俺は勝てないんだ!」


 ロルフは露骨にイライラし、自身の黒髪をかきむしっていた。仕方がないので次はポーカーをやったが、これはクリスが無双してしまい、ロルフは癇癪する気力も失い、項垂れている。


 そんな感じでゆるくゲームをしていたが、私は思う。一応打ち解けた感じだし、単刀直入に誘拐事件の毒物について聞いてもいいかもしれない。証拠がないなら、自白させるのが一番だ。推理としてはどうかと思うが、要は事件を解決させればいいのだ。自白させるのだって探偵の大事な仕事だ。


「ところでハンネス。誘拐するときに使った毒物はどこで入手したの? クヌート所長の研究所? 兄のテオに協力してもらった?」


 私の発言で空気はピリッと凍りついた。誰も何も言わない。ハンネスはカードを放り投げ、チッと舌打ち。


「ロルフ、どういうことかしら。どこで毒物を手にいれたの?」


 今度はロルフに問うた。一切、笑顔を作らず冷静に。氷の成金令嬢とも言われていた私だ。ここはクールに行った方がいい気がする。


「そうだぞ、この誘拐犯。さっさと吐けよ。白警団にも通報するぞ」


 クリスも私の意図を読み、ロルフを睨みつけるが、ハンネスが話始めた。やはり、この男、執事としての忠誠心はあるらしい。


 ハンネスの告白は予想通りだった。毒物はクヌートの研究所で入手。弟のテオにも色々と協力してもらったそう。


「いくら兄弟でも、よく協力してくれたわね?」


 それは不思議だ。みたところ、ハンネスはキツネ顔。キャンキャンとうるさく、こざかしい男だ。一方、テオはキノコみたいにじめっと暗い男だ。頭も悪そう。兄弟でも似ていない。そんな協力関係になるか、納得できない。


「テオは島の歌手、マリア・マーメイドをストーキングしているって知ってたからな。あいつのアパートで変な手紙も見たし。その件をみんなに公表するって脅したら、テオ兄さん、協力くれた」


 なんと、ハンネスはぶっちゃけた。ゲームも負けたので開き直った模様だ。


 ということはマリアの殺害予告、誘拐の犯人がわかってる状態だ。確かに物的証拠はないが、状況的にもう解決したといっていい。


「もう全部自首してよ。テオの件も白警団に言いなよ。マリアは怯えて困ってるわ」


 呆れながら説得するが、ハンネスもロルフも開き直ってきた。


「俺たちは腐っても上級国民だから。そんな白警団に言っても揉み消せる」


 ロルフは全く罪の意識がない。腕くみし、ウンウンと頷いているだけだった。


「俺はロルフ様に従うまでです」


 ハンネスもロルフと同様だ。これは立件するのは難しい?


「おい、お前ら、調子に乗るな。俺が本気を出して尋問してやろうか?」


 一方、クリスは再び睨み、ロルフとマウントをっていた。クリスもロルフも野良猫のような面構えで呆れてくる。今にも「シャー!」と吠え、取っ組み合いの喧嘩を始めそう。


「あれ? この声何?」


 ちょうどその時、外から歌声が響いてきた。美しい歌声だ。昨日の夜、聞こえてきた歌声と全く同じ。歌詞も人魚の悲恋を表現したものだ。切ない。威嚇しあっていたクリスたちも毒気が抜かれていた。ハンネスも黙ってる。マクダも目を潤ませ、歌の世界に入っていた。


 私もマクダと同じだ。この歌、切ない。聞いているだけで胸がギュッとする。歌い手の人生経験の滲んでいるのだろう。深みがある。綺麗な歌声だが、それだけじゃない。もう誰もゲームはせず、歌声に聞き入っていた。


「誰が歌ってるのかしら。地元のみんなは知ってる?」


 私の問いにマクダ、ハンネスは首を振る。このバンガロー周辺は観光客が利用するため、地元民はあまり立ち寄らないのだそう。


「人魚の歌声か?」


 一方、ロルフはそう呟き、首を傾げていた。


「人魚なんて絶滅したはずだわ」


 マクダがツッコミを入れたが、ロルフは無視した。


「俺のご先祖が永遠の命の魔法研究をしていたんだ。人魚の命と引き換えに永遠の命が得られるんだ。ブスの人魚や男の人魚はダメだ。確か美しい容姿と綺麗な歌声を持つ人魚の命と引き換えに……」

「そんなの都市伝説だろう?」


 クリスはまだ睨みつけながら、ばっさりと都市伝説だと決めつけていた。しかし、この歌声は人魚?


 そんな人魚の命と引きかえに永遠の命が得られるのだろうか。わからない。少なくとも、ロルフの先祖がそんな実験をしていたことは確か。実際、人魚は濫獲され絶滅している。当時から現在まで永遠の命は得られている様子はないが……。


「でも永遠の命があったら……?」


 なぜか、永遠の命といい言葉が頭から離れない。聞こえてくる歌声が、私の思考を乱す。


「あれ? でも歌声は聞こえなくなってる?」


 マクダは耳をすませて呟く。確かにいつの間にか歌声が止まっていた。


 この場の空気が一気に冷えていく。先程までゲームでゆるい空気だったのに、誰も話さない。嫌な予感がする。


「ぎゃあああ!」


 その上、女性の悲鳴がする!


 まさか例の歌声の持ち主?


 私たちはコテージを飛び出し、海辺へ出た。もう夜だったが、今日は満月の日だ。思ったより暗くなく、悲鳴が聞こえた方角へ走る!


 一同、ゾロゾロと海辺の道を走っていた。この中で一番クリスの脚が速い。私もクリスの背中を追いながら走るが。


 突然、クリスが止まった。しかも大声で救急隊を呼んでいた。察しのいいマクダとハンネスはは救急隊を呼びに消えたが、私は全く声が出ない。身体が強張ってしまう。


 砂浜にマリアが倒れていたから。頭から血を流し、意識を失っているようだ。見たところ、命に別状はない。クリスやロルフに介抱され、大したことはなさそうではあったが、傷跡は痛々しい。


「どういうこと?」


 あの殺害予告通りに実行された?


 私は走って周囲を探したが、誰もいない。犯人らしき影もない。あの美しい歌声の持ち主も全く見当たらなかった。ただ満月だけが輝いていた。

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