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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第19話 婚約者VS当て馬

 今日は一日中、島を歩いた。おかげで私もクリスも日焼けをし、実に健康そう。


「何このお魚! 塩ふってで焼いただけなのに、美味しい! レベルが違う! 身がふわふわ!」


 クリスが釣った魚をグリルで焼いた。今日の夕飯だが、本当に美味しい。コテージの食卓で、私の大声が響く。


 食卓の上は大皿に盛られれた焼き魚。主役らしくドンと鎮座し、パンやジュースは添え物だったが、ようやく夕食にありつけた。不穏な事件は起きているものの、今は美味しい焼き魚に集中しよう。ちなみに魚を捌いたのはクリスだ。タラント村でも魚を捌き、調理してくれたし、我が国では珍しく家事能力が高い。


「確かに本当にここの魚はうまいな。なんなんだ? やっぱり人魚がいた島は海水の質でもいいんだろうか?」


 クリスも魚を食べながら、首を傾げていた。確かにこの島の魚の美味しさは何だろう。推理小説のテーマにしたいほど謎深く、美味しい。


「まあ、でもアンナ。いつまでもお魚料理でキャーキャー言ってる場合じゃない」


 あらかた大皿が空になった時、クリスがため息まじりにつぶやいた。


「た、確かにそうね」

「まずはマリアの殺害予告だが、現状、第一容疑者はテオだろう?」

「でも証拠がないのよね」


 クヌート所長の論破を思い出す。状況的にはテオが犯人なのに、確実な証拠は何もない。


「こっちはまず、証拠を探すってことでいいよな?」

「ええ、クリス。とりあえず証拠探しね。あとは誘拐事件の方」

「まあ、こっちの犯人は明白さ。拷問し、自首させるっていうのもアリだ」


 クリスはいつも以上に口元を歪ませ、笑っていた。余計に性格が悪そうに見える。極悪だ。この調子だと、誘拐犯・ロルフを本当に拷問しかねない雰囲気だ。全く笑えない。美味しい食事の後だったが、口元が引き攣ってしまう。


 窓の外はもうすっかり夜だ。海に満月が反射していた。二つの月。


「まあ、クリス。そう極悪な顔しないでよ。窓の外を見て。綺麗な月が見えるわ」

「そうだな。綺麗だ。日焼けしたアンナも綺麗さ」


 不意打ちに甘い言葉を浴びせられた。私はアワアワと口元を動かすだけで、何も言えない。顔も熱い。決して日焼けしたせいではない。


「ほ、褒めても何も出ないから」

「褒めていないぞ。事実を言っただけだ。事実を言ったらダメか?」


 ああ、どうしよう。クリスの求愛モードのスイッチが入ってしまったらしい。それに今は島にいる。呑気な気候の島だ。島民も裏表がなく素直。クリスもこんな環境に感化されたのか、真っ直ぐに甘い言葉を吐いてきた。


「日焼けしたアンナもいい。とっても綺麗じゃないか」

「いや、やめて。恥ずかしいから!」

「事実を言ってるだけだぞ。こんな誘拐されても、たくましく推理しようとしているのもいい。面白い。さすが俺の婚約者だ」


 もう限界だ。こんなに真っ直ぐな言葉、どう受け取っていいかわからない。いつものように性格悪そうにいて欲しいのに、今のクリスは甘い婚約者。しかも食後に不意打ち。婚約もし、恋愛小説も書いているとはいえ、恋愛経験などない私。キャパシティ限界、もう無理。


 ちょうどその時だった。チャイムがなった。これは助け船だ。すぐその船に乗ろう。私は小走りでコテージの扉へ向かった。


「こんばんは、アンナ」


 そこに立っていたのは、古城のメイド・マクダじゃないか。夜に何の用事だろう。今は黒いメイド服にエプロン姿だ。仕事中だとわかる。しかもマクダは申し訳なさそうな顔だった。


 その理由もすぐにわかった。マクダの後ろを見ると、あろうことか誘拐犯のロルフ、その執事のハンネスまでいるではないか。


「やあ、アンナ。お邪魔するよ」


 そして私の戸惑いを無視し、ロルフは勝手にコテージに侵入。


 ロルフは自身の長い黒髪をかきあげ、コテージの様子を観察。寝込んでいると聞いていたが、今日も真っ黒なスーツが似合う。普通に健康そうだ。


「このコテージ、しょぼいな。やっぱりアンナ、俺の古城で贅沢な暮らしをしようじゃないか?」


 そんな失礼なことまで言ってる。


「おい、お前が誘拐犯か?」


 クリスはこれ以上ないほど、ロルフを睨みつけていた。


 ルックスだけはおとなしそうな文学青年のロルフ。極悪なクリスにすぐに負けるだろうと予想したが、意外にもクリスに睨み返していた。


 二人とも仁王立ちで睨みあっていた。野良猫同士がマウントとっているみたい。バチバチと音がしそう。


 執事のハンネスはもちろん、ロルフに声援を送っていた。


「ロルフ様、頑張れ! こんな極悪経営者なんかに負けるな!」


 いつもキャンキャンと騒がしいハンネスだが、声援する側だとハマる。


 一方、マクダは呆れて、コテージの食卓に行くと、ため息をついていた。


「いい大人二人が睨み合いとかダサいな。呆れる」


 それには私も同意。私もマクダの隣に座り、深く頷く。


 しかしクリスもロルフも睨み合いをやめない。相変わらず野良猫のようだ。喧嘩も勃発しそう。


 こんな状況、王都で人気の恋愛小説でよく読んでいた。ヒロインをヒーローと当て馬が取り合い「私のために争わないで!」というシーンは飽きるほど読んでいた。


 まさか自分がその状況に立たされるとは思ってもみなかったが、ここで喧嘩が起きるのはまずい。とりあえずお茶でも作り、二人を宥めることにした。


「そうだ、コテージにカードゲームがあるのよ。うちの執事が気を遣って送ってくれたもので。みんなでババ抜きでもしない?」


 そんな提案もしてしまった。おかげでクリスとロルフ、戦意が消失し、みんなでババ抜きすることになった。


 コテージの床に輪になって座り、私はカードを切っていた。なぜ、婚約者、誘拐犯、その執事とメイドと一緒にババ抜きをしているのか。急に頭が冷えてきた。この状況、自分でも意味がわからない。茶番のような誘拐劇、まだまだ続いている気がする。

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