第18話 推理に焦りは禁物です
その後、製薬研究所を後にした私たち。一石二鳥で調査する当てが外れ、結局、島を探索することに。
とりあえず、製薬研究所ら商業地区へ戻り、その途中で島民からテオやロルフの噂を集めることにした。
「おじさん、こんにちわ」
私は感じのいい令嬢スマイルをつくり、商業地区を歩くおじさんに声をかけた。いかにも漁師というルックスのおじさんで、濃い潮の匂いもする。
「私たち、観光で来てるんだけど、テオって男の噂を耳にしたのよ。何か知らないかしら」
ここはタラント村やアサリオン村と違い、外部の人に警戒心が薄い。向こうも気さくに質問に答えてくれた。
「ああ、あのテオか。あの子は昔から劣等生さ。弟のハンネスの方が優秀だっから、すっかり拗らせているね」
おじさんは大声で笑い、ロルフもワガママな男で、魔王一族の末裔は恥ずかしい連中だと言う。なるほど、ロルフ一族が腫れ物扱いされているのは、間違いなさそうだ。
「ぶっちゃけ、テオもロルフもあんまり好かれてはいないね」
「そうなのね」
「じゃ!」
おじさんは豪快に手を振って去っていく。この後もクリスと二人でテオやロルフの評判や噂を聞いていた。どうもテオもロルフも好かれてはいなさそう。というか、この島の人たち、よく言えば素直。悪く言えば、ざっくばらんで正直すぎる感じ。意図的な悪口というよりは、思ったことをそのまま口にしている人が多い。この島の気候も影響しているのだろうか。
一方、クリスは目立つルックスで女性たちの聞き込みを成功していたが、露骨にベタベタと触られ、キャーキャー騒がれてしまった。無駄に目立ってしまい、これ以上、聞き込みはできないと判断。
それにもう夕暮れに近かったし、夕食の準備もしないと。せっかく島に来たので、調味料などを買い揃えたら、釣りをすることにした。釣り道具屋でレンタルし、島民がよく行く釣りスポットを教えてもらい、そこへ向かった。
海辺の釣りスポット、もう何人か島民が釣りをしていた。どの顔も退屈そうだった。特に釣れている様子はない。
一方、釣りが好きなクリス。さっそく釣りの準備を進めていた。ニコニコとご機嫌だ。いつも性格が悪そうな顔のクリスだったが、今は完全に素に戻っていた。
私は釣りに興味はない。クリスに一応教えてもらったが、全く釣れない。飽きてきた。すぐにリタイア。
「アンナ、お前、見切りつけるのが早いって。もう少し我慢してみろって。大きな魚が釣れるかもしれないのに」
こんな私にクリスは呆れていた。
「そうは言っても。待つ時間が退屈で飽きちゃうんだよね。どっちかっていうと待つより行動したいっていうか」
「全く、アンナらしいな。俺は目的のものを得るためだったら、待つぐらい、何の苦じゃない」
クリスはニヤリと笑う。釣竿は全く反応していないが、よく長時間待てるものだと思ってしまう。私はあくびが出てきた。釣りは私の性格にはあっていないらしい。それよりも自分から行動し、答えが見つけられる推理の方が好きだ。といっても、今はその推理はたいして進んでいなかったけれど。
私は再びあくびし、釣りスポットにいる島民たちに声をかけることにした。多くは三十代から五十歳ぐらいのおじさんだったが、テオやロルフについて何か知っているかもしれない。
「おじ様たち、テオ・ガイストやロルフ・ガイストについて何かご存知でしょうか?」
といっても反応は鈍いものだった。単に待っているだけに見える釣りでも、いつ引っかかるかわからない。集中しているらしい。
「なんかわからないが、あんたものんびり待ってみなよ。釣りでも何でも焦りは禁物だ」
そんな私に、島民の一人はアドバイスをくれた。
「焦ったら、ろくなアイデアも閃かないぞ」
のんびりした声だった。確かに潮風はまったりしている。波音も静か。確かにここでジタバタと推理するより、今は待ってもても悪くないかも?
そう考えた私は、再びクリスの隣に座り、魚が釣れるまで待ってみることにした。
確かに退屈だ。時間だけが無駄に過ぎていく。実際、一匹も釣れないまま、太陽が沈みはじめた。巨大なオレンジのような太陽が沈んでいく。隣にるクリスの顔も、夕陽が照らし、カモメの鳴き声が遠くに響いていた。
「本当に待つだけで釣れるのかしら?」
思わず呟いた時だった。クリスの釣り糸が反応した。
今まで黙っていたクリスだったが、その瞬間を捕まえた。あっという間に大きな魚を釣り上げていまった。打ち上げられた魚、島民でもびっくりするぐらい大きかった。生きもよく、早めに捌いて食べた方がいいらしい。
「嘘、本当に釣れたわ。信じられない」
あれだけ退屈に見えたのに。この結果は手品のようだ。
「だから釣りに焦りは禁物だ。じっくり待つんだよ。待つことも悪くないんだ」
一方、クリスは釣り上げた魚を見つめ、ニヤニヤと笑っていた。相変わらず性格は悪そうだ。
「そうね。推理も少し、待ってみましょうか。どうせ焦っても、無駄そうだし」
こんな結果を見ていたら、ジタバタと推理をするのも無駄だと気づく。現状、テオの件、誘拐の件も何も動いていないが、今みたいに待ってみても悪くない。そうだ、最終的に犯人を釣り上げられれば良いんだから。結果オーライというやつだ。
「よし、さっそく魚をさばいて夕食にするぞ。きっと美味しい魚だ。アンナにもたらふく食べさせてやるぞ」
クリスは満足そうに頷く。確かに今は推理に進展はない。それでも、夕飯に美味しいお魚が食べられるんだ。今日はそれでいい気がする。




