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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第16話 第一容疑者に会いに行きます

 このスタテル島は小さい。孤島と言われているだけある。自転車などを使ってもいいが、徒歩でそこそこ移動できてしまう。


 私たちは島の東部の商業地区から南部へ向かって歩いていた。海辺から中央に向かっていく感じ。古城からも遠ざかっていき、波音やカモメの鳴き声も聞こえなくなってきた。


「クリス、もうお腹いっぱいねー」

「そうだが、これから第一容疑者に会いにいくんだ。もう少し気を引き締めていくぞ」

「ええ」


 そうは言っても、風は生ぬるく、お腹もいっぱいだ。日差しが強いとはいえ、緊張感は抜けてきてしまう。


 その途中、魔法戦争時代の遺構が見えた。崩れた門柱、弾丸の跡が残る塀など、そのまま残されているようだった。


 このあたりは商業地区と違い、人も少ない。公園や魔法戦争の資料館、島の役所、図書館、小学校、病院、白警団の詰め所などの公共施設が連なっているおかげか、魔法戦争時代の遺構が目立つ。今は平和とはいえ、生々しい魔法戦争の傷跡は、考えさせられるものがある。


「ねえ、クリス。魔法は人類に必要なのかしら。戦争利用もされたし、必要ないんでは? 王都では我が国も魔法利用の復活をってデモしている連中もいるけど」


 私は崩れかけた門柱を見ながら呟く。そのバックに青い空も見える。平和な色だ。遺構とのギャップがえぐい。たった百年前、悲劇の場所になったなんて本当に信じられないぐらい。


「まあ、人類に魔法は早かったっていう話だ。そんな都合いいところだけは得られないんだろ」

「そうね。どんなものにも代償や義務があるのかも?」


 我が国の小説の中の魔法は夢いっぱいに描かれる。なんでも願えば魔法で叶うような錯覚も受けるが、実際、何かを得るためには代償や義務が必要。作家業でもそうだ。好きなことだけをしているように誤解されるが、それだけじゃない。


「お、アンナ。さすが氷の成金令嬢と言われるほどクールだな。いっそ、魔法の代償や義務をテーマにしたファンタジーを書いたらどうだ?」

「そうね、それもいいかもしれない……」


 クリスの提案は悪くない。ちょうど恋愛小説も書き終え、エドモンド編集長からは新しい企画を所望されていた。地に足がついた魔法ファンタジー。この島や魔法戦争時代をテーマにしても悪くない。


「そうね。次はファンタジーを書いてもいいかもしれないわ」

「いいぞ、いいぞ。仕事もバリバリやってこそアンナだ」

「そんな褒めないで。っていうか結婚してからも仕事していいの?」

「いいに決まってるだろ。なんなら出版社作ってやってもいいぞ?」


 クリスとそんな会話をしながら、歩き続け、製薬研究所の前までつく。二階建ての広々とした研究所だった。白い壁が目立ち、新しい施設だったが、門の近くには研究所の初代所長の碑まで立ってる。


「うそ、この研究所、バラボー家の方が作ったの?」


 その碑を見て驚いた。あの憎き文壇サロンおじ様・セニクもバラボー家の関係者らしい。もっともセニクは犯罪者となった為、バラボー家の会社はほぼクリスに買収されていたが。


「バラボー家の製薬事業については、ちょっと面倒そうで買収しなかったんだ」

「クリス、そうなの?」

「ああ。この初代所長、王族にも縁が深い。それに、魔法戦争時代でも愚直に科学的根拠を追い求め、冷遇されながらも、製薬の研究していたらしい。一部では偉人と呼ばれている」

「へえ……」


 その碑を見る限り、普通のおじ様に見えたが、話を聞くと面白い。碑の横には説明が書かれた看板もあり、魔法戦争時代も科学的な追求をやめなかったらしい。今思うと立派な人物だ。偉人とよばれてるのもわかる。あのバラボー家でもまともな人物がいたことに驚きだった。


「でも目的はバラボー家のことじゃないだろ、アンナ」

「ええ。そんなことよりテオよ。さあクリス。参りましょう」


 いつまでも碑を眺めていても仕方がない。クリスとともに研究所へ入り、受付のスタッフに事情を説明し、テオとの約束を取り付けた。


 まずは一階の応接室で待たされたが、通常の応接室と変わりない。ソファとテーブルがシンプルに配置され、壁には絵が飾られているだけだった。海辺の風景画でシンプルだ。


 窓からは図書館や役所などの公共施設が見える。島の商業地区と違い、落ち着いた場所だ。


 製薬研究所といっても、薬品の匂いなどはしない。実験の音などもしない。イメージとは違うらしい。しんと静かだった。


「お前ら、誰だよ」


 その静けさは壊された。男が一人、入ってきたからだ。


 白衣姿の男だった。二十代後半ぐらいだろうか。黒髪、眼鏡、猫背で、雰囲気は決して明るくない。むしろ、長い前髪は重苦しく、ジメジメとしたキノコっぽい印象だった。ハンネスはキツネ顔、こちらはキノコ。二人は兄弟らしいが、あんまり似ていない。


 名札もつけていた。テオ・ガイストとある。この男がテオだ。思わず身構えたが、クリスは余裕だった。顎をあげ、大股で座っていた。顔もいつも通りだ。絶対に性格は良く見えない顔。


「クリス・ドニエだ」


 自己紹介の時もクリスの声は低く、テオに威嚇していた。


「私はアンナ・エマールよ。ここへは観光で来たのかしら? まあ、貴方に二つほど聞きたいことがあるんだけど」


 一方、私は威嚇しなかった。キノコのような見た目の男だ。強そうには見えず、ここは営業スマイルで様子を見ることにした。


 この作戦が効いたか不明だが、テオもソファに座り、自己紹介をした。


「テオ・ガイストだ……」


 その声はボソボソとし、どうやらクリスの威嚇に負けてしまった模様だ。弱そう。脚もきっちりと閉じて座っていた。


 これだったら説得すればいい気がする。私は極力、優しい声をだし、マリアのことや毒物の件を尋ねた。


「吐けよ。どんなマリアが好きでも、マナーを守ったり義務があるだろ? それに毒物の件だ。お前、弟のハンネスやロルフに毒物を流していないか? うん? どうだ?」


 それなのにクリスはネチネチと聞く。この粘着感、尋問にしか見えないものだが、テオはすっかり萎縮してしまい、人形みたいに固まってしまってる。


「ちょ、クリス、もう少し優しく聞いてよ」


 そう言ったが後の祭りだ。テオは顔面蒼白になってしまい、口元もプルプルと震えていた。当然、事情を話してくれるような雰囲気でもない。


「あ、あの、テオ? 大丈夫? この人は通常でも性格良くないから大丈夫よ?」


 そうは言っても、テオは頑なになってしまった。口をぎゅっと引き締め、何も言わない。本当にマリアを嫌がらせ行為をしていたのか疑わしいほど、大人しい。借りてきた猫のようだ。


「吐けよ。俺たちは全部知ってる」


 クリスは相変わらずネチネチ。今となっては頼もしいのかよくわからなくなってきた時だった。


 応接室の扉が開いた。


「おや、テオ。それにお客様、どうなさったんです? 何かございました?」


 男が入ってきた。全く知らない人物だった。

 

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