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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第15話 一石二鳥で事件調査開始です

 ここの楽屋は静かだ。歌カフェの楽屋なのが信じられないぐらいだが、マリアは口が重くなってしまった。私達にその殺害予告を見せると、すっかり怯えていた。


 こんな弱そうなマリア、女の私でも庇護欲がそそられてしまった。可哀想。なんとか力になりたい。一方、クリスはゴホンと咳払いし、詳細を伝えて欲しいと頼む。その口調はビジネスライクだった。


「え、でも。私……」


 といっても、性格悪そうなクリスだ。マリアは余計に怯えてしまった。


「ちょっと、クリス。もうちょっとスマイル!」


 私はクリスの袖をつかみ、注意した。意外と素直に笑顔を作っていたが、マリアはどうも男性が苦手みたいだ。クリスから微妙な距離をとり、さらに震えてる。


 そんなマリアをみかね、リネット店長が代わりに説明してくれた。


「実は私も、マリアが心配で、白警団のオーレリアンに通報したんだ。今日も事情を聞きに来てはくれたんだが」


 リネット店長は苦いため息をつく。心当たりもオーレリアンに語ったが、オーレリアンの態度は酷かったという。


「女のくせにとか、マリアが色んな男に色目を使ったからだと決めつけられたり酷かった」


 リネット店長はさらにため息を吐いた。長年の苦渋が染み込んでいそうなため息だった。


「私も言われたよ。五十過ぎの独身女がカフェ店長やってるとか痛いってさ。子供もいない高齢独身者は哀れなんだそうだ。ま、この島の男連中によく言われてるがね」


 そう語るリネット店長。目は虚無。達観し、もう何も期待していない様子だった。


「酷いわ。オーレリアンは私も知ってるけど、無礼な男よ。私も悪く言われたわ。リネット店長、気にしないで」

「アンナの言う通りだよ。まあ、あいつの親戚お会社は俺がほぼ買収済みだがね」


 私の発言はともかく、クリスの言葉には一同引き気味だ。


「クリス、そんな極悪な笑顔は見せないで」

「わかったよ、アンナ。というか、こんな話をしていても無駄だろう。リネット店長、マリア、何か変わったことや心当たり、犯人の目処はあるか?」


 相変わらずのクリスの顔に、マリアはまた怯えていた。結局、全部リネット店長が話してくれた。


 心当たりはあるらしい。一番怪しい人物はファンのテオ・ガイストという男らしい。マリアのファンは概ね温厚な男が多いが、テオだけは例外だった。ステージや握手会の時も待ち伏せや追っかけ、プレゼント攻撃なども多く、自宅までストーキングされたこともあったという。また、他のファンと親しく話しただけでも、苦情の手紙が何通も来た。


 酷い。マリアが男性不信になってしまう事情もわかったが、第一容疑者はテオと判断して良いだろう。


 殺害予告と苦情の手紙を見比べた。リネット店長が保管していたものを見比べたが、筆跡も似てる。語彙のチョイスも癖があり、誤字の箇所も一緒。どう見ても同一人物の仕業だ。筆跡鑑定などしないでもわかる。


「どうしよう。私は歌を歌いたいだけなのに。テオに殺されるかも。オーレリアンは頼りないし、リネット店長、どうしよう」


 ついにマリアは泣いてしまい、リネット店長にすがりついていた。


「わかったわ。私が調査するから。まず、テオについて知ってることを教えて。職業とかでいいから」


 見てられない。私もマリアを宥めつつ、頭を回転させた。とりあえず第一容疑者のテオに会いに行こう。場合によってはその時に説得し、白警団に自首させるのも可能かも。


「テオはこの島の製薬研究所の社員だね。まあ、別に学はなくて、所長のアシスタント的な業務をしている。年齢は二十八歳。ガイスト家、魔王の末裔一族の男だ」


 リネット店長の情報を聞きながら、閃く。ガイスト家というとロルフとも関係がある。しかも製薬研究所の社員。誘拐に使われた毒物も入手できる立場だ。


「あの古城で働いてるハンネス・ガイストの兄でもあるね。まあ、魔王の末裔一族といっても、傍流の方さ。直属の子孫はロルフだけよ」


 さらにリネット店長にきくと、テオはあの執事・ハンネスの兄だったとは。これは誘拐事件の毒物入手にもテオが関わってる?


 思わぬところで誘拐事件とこの事件が交わってる。誘拐事件調査は後回しにしようと考えていたが、一石二鳥で事件解決できる?


 思わずクリスと顔を見合わせた。さらに性格が悪そうにニヤリと笑っているではないか。私もちょっと笑ってしまう。


「わかったわ。まず、私たち、テオに会いにいくわ」

「アンナ、大丈夫?」


 リネット店長は心配そう。


「リネット店長の言う通りよ。テオは何を考えているかわからないわ。怖いわよ」


 マリアにも心配されてしまったが、隣を見上げる。私にはクリスがいる。若き極悪経営者と呼ばれている男だ。粘着質だし、目的のためなら手段を選ばない男だ。確かにアサリオン村の時、妙なプロポーズされたのは困ったわけだが、今は頼もしい。クリスと一緒だったら、別に怖くない。


「大丈夫。私にはこのクリスがいるわ」


 その言葉に、リネット店長もマリアもほっと息をついていた。二人の目からも、よっぽどの男に見えたらしい。思わず苦笑してしまう。


「でも、その前にお腹減ってきたわ。もう昼に近いじゃないの」

「そうだな、アンナ。まずは腹ごしらえだぞ」


 クリスが頷き、この島の製薬研究所に向かう前、今朝の波音食堂に向かう。


 昼時も混み合っていたが、ランチメニューの絶品アジフライセットを注文した。大きなアジフライだ。衣のパン粉はきめ細かく、サクサク。それ以上にアジがふっくらと柔らかく、異次元レベルで美味しい。


「何このアジフライ! レベルが違いすぎるから!」


 思わず叫んでしまう程だ。


「確かにこれはうまいな。どうなってんだ、この島は。魚の味が全然違うぞ」


 これにはクリスも目を丸くし、大声をあげるほどだ。食堂のおかみさんに聞くと、人魚が住んでいた海はどこも魚が美味しいという。


「本来なら、人魚は絶滅させず、ちゃんと保護するべきだったろうねぇ……。全く人間のすることは愚かだよ。たった百年前にも魔法戦争があった。どんないい魔法もちゃんと利用できないもんだ」


 おかみさんは呆れていたが、アジフライの美味しさに昇天しそうだ。今は事件は全部忘れ、腹ごしらえに集中しよう。

 

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