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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第14話 殺害予告です?

 カフェの中は、明るい雰囲気だ。見た目はこじんまりとしていたが、案外広く、前方にステージがあり、食事を楽しみながら観覧できる店らしい。


 天井は高く、天窓から日差しが降り注ぎ、それだけでも明るい。それに客席もほぼ埋まり、歓声も賑やかだ。


 ステージとカフェの席とは距離が近い。歌カフェといっても、素朴な雰囲気も濃い。


 私とクリスは後ろの方の席に座り、アイスコーヒーなどを注文し、ステージを見守っていた。


 リネット店長らしき人物は見当たらないのだが、地元のシンガーソングライターが歌声を披露し、拍手や歓声が響いていた。


「クリス、いい店じゃない? 本当に事件なんて起きてるの?」

「さあ。でも、このシンガーも海辺で聞こえてきた声と違うな」


 クリスはそこが気になっているらしい。確かに海辺で聞こえてきた声の持ち主は見つかっていない。他の客に聞いたらわかるだろうか。しかし、他の客はステージに夢中で、声をかけられる雰囲気もない。


 ちょうどその時だった。注文したアイスコーヒーやアイスクリームが運ばれてきた。エプロン姿のカフェ店員だったが、はっとした。ネームプレートを確認すると、店長・リネットとある。これが噂の店長らしい。


 五十代ぐらいの女性だった。体格がよい。頬もぽっちゃりしていた。髪はきっちりまとめ、メガネ姿だ。このカフェの雰囲気に反し、店長のリネットは落ち着いてる。髪色も灰色がかっており、決して派手な女性には見えない。アクセサリー類も一つもつけていなかったが、飲食店のスタッフとしてなら違和感はない。


「お待たせしました。こちらがアイスコーヒーとバニラのアイスクリームです」


 口調は意外とハキハキとし、少し高めの声が印象に残ったが、向こうも私の顔を見ながら驚いていた。


「もしかして作家のAさん? アンナさん? 波音食堂のおかみさんから噂を聞いたわ!」


 リネットも私のことを知っていたらしい。握手を求められ、恐縮してしまう。思わずクリスに助け舟を求めた。


「リネット店長か? 俺はクリス・ドニエという。アンナの婚約者だ」


 とっさにクリスは営業スマイルを作り、リネット店長を落ち着かせていた。こんな笑顔でも性格が悪そうに見えるから、困ったものだ。


 とはいえ、リネット店長はあらためて自己紹介をしてくれた。島生まれ、島育ちで、両親からこのカフェを受け継ぎ、今はバイト店員とともにカフェを運営しているという。


「私も元々音楽がとっても好きだから。このカフェで地元シンガーの人たちが活躍できて嬉しいわ」


 地味な中年女性に見えたが、ステージを見つめる目は全く違う。生き生きとし、歌への愛情が滲んでいた。


「ここに出ているアーティストさんたち、素敵ね。王都で活躍とかできないのかしら」


 ふと、そう思う。もっと広く活躍した方がいい気がするが、リネット店長はゆっくり首を振っていた。


「なんだかんだでみんな島に愛着があるからね。そんな王都とかで活躍より、ここでのんびりと暮らす方が性分にあってるシンガーも多い。王都に進出しても、うまくいかず出戻ってきたアーティストもいるから。井の中の蛙でいた方が幸せってこと」


 リネット店長は穏やかに笑ってる。確かにそうかもしれない。音楽の世界も激戦だ。地元でのんびりと音楽生活して幸せっていう考えもありだ。


「ところでリネット店長。何か変わったことはないのか?」


 クリスがそう言った時、急にリネット店長の顔が曇る。歌について語っている時と大違いだ。


 これは事件の匂いがする。私はタラント村やアサリオン村の件も話しつつ、何か協力できないか聞いてみた。この際、ロルフの誘拐事件はどうでもいい。それよりも、目の前の困っている人が気になっていまう。


「あなた、本当に事件を解決したの……。だったら話を聞いてもらおうかしら。裏の楽屋に来てくれる?」

「もちろんよ」


 私は身を乗り出し、深く頷く。こうしてリネット店長に案内され、クリスと共に楽屋に向かった。


 楽屋はシンガーのための部屋だろう。鏡が壁一面にはられ、メイク道具が乱雑に置かれていた。香水の匂いも漂い、クリスはくしゃみをしていた。


「リネット店長!」


 楽屋には初めて見るシンガーも一人いた。リネット店長を見つけると、大声で呼び止めていた。私たちとも自己紹介を交わす。


 名前はマリア・マーメイドという。本名ではなく、ステージ上の名前だ。マーメイド☆ライトというグループのセンターとメインボーカルを務めているらしい。


 確かにファンがつきそうな外見だ。小柄で、美人。ただの美人というより百合の花のような清楚な雰囲気だ。蒼い目は透き通り、肌は真珠のように艶がある。金色の長い髪も綺麗だ。現代でも人魚が生きていたら、こんな容姿かもしれないと思う。多くの男性はマリアに好意を持つだろう。


 もっともクリスはマリアにはまったく興味がないらしく、営業スマイルで自己紹介をしていた。


 私もクリスに続き、推理作家であることやタラント村やアサリオン村の事件を解決したと説明し、困りごとも協力できると断言した。


 別に自信はない。ただ、クリスからは不安そうな言動は相手に心配されると教えられていた。ビジネスの場だと強気ぐらいがいいんだそう。別にここはビジネスではないが、自信を持ってもいい気がした。


 これにはマリアも少し安心してくれたらしい。ほっと息を吐くと、リネット店長にも促され、何か紙を見せてくれた。


「ここ最近、殺害予告が届いているの。ファンの仕業なの?」


 マリアはカタカタと震えていた。


 一方、私はその紙を凝視していた。ラブレターやファンレターなどの手紙じゃないのは確か「マリア・マーメイドを絶対に殺す! 許さない!」と書いてあったから。これが殺害予告か。脅迫状かもしれない。どちらにせよ、確実に事件が起きていた。

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