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第11話 聞き込みは順調です

市場での聞き込みは意外と順調だった。まず、クリスが女性店員に話しかけ、懐柔し、気が緩んだところに私が話しかけると、驚くほどスムーズにいく。


クリスのルックスに絆された女性店員が続出している。顔をポーとし、黄色い声をあげている者もいるが、今はクリスに何の文句も言えない。むしろ、ここまで私に協力的だったのが謎ではあったが、チャンスは逃せない。


すぐに聞き込みを開始した。


十数人から話を聞き出しただろうか。迫害した過去など嘘のようにペラペラと話してくれた。


聞き込みを総合すると、村人も村長殺害の詳細はわかっていないらしい。白警団は何も公表していないし、何者かに殺されたという事実だけが確実らしい。


噂も飛び交い、殺害方法は毒殺、刺殺、撲殺とまちまち。


殺害現場も知らないらしい。第一発見者も誰だが、噂だけで確定的ではない。そうは言っても、村長宅で叫び声を聞いたとか、村長夫人の姿を見ていないとか、有力な情報も得た。


それにシャルルについても聞く。


「ああ、シャルルね」


花屋の女性店員は、その名前を聞くと、明らかに顔を顰めた。店員は左手の薬指に指輪があり、既婚者と見られるが、シャルルは村でも有名な遊び人で嫌いだという。


「遊び人? どう言う事です?」


クリスも質問すると、花屋の店員は、頬を染めながら、薔薇やマーガレットの茎を切っている。


「文字通りよ。すごい女好きの男。私も昔、口説かれてね。まいったわ。女を口説くためにウチで花も買うから、まあ、毎日のように遊んでいたのは確か」


女性店員の証言はウソでない。実際、別荘の管理人室には女を連れ込んでいた形跡がある。


「そうか。最低な男だ」


意外な事にクリスはそんなシャルルに嫌悪していた。目は吊り上がり、まつ毛もパタパタしていた。意外とこういう方面は潔癖かもしれない。


「あ、シャルルと付き合っていた女は知らない?」


これが一番気になり、私は身を乗り出して質問。


「さあ。シャルルは家に女連れ込むのが好きって噂で、相手の女は謎ね。まあ、村人の独身女だったら、たいていはシャルルの被害者では?」

「お姉さん、そうなのか? 本当にシャルルは最低だな」


なぜかクリスは女性店員はシャルルの悪口で大盛り上りだ。


一方、私は花屋の目の前にある野菜の屋台へ。おじさんが一人で店番をしている。暇そうにタバコまでふかしているから、話しかけてもいいか。


「おじさん、こんにちは。ニンジンやジャガイモが美味しそう」

「おお、そうか?」


売り物を褒めただけだが、相手は乗ってきた。やはり弱腰ではダメらしい。愛想良く堂々としていたら、向こうもペラペラと話してきた。


「ああ、村長の事件か?」

「ええ、教えてくださらない? 実は私、王都で推理作家もしているんです。本名はアンナ・エマールというんだけど Aという名前で」

「本当か? うちの息子は本好きなんだ。あんたの名前も知っているかも?」

「本当です!?」


おじさんは息子の影響で推理小説にも好意的らしい。思わず握手してしまった。まさかこんな所で味方がいるとは。


「そうか。事件を調べているのか」

「ええ、何か知りません?」

「だったら村のコミュニティカフェのカリスタに聞くといい。村長夫人とカリスタは親しい。親戚らしいし、何か知ってるはず」


ここで迫害してきたカリスタの名前が出るとは。正直、聞きたい名前ではないが、何かヒントが掴めるかも?


とりあえずカリスタに会う事も視野に入れた。


こうして市場の聞き込みも終了し、クリスと一緒に市場に戻る。


クリスは市場で店員達にいっぱいおまけして貰い、手に持ちきれない程の食糧を手にしていた。これだったら、別荘でしばらく生活できそう。


「っていうか、シャルルの事は悪かったね。あいつを雇った俺が悪かった」

「へ!?」


またクリスにいきなり謝罪された。意味不明。私の目は点になっていただろう。


「また謝ってるわね。どう言う風の吹き回し?」

「ミスを謝ったら悪いかよ。それにシャルルが相当の女好きか。何であんなやつ雇ったんだ? これに関しては俺が悪いね」

「へえ……」

「経営者として責任は感じる。というか、責任をとるのが経営者の仕事みたいなものだからな」


あの嫌味っぽいクリスが謝っているのは不可解だった。何か裏があるような気もする。そもそも、なぜこの男が協力的なのか不明だったが、これについては、何となく推理したくない。


素直に言葉通りに受け取る事にしよう。たぶん、クリスも父が言うよいに根は真面目なタイプなのだろう。責任感も強い。そう思う事にした。


「次はどうする? アンナ嬢」

「そうね。村のカフェが気になる」


カリスタは今のところ敵だったが。


「一人で行けるか?」


なぜかここでクリスは私を見下ろしてきた。やはり嫌味っぽい男だ。根は真面目だとわかるが、やっぱり解せない。


「ええ。一人でカフェに行ってみますよ」

「そうか。ま、頑張れよ。俺はこの荷物を別荘に持ち帰るか。あと部下に手紙も書いておかないと」

「あれ? 仕事は全部終わらせたんじゃないの?」

「そうだ。でも俺を何だと思ってるんだよ。天才経営者だぜ。小さな仕事も休暇中にだってあるんだ」


クリスは自身の長い前髪をかきあげた。この仕草もいちいち鼻につくが、相手にしていたら日が暮れる。


「わかったわ。私は一人でカフェに行ってみる」

「おお。ま、弱気になるな。堂々と胸を張っていれば何とかなるから」


そう言い残したクリスは、別荘に向かって歩き始めた。ヒラヒラと手を振り、余裕たっぷりという雰囲気だ。


嫌味っぽい仕草だ。経営者としての才能を認めるが、私はクリスはあまり得意じゃない。根が悪い人物では無い事は理解できるが、それ故に嫌味っぽい性格が余計に残念。


とはいえ、こうして聞き込みは成功した。まだ雲を掴むような状態だったが、後退はしていないはずだ。


「ええ、今度はカフェへ参りましょう」


そう宣言し、村の広場からコミュニティカフェへ足を進めていた。


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