第12話 天敵の登場です?
その後、食堂を出た私たち。殺害予告は気になるものの、まだ何も起きていないはずだ。それにお腹もいっぱい。カロリー消費がてら、少し海辺を散歩することにした。
海辺は日差しが強いが、潮風は爽やか。お散歩にちょうどいい。
「ところでクリス。仕事は大丈夫なの? 私はちょうど締め切りを終えて、最初から休みが入ってたけど」
「ああ。大丈夫だ。俺を誰だと思ってるんだ。若き極悪経営者だぜ。仕事など朝飯前でなんとかなる」
「へえ」
顎をあげ、偉そうな態度のクリスに呆れつつも実際、そうだから仕方がない。
「砂浜の方に行ってみる?」
「それもそうだな、せっかくだし」
クリスも同意し、海辺の道から砂浜へ。より波音が響いていた。先程はマクダもいたが、今は誰もいない。
「あ、クリス、みてよ。綺麗な貝殻が落ちてるわ」
「どれどれ」
しばらく二人で貝殻を拾い、呑気にしていたが、だんだんと飽きてきた。確かにここはタラント村やアサリオン村と違い、過ごしやすい。ただ、何かが物足りない。あの二つの村にあり、ここにはないものってなんだ?
そうか、推理か。推理できないのが退屈なのか。
「まだ殺害予告事件とかわからないけど、誘拐事件はなんとか訴えられないかな?」
砂浜に腰掛け、クリスに提案した。
「それもそうだよな。推理したいよな。俺もなんか飽きてきたぜ」
「でしょー」
クリスも隣に腰掛け、改めて二人で誘拐事件を洗っていく。
「お茶の中に毒が混ざっていたのよね。推理小説大好きな私よ、たぶん毒物の名前はイザベラ666だと思う」
この毒物、かつて宮廷の悪女が使っていた毒らしい。イザベラもその悪女の名前だ。意識は飛ぶが、命には別状はない。我が国の推理小説でよく登場する毒だ。
「毒の入手経路がキーだろうな。ロルフのやつ、一体どこで毒を入手した?」
「わからない。病院、製薬関係、大学の実験室ぐらいにしかない毒よね」
私、そう言いながらハッとした。この島、確か製薬会社の研究所があった。そこから毒を使った?
「どういうことだ。ロルフたちが毒を研究所から盗んだ?」
クリスもその事実を指摘したが、わからない。通常、毒物は厳重に管理されているはずだ。盗んだとなれば被害届け等も出ているはず。
「とりあえず、この島の白警団や研究所に行ってみる?」
「そうだな。俺も退屈していた。そうだ、推理しようぜ」
「オッケー!」
そうと決まると私たちも笑顔だ。拾った貝殻は砂浜に戻し、海辺の道に戻った。
「え?」
その時だった。意外な人物が前方から歩いて来るではないか。
「あの人、オーレリアン・バラボーでは?」
自分で言いながら、笑顔が消えていくのがわかる。
あの男、アサリオン村の白警団の男だった。エリート男だが、親戚に犯罪者がいるし、アサリオン村でも失態に失態を重ね、左遷されたはず。見かけは知的で、実際、エリート男だったが、タアサリオン村では私に濡れ衣も着せ、捜査中もマウントをとり、初対面から最悪な男。天敵といってもいい。
しかも今日は騎士風の制服を着ていたが、余計に偉そうに見える。確かのこの男、ブサイクでもデブでもない。むしろイケメンよりなので、この制服が似合うが、周囲を睨みつけ、圧がかけていた。
「げ、なんで成金令嬢作家と極悪経営者がこの島にいるんだよ?」
オーレリアン、私達に気づくと、さらにきつく睨みつけてきた。
「お前、左遷か? でも良かったじゃないか。ここはさほど事件も起きないだろう。暇なのに給料出ていい身分だな」
性格の悪いクリスだ。オーレリアンに嫌味を言われても、何倍も言い返していた。
クリスと並ぶとオーレリアン、小物感が強く、本当に頼りない。誘拐事件について何か聞こうと思ったが、やめた。言ったとしてもろくに捜査をしない未来が見える。
「そうね。暇だったら、アサリオン村を舞台にした私の小説、読んでちょうだいね」
「う、うるさいな! アサリオン村の時はお前らが引っかき回したのがいけない!」
オーレリアンは顔を真っ赤にし、地団駄まで踏んでいた。彼にとって「アサリオン村」は地雷ワードだった模様だ。
「それにオレは暇じゃない! なんせワンオペでこの島で仕事してるし、これから殺害予告の……」
「うん? 殺害予告?」
クリスはその言葉を聞き逃さなかった。オーレリアンに側により、睨みつけながら、低い声を出していた。
「そうよ、オーレリアン。殺害予告ってどういうことよ?」
私も気になる。食堂のおかみさんから噂も聞いた。誘拐事件とも何か関連あるのだろうか。
「う、うるさい! 今度こそ俺の邪魔するな。手柄をあげて王都でエリートコースに舞い戻るんだ!」
オーレリアンは犬みたいに吠えると、クリスの前から逃げていく。
まったくオーレリアンの出世欲には呆れるが、殺害予告事件が起きている可能性がある。気になる。確かに自分が巻き込まれた誘拐事件も立件したいが、オーレリアンにマウントを取りたい欲も芽生えてしまった。アサリオン村での彼の無礼を思い出すと余計にそうだ。
「クリス、計画変更。あの男のあとを追ってみない?」
「いいぞ、推理しようじゃないか、アンナ!」
クリスと二人、オーレリアンの背中を追うことにした。心臓がドキドキしてきた。指先も震えてきた。この震えってなんだろう。どう考えても武者震い。




