表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/138

第9話 若き極悪経営者・クリス登場

 大声と足音が響いていた。


「ロルフにバレたかも?」


 といってもマクダは冷静さを取り戻す。微笑むと、腕まくりをしていた。


「まあ、別にバレてもいいわ。おかげで退職できる。せいせいする」

「ちょ、マクダ。やっぱりあなた、クールなキャラね?」

「ええ。ロルフなんて雑魚、いくらでもかかってきな!」


 マクダは立ち上がるち、さっと身体を引き締め、受け身のポーズをとっていた。その目は鋭く、とてもメイドに見えない。以前、小説の取材で会った護身術の先生とそっくりな面構えだった。


「そうなのよ、私、護身術や各種武闘もならっている。こんなブラックな職場だからね、一発でロルフの急所をつく自信があるから」

「すご! マクダ、あなたやっぱりうちの実家で働いて! じいやという執事もいるし、絶対上手くいくと思う!」


 足音や大声のことなど忘れ、マクダに黄色い声援を送ってしまう。このメイド、可愛い見た目に反してなり優秀だ。そうだ、マクダをモデルにし、メイドが暗躍しながら謎をとくミステリとかどうだろう?


 頭の中が推理小説のアイデアでいっぱいになってしまったところだった。足音と共に誰かが入ってきた。マクダは目を光らせ、急所を狙う動きを見せたが、すぐに辞めた。目も通常に戻った。ふうとため息も漏らしてる。


 私もホッとしてしまった。その人物、ロルフではなかったからだ。よく知っている人物だ。若き極悪経営者とも呼ばれている。そう、私の婚約者、クリス・ドニエ。


「アンナ! 無事だったか!」


 血相を変えながら私にかけ寄り、あろう事か抱きしめてきた。マクダが見ている中、相当恥ずかしいのだが。キツキツに抱きしめられてしまったし、息もできないぐらい。マクダは顔を真っ赤にし、目を逸らしていた。


「いや、もうクリス。苦しいから!」


 暑いし、息もできないのでクリスを避けてしまったが、もう安心だ。ようやく再会できた。誘拐劇は幕を閉じた。茶番のような誘拐だったとはいえ、全身の力が抜けそう。


「しかし、そのロルフってやつ、許せん。あいつの一族の会社、全部買収してやるからな」


 クリスは目を吊り上げ、肩をいからせていた。いつもの仕事用のスーツ姿のクリスだが、髪もボサボサで顔もげっそりとしていた。目の下のクマも濃い。おそらく寝ずに島までやってきたのだろう。


 それだけで嬉しくなってしまうから困る。笑が溢れそう。でもこの状況で笑うのはよろしくない。私は口元を押さえつつ、クリスをなだめ、少々落ち着かせた。


 マクダもお茶を淹れてくれた。しばらく三人でお茶を飲む。マクダはこの誘拐事件の事情を説明していた。クリスは事情を聞くたびに目を吊り上げていた。そんなクリスをなだめる私。クリス、やっぱり相当お怒りの模様。声もいつもより低く、顔も真っ赤だ。これは復讐でもしないと気がすまない様子だったが、私はクッキーを齧りながら思う。


 こうして助かったわけだし、正直、誘拐事件などどうでもいい。元々茶番じみていたし、ロルフは相当変な男とはいえ、粘着質はクリスに大敗している。妙な求愛もクリスの方が圧勝だ。そう思うと、余裕が出てきたし、クリスみたいに怒る気になれない。


「アンナ、お前誘拐されたんだぞ。なぜか余裕があるな?」


 クリスここんな私に呆れていた。少し戦意は消失したらしい。顔色や目も通常通り、性格悪そうに戻ってきた。


「ええ、正直、ロルフの誘拐はツッコミどころがありすぎて、茶番というか。本格推理小説みたいにもっと捻って欲しかったわ」

「ちょ、アンナ。あなたもだいぶマイペースで変わった令嬢ね?」


 マクダは呆れていたが、クリスはお茶を飲み込むと「アンナは面白い女だ」とつぶやく。いや、それって褒め言葉かしら。私は何度もクリスから「面白い女」と呼ばれていたが、素直に喜んでいいのかもわからない。


「それにこの島、まだまだ食べていないお魚料理もあるのよね。釣りもやっていないし、平和祭りも行きたいわ。魔法戦争の遺構も見たいし、資料館も見学したいんだけど」


 私はクリスに上目遣いで言う。我ながらあざとい仕草だと思いつつ、クリスの怒りも沈めたいし、この島を観光したいのも事実だった。誘拐されに来ただけでは元が取れない。


「それにこの島、新婚旅行の候補地にあげてなかった? クリス、バンガロー一軒買い取ったとか言っていなかったけ?」

「おお、確かにそうだ。今もバンガローの鍵も持ってるぜ」


 クリスはバンガローの鍵も見せつけてきた。


「そうだな。誘拐事件も立件し、ロルフのやつを牢屋にぶち込んでやろう」


 目がすわり、口元はニヤニヤしているクリス。これはろくでもないことを考えている顔だ。実に性格が悪そう。タラント村でも似たような表情をしていたことを思い出す。


「まあ、無理よ。ロルフは魔王一族の末裔。いくら没落としたといっても、上級国民だわ。白警団も犯罪として立件するかなー?」


 マクダの指摘、もっともだったが、クリスは無視していた。


「いいや、こういう誘拐なんてする奴、他にも余罪が山ほどあるだろうよ。何か人に言えないことをしていてもおかしくない。例えば脅迫、窃盗、殺人など、そっち方面から捕まえるのもアリだ」

「殺人?」


 クリスの声ではっとした。そうか、ロルフのやつ、何か事件を起こしたり、計画を立てていたとしてもおかしくないのか?


 血が騒ぐ。手のひらも汗ばみ、心臓も跳ねてきた。これは事件の匂い。推理もできるかもしれない!?


「アンナ、推理できるかもな。いや、もう推理しろよ」


 クリスに耳元で囁かれた。タラント村やアサリオン村の同様、推理できる?


 心臓がドキドキと鳴り、身体も震えてきた。これは何だろう。武者震いってやつかもしれない。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ