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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第5話 古城でカンヅメ生活はじめました

 気づくと、もう夜だった。あれからロルフに仕事部屋をあてがわれ、推理小説の企画を練っていたが、楽しくて仕方ない。時間がたつのも忘れた。ふと顔をあげると、窓の外は真っ暗だった。


 それに、この仕事部屋は資料の本も山とあり、全く飽きない。昔の魔導書もあり、魔王一族の末裔なのは本当らしい。


「よし、古代魔法文字で暗号作ってみるかな?」


 私はその中の一冊を読み、魔法文字を使って暗号文を作っていたが、意外と魔法も法則性があるらしい。


 特にパワーを使う魔法の場合、それと同等分の対価を差し出さないといけないようだ。


「対価って何?」


 と言っても、魔道書の紙は古く、文字もぼやけて読めない。


 我が国、魔法はとっくに手放していた。故にその知識はあまりない。過去に悲惨な魔法戦争があり、なんとなく悪いものというイメージが強い。一方、ファンタジー小説などでは、魔法は超能力のように扱われ、なんだかとっても夢があるもの。


 実際、この仕事場の書斎にあるロルフの本を読んでみたが、魔法は一貫していいものだと描写されていた。例えば、冴えない令嬢が魔法で一瞬で美女になったり、無力な騎士が魔法で力を得たりするが、そこに代償も義務も描写されず、ひたすら都合がいい。超能力扱いだ。


 私はそんなロルフの本を読みながら違和感を覚えた。確かにあの男、こんな誘拐までして妙に傲慢だ。


「もしかしたら、魔法みたいに女の気持ちもコントロールできると思ってるのかしら。いや、まさか、そこまで残念な男じゃない?」


 その可能性も全く無いとはいえない。口元が引き攣ってきた時だった。


 部屋にロルフが入ってきた。相変わらずノックもなく、勝手に入ってきたが、その手にはトレーがあった。しかもトレーの上にはお魚のクリームスープがある。こ、これはお魚料理!


 クリームのいい匂いも広がり、私は思わずツバを飲み込んでしまった。


「アンナ、夜食を持ってきた。食べようじゃないか」


 ロルフに疑念があるものの、この匂いには負けた。一緒に夜食をとることになったが、予想以上にお魚がおいしい。口に入れるとほろりと身が崩れ、噛まなくても食べられるぐらい。それにクリームともよくあう。さっぱり系の白身魚と濃いクリームがこんなに合うとは知らなかった。すっかりお魚料理に胃袋をつかまされた私。こんなお魚料理を堪能している時ぐらいは、ロルフへの疑念は一旦脇に置いておくことにした。


「ところでアンナ。推理小説の企画は?」

「ええ。この紙にまとめて書いているわ」

「ちょっと見せて」


 ロルフはスープを飲み干すと、私の企画書を読み込んでいた。


「アンナ、主人公は天才探偵だが、これだと読者が感情移入しにくい。確かに天才すぎて面白いキャラクターだが、大きな欠点もなく、入り辛いよ。共感できないと、読者が読み進めるのも難しいんでは?」

「なるほど。確かにそうね」


 さすがだ。ロルフの指摘はその通りだった。私も企画書を作りながら、薄々、そんな気はしていたが、上手く言語化できず、見落としていた。


「主人公はそのままでいい。語り手を助手にするんだ。そうすることで物語の客観性も生まれ、読者も入りやすい」

「なるほど。狂言回しの役回りね」

「そうだ。そしてこの助手がぽろっと事件のヒントを呟いたり、陰で活躍するのもいいね。お、これは暗号文の下書きかい? 確かに古代魔法文字を使うのは珍しい。いいぞ、アンナ。このまま暗号文を作りたまえ」


 結局、ロルフと創作談義で時間も忘れてしまった。夜が更けていく。でも楽しい。思えばこんな風にミステリー小説について語る仲間はいなかった。文壇サロンのおじ様には叩かれていたし、実際、求められるものはゆるいミステリや恋愛小説だったりする。好きな推理小説は書けない現状のおかげで、ロルフとの会話が楽しくなってしまうのも事実。


「さあ、アンナ。明日も我が古城でカンヅメしよう。そして素晴らしい推理小説を生み出そうではないか」


 誘拐犯のセリフなわけだが、考えてみたら、何か加害されてもいないし、おいしいお魚料理も食べられている。カンヅメも割と自分から望んでいる部分もある。これって本当に誘拐なのか不明。自分でもよくわからなくなってきたところ、ロルフが見つめてきた。


 熱い眼差しだった。長いまつ毛も目立つ。黒い目も艶っぴく濡れていた。クリスにはない色気が漂い、戸惑ってしまう。


「アンナ、お前とこんな風に話せて楽しかった。なあ、クリスとの結婚はやめないか? 別にまだ式も挙げてないんだろ? だったら、俺の女になれよ。俺だったら、こんな風に好きな小説を書かせてやる」


 その声は限りなく甘く、私、キャパオーバーだ。もう誘拐とか考えられなくなってしまいそうだが、ふとクリスの顔が頭に浮かぶ。左手の薬指も確認したが、そこには婚約指輪もある。


 急に理性が戻ってきた。そうだ、目の前にいるのは誘拐犯!


「いえ、お断りです。あなた、犯罪者でしょう。というか、早く王都へ帰してくれませんかね」


 ロルフの求愛を突っぱねた。相手は露骨に傷ついた顔を見せてきたが、罠かもしれない。この感じ、母性本能をくすぐる女はいそう。


「いや、クリスには絶対に渡さないよ」

「はー?」

「アンナ、俺の女になれよ」


 ロルフはそう言うと、ここから出て行ったが、鍵をかけてしまった。要するに出られない。ベッドやシャワールーム、洗面所、トイレもある部屋だが、これは困った。しかもドアの前にマクダも配置している様子。監視はきつめだ。


「これってカンヅメというより、本当に誘拐ね?」


 茶番劇のような誘拐のはずだったが、ロルフも案外、執着派かも知れない。執着はクリスで慣れているわけだが、頭を抱えてしまう。


「やっぱりジ・エンド?」


 お魚料理でニコニコしている場合でもなかったらしい。

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