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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部・タラント村編

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第1話 文壇サロンから追放されました

文壇サロン以上に嫌なものは無いと思う。


「アンナ嬢、お前は推理なんかやめろ」


豪華なアフタヌーンティーセット、窓から見える薔薇園、優しい紅茶の匂いも台無しだ。


作家業をしている私は、週に一回、文壇サロンに出る必要があった。別にハッキリとしたルールはないけれど、休んだら出版業界から干されるとう噂。私と同じ歳ぐらいの女性作家が、文壇サロンを休んだら干されたと担当編集者から聞いていた。


そんな噂がなくても成金商家出身で貴族じゃない私。しかもデビュー間もない新人作家の私が断る理由は無いだろう。


どうにか笑顔を作りながら私は頷く。基本的に男尊女卑の我が国では、例え嫌なことを言われても女は黙って頷くのがベターだ。


周りの文壇のおじ様達は、視野が狭い創作論or私への作風の酷評を続けている。貴族や王族出身のおじ様ばかり。気分は最悪だったが「ここは王都でも最高級のティールームよ」と何度も心の中で言い聞かせて、口元を無理矢理引き攣らせた。どうにか我慢していたのに、おじ様作家の一人が近づき、私の作風への酷評が始まってしまった。


「今時推理ものなんて流行らないぞ。ニッチなジャンルだ。市場規模が狭い。読者が少ない。今は主人公が男性で魔力や身体能力が強いのがいい。ファンタジー世界で無双したり、ヒロインから一方的に好かれ……」


ああ、うるさい。


思わず耳を塞ぎたくなったが、私は推理マニア。幼い頃から毒物や鈍器を研究し尽くして書いたデビュー作の「探偵公爵の優雅な推理事情」は最高峰本格ミステリなんて評されたんだから。貧乏令嬢が男装し、事件を解決する話よ。


とはいっても、おじ様達の意見には一理ある。鳴物入りでデビューした私だけれど、売り上げは悪かった。担当編集者からは打ち切りになるだろうと言われている。「やっぱりミステリーは、我が国ではニッチジャンルだと営業に言われました」と半泣きだった。


その上、この国は男尊女卑。女作家というだけで毛嫌いする人もいる世界だ。なので筆名も男なのか女なのかわからないAという匿名性の高いものにしていた。我ながら上手い商業戦略だと思ったけれど、Aが女性作家である事は意外と知れ渡っているし、こんな風に文壇サロンに引っ張り出されたら、あんまり意味なかったかもね?


「そんなニッチジャンルの推理なんてやめろ。誰も読まんぞ」

「ええ、先生。アドバイスありがとうございました」


ニッコリと笑い、この話題から逃れたい。今作おじ様達に囲まれた私。おじ様達の年齢もきっと倍以上違うはずだけど、本当に文壇サロンが嫌。狼に睨まれた仔羊状態ではないか。ああ、これ以上嫌なものは思いつかない。


「だから、推理ジャンルなんてやめろって言っているんだ!」


そんな私の思考がおじ様に伝染したかは不明。私がニッコリ笑えば笑うほど相手の顔は真っ赤。こめかみに血管が浮き出ている。茹でタコみたい。あら嫌だ、私ったら作家らしく冷静に観察しすぎ?


「売れないだろ? ニッチだろ? 市場規模が狭いだろ? 誰も読まないだろ? 推理なんてやめろ」


おじ様の声を聞きながら私は推理していた。こんな風に怒るのも理由があるはずだ。おそらく鳴物入りでデビューした私が気に食わない。推理は我が国でニッチジャンルとはいえ、元科学者や医者などのエリートが書くことも多い。男の為の小説ジャンルだ。そんな中で二十歳そこそこの小娘が推理ジャンルを選んでいるのは面白くないのか?


思えば我が国でそんなポジションの作家はいない。女流作家自体がレアだし、それも恋愛小説ばかり。近年、我が国は魔力が封印され、科学技術革新があった。医学、印刷、電気、物流などインフラの進歩があったけれど、女性の地位は低い。選挙権がない地域も多いし、女が不倫すると逮捕される。男の不倫は何の罪にも問われないのに。


女がつける職業も看護婦、薬剤師、教師のみという風潮だった。もちろん選ばなければ劣悪な環境の仕事もあるけれど、お金持ちかつ家柄が良くなければ学校にすら行けない。騙されて性産業に行ったり、金持ちの奴隷になる事も珍しくない。優秀でも医者になれなかった女性の嘆きも何度も耳にしている。


要するにここは根強い男尊女卑国家。元々は剣と魔法の国で、魔力も血筋で決まるような場所だった。近年は魔法の加護は手放し、我が国の事情はだいぶ変わってきてはいたけれど、そう簡単に根っこの部分は変われない。


やはり女が文壇で筆一本で食べていくのは厳しい?


狼に囲まれた私は、悪い事ばかり考えてしまう。


「推理なんてやめろ」


また言われた。もう笑顔を作るのも馬鹿馬鹿しい。そろそろ塩対応で行こうか?


そう考えた時だった。


「推理なんてやめろ! 女は家庭に入って子供を作るのが一番なんだよ!」


おじ様が突然、私の胸を触ってくるではないか。ドレスの上からでもハッキリと体温が伝わるが、他のおじ様達はニヤニヤ笑っているだけ。


その上、私の顔にまで手を伸ばそうとしている!


「まあ、リアルな小説を書くためには恋愛経験が必要だろう?」


そんな事も言うが、私は推理した。今まで「推理なんてやめろ」と言っていたのも、恋愛作家に転向させ、セクハラ三昧する為?


この推理は当たってそう。実際、我が国の女性作家はみんな恋愛作家ばかりだ。狼の群れの中にいる子羊状態の私だけど、どうすればいい?


「俺の愛人になったら次の作品も出版させてやるからな」


おじ様は耳元でとんでもない事も囁いてくる。


そういう事か。


枕営業を強要されている事も理解したが、こんな話は絶対嫌。なんでおじ様の都合の良いペットにならないといけないの?


私は心はともかく未婚の令嬢だ。年齢も二十歳だ。おじ様と愛人契約するなんて絶対に嫌。


「お断りです!」


反射的におじ様を殴ってしまった。拳でボコボコに。本格ミステリを描く為に護身術を習い、体力もつけていた経験が生きたが、これって大丈夫?


おじ様を殴った拳がヒリヒリと痛い。チラリとおじ様の目を見たが、顔以上に真っ赤。


「何だと!?」


おじ様の怒りに燃えた目を見ながら、私は色々と察し始める。


案の定、おじ様は叫んだ。「二度と文壇サロンに来るな!」と。あっけなく私は文壇サロンを追放された。


追放されたのは、文壇サロンだけではない。おじ様は公爵家の主人だったし、ありとあらゆる出版社に圧力をかけ、業界から私を干した。ゴシップ記事にも私の噂を垂れ流し、両親の事業にまで影響が出てしまった。


ジ・エンド。


どこの出版社に新作を送ってもスルーされるし、デビュー作のシリーズも打ち切りになってしまった。「作家令嬢アンナ・エマールは盗作を繰り返した泥棒作家」なんてゴシップ誌に書かれたわけだが、当然、根も葉もない事。


むしろ逆。おじ様は私が送った新作を堂々と自分のものとして発表。まあ、幸か不幸か推理ものだったから大ヒットにはならなかったけど。これには心が折れた。バキっと。いとも簡単に。あっけなく。


「ねえ、じいや。私はどこか遠くに行きたいわ」


毎夜、酒を飲み執事に愚痴をこぼしながら、メンタルを悪化させていた。


まさにジ・エンド。

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