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4.5 数日後のふたり

ふたりの視点

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

side:梨田未央

漫画返してもらうついでで、しーちゃんと校舎裏でお弁当を食べれることになった。

ありがとう作者さん。できる限り、続巻を出してほしい。

「ね、あの、しお君」

隣に座るしーちゃんは、イラッとしたように眉をひそめてにらんできた。

「は?なんでその呼び方なんだよ」

「え、だっ、だって…」

俺は分かりやすくうろたえてしまった。

「人前で、やめろって、言っただろ」

「えっ…と、じゃあ、しーちゃん」

俺が尻すぼみで呼びなおすと

「なんだよ?」

しーちゃんは、今初めて話しかけられたかのように、『ん?』とゆるんだ顔をした。

しーちゃんは難解だ。俺には計り知れない。

でも知らないしーちゃんを知っていくのはすごく楽しい。どんなしーちゃんも俺は大好きだ。

俺は『呼び方気を付ける』を心のルールブックに追加した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

side:潮谷詩織

漫画返すからと理由をつけて、みーくんと弁当を食べる約束をした。

いつからなんの理由もなくてもよくなるのか。気長に、とは思ってる。

「ね、あの、しお君」

「は?なんでその呼び方なんだよ」

イラッとして、思わずにらんでしまった。

「え、だっ、だって…」

みーくんはわかりやすくうろたえている。仕方ない、こっちらか言ってやるか。

「人前で、やめろって、言っただろ」

「えっ…と、じゃあ、しーちゃん」

みーくんはおろおろしながらも、前髪の間からじっと俺を見つめてる。

俺がどうするか、気になってしょうがないんだろう。

「なんだよ?」

だから、ちゃんとできたら微笑んでやる。最初のしつけが肝心だ。

みーくんは照れながら、嬉しそうに笑っている。こういうところは小っちゃい頃から変わらないな。

「あの、こないだ言ってた、今度サンデー食べに行こうってのだけどね」

「おう」

「ほ、本当に俺と行くの?」

「……は?」

何言ってんだこいつ。まさか行きたくないとか?俺がどんだけお膳立てしてやったと思ってんだ。

「いや、俺は一緒に行けたら嬉しいよ。でも、俺と一緒だとしーちゃんのお邪魔にならないか心配で。しーちゃんがお友達と過ごす時間も奪っちゃうし」

「俺と一緒が嫌って遠回しに言ってんのかよ」

思わず剣のある口調になってしまった。

「違うよ!俺、暗いし、なんにも面白いことも言えないし、しーちゃんと一緒に行っていいのかなって思って……」

自信なさげにそう言うみーくん。でも、俺から決して目を離さない。俺の反応をうかがっている。

その目が何を求めているのか、わかってしまう。わかってしまって、顔が崩れないようにするのを我慢した。

「嫌だったら誘わない」

俺はそれだけ言いきった。ほら、言ってやったぞ。わかってるよな?

「……じゃ、じゃあ、一緒に行っていい?」

弱弱しく聞くみーくんに

「おう」

そう言うと、みーくんはほっとした顔から、嬉しい顔になった。

ほんと、わかりやすい。

「俺はいつでもいいから、しーちゃんが行ける日にしよう」

みーくんは急に前のめりになって、俺の方に体を寄せて来た。大きいワンコが懐いてきたみたいな感じがする。わふわふしてやりたい。けど我慢。

俺はポケットからスマホを取り出し、なんでもないかのようにふるまった。

「あー……、じゃあバイトのシフト出たら言うわ」

一応見てみたが、まだ次のシフトは出てなかった。早く出せ店長。

顔を上げると、みーくんがきょとんとした顔をしていた。

「しーちゃん、……バイトしてるの?」

「そうだけど」

「なにしてるの?」

「バーガーショップで、レジしたり」

「……大丈夫なの?人見知りなのに」

「……バイトに行ってんのに、人見知りだからあれやだこれやだとか言ってられないだろ?」

「しーちゃんはすごいね、苦手なことでもがんばってるんだね」

感心したような視線を向けられたけど、俺はそうでもないと淡々と返した。


みーくんは俺を人見知りだと思ってる。けど、そうじゃない。

知らない奴と話すのなんて、全然平気だ。

自分の見た目が人目を惹くって知ってるから、やたらと寄ってこられるのがうっとうしいから、人を寄せ付けてないだけ。そしたら周りが勝手に、俺を人見知りだと思っただけ。そういう奴って符号つけといた方が安心できるのかな。今更否定するのも面倒くさいし、どうでもいい。

みーくん、俺、他人なんてどうでもいいよ。そういう奴だよ。

「ん?なぁに?」

「別に」

ブロッコリーを食べようとしていたみーくんが、俺の視線に気づいてこっちを向いた。

みーくんは、いつだって俺を見ている。そういうとこも、変わらない。

「ブロッコリー、食べる?でも好きじゃなかったよね」

「好きじゃない」

ブロッコリーを好きで、見てたわけじゃない。


「じゃあね、しーちゃん」

「おう、またな」

「……うん!またね」

みーくんは、ほんとうに嬉しそうに笑う。俺と”また”があることでそんな笑顔になるんかってくらい。

その笑顔を目に焼き付けてから、教室に向かった。なんとなく後ろを振り返ると、みーくんが廊下の片隅でじっと俺を見ていた。早く教室に戻れと手で払うようにしたが、みーくんは腰のあたりで俺に小さく手を振ってきた。手を振っていたわけじゃないんだが。

まぁ俺が見えなくなったら教室に戻るだろうから、放っておくことにした。


みーくんは、自分は暗いだのなんだの言うが、頑固なとこは変わらない。昔から、お気に入りのものは絶対に離さなかった。お気に入りのロボットもカイセンジャーのフィギュアも、壊れるまで持っていた。壊れても新しいのを買ってもらわず、自分で直して、同じものをずっと大事にしていた。それくらい、好きなものを手放さなかった。

「しーちゃん」

翌朝、電車を降りて学校に向かって歩いていると、おずおずとみーくんが俺に追いついてきた。

耳元で、しかも小声で呼ぶのはやめてほしい。いろんな意味でびっくりする。

「はよう」

「お、おはよう……」

追いついてから、キョドキョドと周りを見回している。きっとみーくんは、俺のそばにみーくんがいるのを見られているのが気になるんだろう。

それでも俺から離れようとしない。離れるなんて、考えてもいないだろう。

みーくんの今のお気に入りは、絶対に俺だ。

そう思うと、自然と顔が緩む。けど、みーくんに格好悪いところなんて見られたくないから、俺は両手で顔を覆った。

「どうしたの?」

「……あくびしてただけ」

急いで顔を整えた。みーくんは俺の顔が好きなんじゃなく、顔も好きなんだとは思ってるけど、どうしても気をつけてしまう。

「そっか」

ふにゃりと笑うみーくん。

俺より背も高くなって、骨格もしっかりしてる。手がゴツゴツしてるのもいい。手を繋いだら、触れたら、どんな感じだろう。

でもなにより、俺だけに向けてくる熱のある視線と、優しい笑顔、柔らかく接してくれるのがたまらない。俺だけが特別なんだよって、態度に出てる。

みーくんは、今日もかっこいい。前髪がメガネにかかってるのが気にはなるが、切られるとそれはそれで困る。

「ん?なんかついてる?」

じっと見過ぎてたら、みーくんが顔をペタペタ触りだした。

「なんでもない」

きっと、みーくんが外見も中身もかっこいいことは、俺しか知らない。

「みーくん」

「なに?しーちゃん」

車道側を歩くみーくんは、前から来た自転車に、少しだけ俺の方に詰めた。

それだけのことなのに、ちょっとドキドキする。

「しーちゃん、どうかした?」

微笑むみーくんの目が優しくて、

「なんでもない」

めっちゃ照れる。思わず、袖で口元を隠した。

みーくんにとって、俺のそばにいるのが”普通”になるのはいつなんだろう。

気長に待つつもりだけど、なるべく早くしてほしい。早く次の関係に進みたいから。

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