4.5 数日後のふたり
ふたりの視点
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side:梨田未央
漫画返してもらうついでで、しーちゃんと校舎裏でお弁当を食べれることになった。
ありがとう作者さん。できる限り、続巻を出してほしい。
「ね、あの、しお君」
隣に座るしーちゃんは、イラッとしたように眉をひそめてにらんできた。
「は?なんでその呼び方なんだよ」
「え、だっ、だって…」
俺は分かりやすくうろたえてしまった。
「人前で、やめろって、言っただろ」
「えっ…と、じゃあ、しーちゃん」
俺が尻すぼみで呼びなおすと
「なんだよ?」
しーちゃんは、今初めて話しかけられたかのように、『ん?』とゆるんだ顔をした。
しーちゃんは難解だ。俺には計り知れない。
でも知らないしーちゃんを知っていくのはすごく楽しい。どんなしーちゃんも俺は大好きだ。
俺は『呼び方気を付ける』を心のルールブックに追加した。
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side:潮谷詩織
漫画返すからと理由をつけて、みーくんと弁当を食べる約束をした。
いつからなんの理由もなくてもよくなるのか。気長に、とは思ってる。
「ね、あの、しお君」
「は?なんでその呼び方なんだよ」
イラッとして、思わずにらんでしまった。
「え、だっ、だって…」
みーくんはわかりやすくうろたえている。仕方ない、こっちらか言ってやるか。
「人前で、やめろって、言っただろ」
「えっ…と、じゃあ、しーちゃん」
みーくんはおろおろしながらも、前髪の間からじっと俺を見つめてる。
俺がどうするか、気になってしょうがないんだろう。
「なんだよ?」
だから、ちゃんとできたら微笑んでやる。最初のしつけが肝心だ。
みーくんは照れながら、嬉しそうに笑っている。こういうところは小っちゃい頃から変わらないな。
「あの、こないだ言ってた、今度サンデー食べに行こうってのだけどね」
「おう」
「ほ、本当に俺と行くの?」
「……は?」
何言ってんだこいつ。まさか行きたくないとか?俺がどんだけお膳立てしてやったと思ってんだ。
「いや、俺は一緒に行けたら嬉しいよ。でも、俺と一緒だとしーちゃんのお邪魔にならないか心配で。しーちゃんがお友達と過ごす時間も奪っちゃうし」
「俺と一緒が嫌って遠回しに言ってんのかよ」
思わず剣のある口調になってしまった。
「違うよ!俺、暗いし、なんにも面白いことも言えないし、しーちゃんと一緒に行っていいのかなって思って……」
自信なさげにそう言うみーくん。でも、俺から決して目を離さない。俺の反応をうかがっている。
その目が何を求めているのか、わかってしまう。わかってしまって、顔が崩れないようにするのを我慢した。
「嫌だったら誘わない」
俺はそれだけ言いきった。ほら、言ってやったぞ。わかってるよな?
「……じゃ、じゃあ、一緒に行っていい?」
弱弱しく聞くみーくんに
「おう」
そう言うと、みーくんはほっとした顔から、嬉しい顔になった。
ほんと、わかりやすい。
「俺はいつでもいいから、しーちゃんが行ける日にしよう」
みーくんは急に前のめりになって、俺の方に体を寄せて来た。大きいワンコが懐いてきたみたいな感じがする。わふわふしてやりたい。けど我慢。
俺はポケットからスマホを取り出し、なんでもないかのようにふるまった。
「あー……、じゃあバイトのシフト出たら言うわ」
一応見てみたが、まだ次のシフトは出てなかった。早く出せ店長。
顔を上げると、みーくんがきょとんとした顔をしていた。
「しーちゃん、……バイトしてるの?」
「そうだけど」
「なにしてるの?」
「バーガーショップで、レジしたり」
「……大丈夫なの?人見知りなのに」
「……バイトに行ってんのに、人見知りだからあれやだこれやだとか言ってられないだろ?」
「しーちゃんはすごいね、苦手なことでもがんばってるんだね」
感心したような視線を向けられたけど、俺はそうでもないと淡々と返した。
みーくんは俺を人見知りだと思ってる。けど、そうじゃない。
知らない奴と話すのなんて、全然平気だ。
自分の見た目が人目を惹くって知ってるから、やたらと寄ってこられるのがうっとうしいから、人を寄せ付けてないだけ。そしたら周りが勝手に、俺を人見知りだと思っただけ。そういう奴って符号つけといた方が安心できるのかな。今更否定するのも面倒くさいし、どうでもいい。
みーくん、俺、他人なんてどうでもいいよ。そういう奴だよ。
「ん?なぁに?」
「別に」
ブロッコリーを食べようとしていたみーくんが、俺の視線に気づいてこっちを向いた。
みーくんは、いつだって俺を見ている。そういうとこも、変わらない。
「ブロッコリー、食べる?でも好きじゃなかったよね」
「好きじゃない」
ブロッコリーを好きで、見てたわけじゃない。
「じゃあね、しーちゃん」
「おう、またな」
「……うん!またね」
みーくんは、ほんとうに嬉しそうに笑う。俺と”また”があることでそんな笑顔になるんかってくらい。
その笑顔を目に焼き付けてから、教室に向かった。なんとなく後ろを振り返ると、みーくんが廊下の片隅でじっと俺を見ていた。早く教室に戻れと手で払うようにしたが、みーくんは腰のあたりで俺に小さく手を振ってきた。手を振っていたわけじゃないんだが。
まぁ俺が見えなくなったら教室に戻るだろうから、放っておくことにした。
みーくんは、自分は暗いだのなんだの言うが、頑固なとこは変わらない。昔から、お気に入りのものは絶対に離さなかった。お気に入りのロボットもカイセンジャーのフィギュアも、壊れるまで持っていた。壊れても新しいのを買ってもらわず、自分で直して、同じものをずっと大事にしていた。それくらい、好きなものを手放さなかった。
「しーちゃん」
翌朝、電車を降りて学校に向かって歩いていると、おずおずとみーくんが俺に追いついてきた。
耳元で、しかも小声で呼ぶのはやめてほしい。いろんな意味でびっくりする。
「はよう」
「お、おはよう……」
追いついてから、キョドキョドと周りを見回している。きっとみーくんは、俺のそばにみーくんがいるのを見られているのが気になるんだろう。
それでも俺から離れようとしない。離れるなんて、考えてもいないだろう。
みーくんの今のお気に入りは、絶対に俺だ。
そう思うと、自然と顔が緩む。けど、みーくんに格好悪いところなんて見られたくないから、俺は両手で顔を覆った。
「どうしたの?」
「……あくびしてただけ」
急いで顔を整えた。みーくんは俺の顔が好きなんじゃなく、顔も好きなんだとは思ってるけど、どうしても気をつけてしまう。
「そっか」
ふにゃりと笑うみーくん。
俺より背も高くなって、骨格もしっかりしてる。手がゴツゴツしてるのもいい。手を繋いだら、触れたら、どんな感じだろう。
でもなにより、俺だけに向けてくる熱のある視線と、優しい笑顔、柔らかく接してくれるのがたまらない。俺だけが特別なんだよって、態度に出てる。
みーくんは、今日もかっこいい。前髪がメガネにかかってるのが気にはなるが、切られるとそれはそれで困る。
「ん?なんかついてる?」
じっと見過ぎてたら、みーくんが顔をペタペタ触りだした。
「なんでもない」
きっと、みーくんが外見も中身もかっこいいことは、俺しか知らない。
「みーくん」
「なに?しーちゃん」
車道側を歩くみーくんは、前から来た自転車に、少しだけ俺の方に詰めた。
それだけのことなのに、ちょっとドキドキする。
「しーちゃん、どうかした?」
微笑むみーくんの目が優しくて、
「なんでもない」
めっちゃ照れる。思わず、袖で口元を隠した。
みーくんにとって、俺のそばにいるのが”普通”になるのはいつなんだろう。
気長に待つつもりだけど、なるべく早くしてほしい。早く次の関係に進みたいから。




