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第16話 子供は子供だけれど

 私の置かれている状況と目的を知ったレネは目を細め、しばらく考え込むと口元に手をやった。

 こういう仕草ひとつだけで絵になることを『洗練されている』って呼ぶのかしら。

 絵になるだけでなく真剣に考えてくれていることが伝わってきて少し安堵する。気のせいだよと笑い飛ばされなくてよかったわ。


「なるほど、それを一人でやろうとしてたなんて凄いな……」

「信じてくれるの?」

「うん、もちろん。……あ、だからってなんの確証もなく言ってるわけじゃないよ」


 そこは安心して、とレネは微笑む。

 もしかしてアルバボロス家の家系魔法で何か見えるのかしら?

 そう思って訊ねてみると、レネは情けなさそうに眉をハの字にして言った。


「たしかに僕らの家系魔法は対象の情報を知ることができる。ヘルガだから明かすけれど、情報がスクロール状に見えて、そのスクロールは魔法の使用者にしか認識できない、……らしいんだ」

「らしい?」

「僕は素質はあるけど、まだそれを使えないんだよ」


 情けなさそうにしていた理由がわかり、私は目を瞬かせてレネを見る。


「子供の頃から家系魔法を使える人は少ないんだ。これもヘルガに興味を抱いた理由に含まれることだね」


 そもそも大人になっても素質はあるのに使いこなせない人もいる、と続けられた言葉に私は驚いた。

 そういうこともあるのね……。

 てっきり素質さえあれば成人した辺りで自然と使えるようになるものだと思っていたわ。


「僕の父も十年ほど前にようやく祖父から合格点を貰って役目を継いでね。母は使いこなすのが早かったから、今はふたりで組んで役目を果たしてるんだ」

「レネのお母様もアルバボロス家の出身なの?」

「うん、父とは従兄妹同士だ。同一の家門出身なら家系魔法の封印義務はないから、一部の貴族ではよくあることだね」


 とはいえウチは恋愛結婚も同然だけど、とレネは言う。

 な、馴れ初めとか気になっちゃうけど今はそれどころじゃないわね。


「他の貴族との縁も結ばなきゃならないから、近親婚ばかりしていられなくて色々と難しいみたいだ。まあそれで頭を悩ませるのはまだ父と母の役目だけど」

「なるほど……私ってまだまだ知らないことが多いわ」

「ヘルガが望むならある程度は教えられるよ?」


 先生をしてあげようか、という問いだ。

 私は小さく笑うと首を横に振る。


「あなたにはとんでもないことに協力してもらうのに、これ以上負担を増やすわけにはいかないわ」

「えぇ、気にしないのに……」

「私がするのよ。レネはしっかりしてて……というか大分しっかりしてるけど、まだ子供なんだから」


 子供といえば、と私は身を乗り出す。


「協力はしてもらうけど、なにか危ないことが起こったらちゃんと逃げるのよ。いい? 必要なら私に指示されたって言ってもいいわ。自分の安全を一番に考えてちょうだい」

「……ヘルガの方がしっかりしてない?」

「わ、私はいいの!」

「そのマイルールは子供っぽくて安心したよ」


 面白そうに笑うレネを見て私は脱力した。

 この危機感のなさがわざとなのか子供だからこそなのかいまいち判断がつかない。


「レネは、その……どうしてそんなに落ち着いていられるの?」

「落ち着いてるかな?」

「ええ、人間の命がかかっていることなのに」


 十四歳とはいえ、命に関わることに対して落ち着きすぎだ。

 どっちの理由で危機感がないとしても気にかかる。

 ……もちろんどっちであったとしても、協力してもらうとはいえいざという時は私が守ってあげなくちゃいけないけれど。

 そんな覚悟を隠しつつ問うと、レネはあっけらかんとして答えた。


「あはは、他の国はどうか知らないけど……貴族が誰かに命を狙われるのはままあることだからね。金と名誉が関わると人間は禄でもないことになりがちだ。ヘルガの場合はかなり特殊みたいだけどさ」

「た、達観してる……」

「むしろヘルガが知らなさすぎ――いや、そうか、ご両親がまだ早いって隠してくれてたのか」


 レネは少ししょげた顔をする。

 話している内容は大人っぽいけれど、こうして表情がころころ変わるところは子供っぽい。


「悪いことしちゃったな……」

「そ、そんなことないわよ、知れてよかったわ」

「本当? じゃあまた今度色々教えてあげるね!」

「ええ、宜し――巧みすぎない!?」


 一度は断ったことを承諾させられかけたわよ!?


 子供だと心配するのはいいけれど、子供だと侮るのはやめた方がいいかもしれない。そう心に刻んでいると羽ばたく音が聞こえてきた。

 部屋の隅で待たせていた影の鳥のヘラだ。

 レネもそこで初めてヘラに気がついたのか目を丸くした。


「あれは?」

「お父様側の家系魔法で呼び出した影の鳥よ。ヘラっていうの」


 今日はロジェッタ夫人が来るということで、パーティーの日と同じく自室に待機させていたのよ。

 訓練のために常時呼び出しっぱなしだと説明するとレネは目を輝かせた。


「凄いね! これは触れる? 鳴き声とかは鳥のもの? 重さは感じられるの?」

「また矢継ぎ早……!」

「母様たちには僕らは遊んでることになってるからね、ここは楽しい顔をして戻らなきゃ。だから教えてほしいんだ……あっ、ちょっと待って、メモを取るから!」


 レネは慌ててポケットから手帳を取り出した。

 ――と、ぱらぱら捲ったページの中に凄まじいものが見えたのだけれど気のせいかしら。具体的に言うと私について事細かに書かれているページが。

 私の視線に気がついたレネは「あ、もしかして見えた?」と曖昧に笑う。


「うん、ストーカーじみたものが……」

「確実なデータとそれを元にして導き出した予測や考察をメモしてたら凄い量になっちゃって。あはは、けど無害だよ!」

「どう無害!? というか、まさかなんの確証もなく言ってるわけじゃないっていうのは……」

「新しく得た情報を考察と照らし合わせた結果が後ろ盾としてあったから」


 なんとも随分な確証だわ……!


 しかしレネは自信があるらしい。

 手帳をしっかり見ればその自信にも納得するかもしれないけれど――それを申し出るのはとりあえず控えておいた。

 下手すると私自身よりヘルガ・ヘーゼロッテに詳しい可能性があるわ。


「けどヘルガについて知らないことがまだまだ沢山あるんだ。これから沢山教えてよ、僕も君の知らないことを教えてあげるからさ」

「ふたつも願いを叶えようとしてるわね!」


 ぬ、抜け目ない。

 そしてアルバボロスの執着が思っていた以上だわ。

 やっぱり侮らない方がいいかも、とそう再び心に刻みつつ、私はヘラを鳥籠から出して無理やり話題を変えたのだった。

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