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第13話 答えを出すには

「ど、どうしてそこまでしてくれるの?」


 色々と訊ねたいことがあるのに口を突いて出たのはそんな質問だった。

 レネは微笑み、私はここで初めて彼のまつげが長いことに気づく。切れ長の目でも随分と印象が変わるのね、と意図せず見入っているとレネは私に訊ねた。


「アルバボロス家の特徴については聞いてない?」

「特徴……? 家系魔法についてじゃなくて?」

「うん、――というかその様子だと聞いてないみたいだね」


 自分の家のことを自分で話すのは恥ずかしいけど、ヘルガに理解してほしいから説明するよ、とレネはそんなストレートなことを言う。

 本当に大人顔負けの子だわ。


 彼曰く、アルバボロス家の人間は『自分たちの家系魔法で得た情報』を大事にする傾向が強いらしい。それは要するにとても強い執着だった。

 これは本能的なもので、なかなかに抗い難い感情なんだよとレネは語る。


「その性質が影響して、僕たちは嘘が大嫌いなんだ」

「嘘が……大嫌い?」

「そう。嘘をつくのも嘘をつかれるのも、ね。ただ世の中には必要な嘘があるのもわかってるから、これは自分たちが嘘をつくのが嫌って感情のほうが強いかな」


 自分次第な部分だから、とレネは付け加える。

 だから僕を信じてもいいよっていうアピールなのかしら。

 釈然としないまま私は一歩前へと出る。誤魔化しきれないならはっきりさせておかなくちゃ。


「それで、なんで私にそこまでしてくれるの?」

「僕は君に興味があるんだよ、その理由はさっき言った通り家系魔法を二つも持ってるから。そしてそれを知るきっかけになったのは――」

「アルバボロス家の家系魔法?」

「そう。だからこの情報は大切にしたいし、君を他の誰かに害されるのは良い気分じゃない。一族外の人には理解しづらいかもしれないけど、少しはわかってもらえたかな……?」


 なるほど、なんとか繋がった。

 でもかなり主観的な話だわ。信じるべきか否か相当迷う案件よねこれ、と悩んでいるとレネはくすりと笑った。


「会ってすぐの人間に突然こんなことを言われたら悩むよね」

「それはもう凄く……」

「ひとまず今回のことは黙っておくから安心して。協力が必要になったらいつでも教えてよ」


 僕なりに出来ることを探してみるから、とレネは手を差し出す。

 私は一瞬躊躇したけれど、その手を握った。

 とりあえずここで黙っていてもらえる上に、答えを保留にしてもらえるならありがたいことだもの。


(でも……あとでお母様にアルバボロス家について詳しく訊ねてみよう)


 親友の家のことならなにか知っているはず。

 そんなことを考えながら、私はレネを連れてパーティー会場へと戻った。


     ***


 レネは両親と廊下を歩いていた際、飾ってある甲冑に見入っている間にはぐれたのだという。私はそんなレネを見つけて会場に連れてきたという形で落ち着いた。

 アルバボロスは嘘を嫌うって言ってたけれど、これはまあ全部が嘘ではないからOKらしい。

 もしくは私を守ることの方が優先度が高いからかしら。

 ……なんとも不思議な子だわ。


 誕生日パーティーはつつがなく終わり、お姉様から貰った深紅のリボンタイを眺めながらにこにこと笑う。お姉様の髪と同じ色だ。

 ドレスもいいけれど、これならもっと気軽に身に付けられる。


 お父様からは万年筆、お母様からは綺麗な模様の彫られたブラシを貰った。

 どちらも高価そうで日常使いしていいものか悩むけれど、箪笥の肥やしにするわけにはいかないのできちんと使っていこう。

 親戚たちからも様々なものを貰い、自室の端にプレゼントの山ができていた。


 その中にアルバボロス家から貰った日記帳がある。


(この世界の紙にしては凄く触り心地が良かったから、きっとこれも高価なものよね。……)


 高価な万年筆で高価な日記帳に自分のことを書くのって少し気が引ける。

 そうだ、お姉様の日々の可愛らしさや美しさ気高さを書き綴っていけば値段に見合うものになるかも!

 そう思いついたものの、本人に見つかった時のことを考えると大分リスキーだった。残念ながらボツね。

 悩みながら日記帳を手に取った時、レネの顔が脳裏に過った。


「……」


 前々から協力者がほしいと思っていた。

 けれどまさかこんな形で現れるとは。しかも聞けばレネは十四歳、私のふたつ上だけれど子供は子供だ。

 信用云々以前の前に巻き込んでいいのかどうか、そんな悩みが加わっていた。


(……答えを出す、そのためにも情報が必要だわ)


 私は日記帳を机の上に置き、自室から外へと出る。

 時刻は夜だけどお母様たちはまだ起きているはず。そうして向かった両親の部屋をノックすると、すぐにお母様の返事があった。


「あら、どうしたのヘルガ?」

「……? お父様は?」


 ベッドにいるのはお母様だけでお父様の姿が見当たらない。

 首を傾げているとお母様は私を手招きながら言った。


「少しお仕事で気になることがあったらしくて、お父様の部屋に行ってるの。それより……もしかしてひとりで寝るのが怖かった?」

「そ、そうじゃありません」


 私は慌てつつお母様に近寄る。

 お父様も各貴族の情報を持っているから色々聞いてみたかったのだけれど、発端を考えるとこの方が都合がいいかもしれない。

 私はお母様の傍らに立って言った。


「お母様――アルバボロス家について聞いてもいいですか?」

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