番外編 昼休みの後
あー……疲れた。相変わらずあいつの相手はつかれる。
「ライナ、次移動教室だから一緒に行こ」
「ベルと一緒に行くとクラスの注目を集めるから嫌だ」
「私たちが最後だから大丈夫だよ」
え、ほんとだ。やっぱりあいつの相手で疲労困憊してんのかな。神作家様の小説も見たいし授業サボろうかなー。……さすがに駄目か。
「わかった。一緒に行こ」
「やった〜!久しぶりにライナと話せる!」
「……癒し」
「急にどした?」
こちらのふわふわ〜な雰囲気を纏わせいて超キュートで一軍なのに陰キャに優しいこの子は私とあいつの幼馴染、ベル。
この学園で唯一私があいつの婚約者だってことを知ってる私の唯一の味方。
「どうだったの?クラスの違う婚約者との"いつも"の昼休みは」
「いつもを強調しないで……あいつもいつも通りだったよ」
「……毎回思うんだけどさ、なんで呼び方あいつなの?」
昔はアスランって呼んでたじゃん!と言われましても……。照れるもんは照れるんですよ。
すみませんね。こんな乙女とは懸け離れた人が乙女みたいなことを言ってしまって。
「好きすぎて名前呼べないってか。ピュアだねー」
「べ、べつにそんなんじゃない!あと、勝手に心読まないで」
この子怖すぎない?
「そんなこと言ったらあいつも私のことお前って呼ぶじゃん」
「え、知らないの?アスランは……」
「あ!待って、あいつが私を探してこっちに来てる気がする!ごめん話遮っちゃうけど逃げなきゃ!もしあいつが来たら逆方向教えといて」
昼休み以外話しかけてくんなっていったのに。
やっぱり窓がたくさんあるこの廊下は逃げやすくて良いね。詠唱省略 無属性魔法 身体強化!
強化されたことをしっかり確認。異常なーし!
はやく逃げなければ!いくら周りに人が見えなくても、来る可能性はいつでもある!
もしあいつと親しく喋ってる私を誰かが発見したら……私が婚約者だってバレてしまうっ(思い込み)速く逃げなければ。
「窓から飛び降りちゃ駄目だって……もうこの非人間感覚も慣れたな」
どうもーベルですっ!。只今好きな人に会いたくないからというため息が出るほどつまらない理由で窓から飛び降りた、この国で二番目に地位の高い令嬢をみて呆然としています。
本当に人間なのかなと頭をフル回転させていた頃が懐かしい。
「久しいなベル。俺の婚や……友人がどこに行ったか分かるか?」
マジできたよ……ほんとこのカップル裏で私を困らそうと作戦たててるとかじゃないよね?
「……あっちに行った」
「そうか」
「っ?!なんで逆方向行くのよ!そして窓に足をかけない!」
「どうせルピ……ライナのことだ。お前に逃げる逆方向を言えと教えてるのだろう」
全部分かってるの怖っ。残念だったねルピシア。アスランのほうが一枚上手だったわ。
そしてこのバカップルは窓から飛び降りるということに抵抗がないのかな?一応ここ二階だからね?
「ていうか私の前ではちゃんと名前って呼ぶんだ」
「なんだ?俺は婚約者の名前を呼んではいけないのか?」
「だってアスラン、ほとんど毎日名前で呼ばずにライナの事お前って呼ぶじゃん。いつになったらまた昔みたいに呼ぶのよ」
「それはだなちゃんと理由が……」
「はいはい、それはいつでも聞いてあげるから!恥ずかしがらないで速くあいつの前で呼んであげて!ちょっとだけ拗ねてたよ?」
「……わかった」
今回はどっちが先に折れるかな……。あの調子じゃアスランは呼ぶの一週間はかかるね。
その間にライナが呼ぶかな。やばい考えるだけでニヤけてくるわ。やっぱあそこのカップルが一番尊いのよ。
「ふふふふ尊み尊み……」
はぁっ……はぁっ……。窓から降りて結構走ったな。走りすぎたせいかさっき少し寒気がしたけど……風邪ひかない事を祈ろう。
「ここまでくれば安心のシンちゃんだわ……私の隠れる技術はあいつより珍しく上!この巨大庭園に隠れとけばいける……はず」
多分今頃私の方向向かってるんだろうなぁ。あいつ考えてる事ぐらい手に取るように分かるっての。
……あ、そういえばこの間思いついた良い作戦があるんだった。作戦名、魔法で私そっくりな人形を作ってあいつに一泡吹かせよう作戦。
ちょっとだけ手間をかけて…遠隔で話せるようにしたら、よし完成。
ザッザッザッ。
来た来た。
「まさかそれで隠れているつもりか?きれいな髪が丸見えだぞ」
ふっ何が綺麗な髪だよ。それは土魔法でつくった人形だから見た目めっちゃ綺麗だけど触ったらザラザラだわ!
「無視はよくないな。この俺だって傷つく」
よしよしどんどん人形の方に言ってる。めっちゃ近くまで行ったら人形にアスランって呼ばせよう。
「少しお前に話があるから放課後生徒会室に少し早めに来てくれ」
よしっ今だ!
「分かったよ、アスラン」
「……は?」
ふっ驚いた顔してやがんの。我ながら完璧な魔法を編み出したものだ。
……でも声がそっくりすぎてやばい。私まで照れてきた。
「本当はもうちょっと遊んでやるつもりだったんだが無理みたいだな。説明してもらおうか」
「……え」
なんで本物の私の方向向いてるのかな?人形は逆方向だよ?目医者行く?
「そっくりな物を造ったな。だが俺には通じんぞ?見た瞬間気付きはしたのだが……お前を見つけるのに手間がかかってしまった」
「……どこが違ったの」
「お前の髪質はあんなによくないし、もうちょっと可愛いオーラが出ているからな。声ももうちょっと落ち着く声をしている。」
「髪質の件は後で一発殴らせてもらうとして」
「我、皇太子ぞ」
「可愛いオーラって何よ……やっぱ頭おかしいわ」
「今回も学年順位は一位だったが?」
「チッ」
なんでこんなやつが皇太子で勉強も剣も魔法も全部一位なんだよ。おかしいだろ。落ち着く声ってんなんだよ。可愛いな、おい。
「そういえば、さっき幻聴かわからんが俺のことをアスランと呼ぶお前がいたな」
「だからそれは人形っ……」
「一回も二回も変わらないだろう、もう一回呼んでみてはどうだ?」
「嫌だね」
「……そうか」
「あからさまにシュンとすんなよ……罪悪感が芽生えてくるわ」
「……やはり人形よりお前のほうが何倍も可愛いな」
「はいはい、話が通じないねー」
「そろそろ少しは照れたらどうだ」
「わ〜すっごい照れたー。ほら授業始まっちゃう。はやく行くよ……アスラン」
「っ、そうだな……ルピシア」
私の横に並んで歩き出した愛しの婚約者は少しだけニヤけていた。
「今日のランチも美味そうだな」
「まぁ〜ね〜。大人になったら旦那さんに作ってあげたくて」
「楽しみにしておく……ルピシア」
「こらっ!ここではライナだろうがっ!バレたらどうすんの?!馬鹿なの?」
「馬鹿はひどくないか?」
「……まぁ楽しみにしてて、アスラン」
「!!あぁ、楽しみにしておく」
今日も私の婚約者はとても可愛い。……可愛いって言ったら怒りそうだから言わないけど。