1プロロ
俺は一条巧、もう死んでしまった過去の名前だ。俺はニコル・グルマクとして転生した。
ニコルつまり俺は、バルト王国の貴族グルマク家の次男として生まれたらしい。俺が前世の記憶を取り戻したのはつい最近のことで、16歳の誕生日のときだった。この世界では16歳が成人の年齢となっている。そして厄介なことに、記憶を取り戻して早々戦場へ行くことになったのだ。
このバルト王国には隣接する国がいくつかあるが、その中でも特に仲が悪いのがこの国から見て東にあるリニア帝国だ。そのリニア帝国とは何年も前から戦争が続いているが、最近は特に激しくなったらしい。そのため貴族も自らの子を戦地へ送らねばならなかった。血筋だけの貴族は、次男や養子などの将来家を継がせるつもりのない子供を戦地に送り出す。そう俺は血筋だけの貴族グルマク家から捨てられたのだ。
異世界に転生して早々戦地に行くことになったが、異世界転生あるあるパターンのチート能力というものは何ももらってないらしい。まあ前世の記憶があるだけで技術の発展が元の世界から80年ほど遅れているこの世界では、相当のアドバンテージにはなるだろう。
そんな俺もこの世界では一応貴族なので軍の中では、平民よりもスタートする階級が高い。平民は、基本三等兵からスタートするが、貴族の出は一等兵からスタートする。ちなみにグルマク王国軍の階級は、下から三等兵、二等兵、一等兵、上等兵、準特等兵、特等兵の順の6段階に分かれていて、兵の種類は一般兵、狙撃兵、索敵兵に主に割り振られている。稀に「二つ名」を持っていたり「魔法攻撃兵」などの特別なものがいるが、基本的にはその3種類に割り振られる。
気になったかもしれないが、この世界に魔法はある。しかし、使える人が東大生くらい少ないため、多分お目にかかれないだろう。
俺は一等兵であり、入隊時の適性検査の結果から狙撃兵だ。なので一等狙撃兵とよく呼ばれる。一等兵の権力はそれなりのもので、小隊くらいは持てる権力がある。俺も小隊を持っている。ニコル小隊のメンバーは、隊長ニコル一等狙撃兵、副隊長キーペ二等索敵兵、隊員サンド三等狙撃兵、隊員タバリ三等狙撃兵の四人だ。
このリニア帝国との戦いで、俺は早く戦果を上げて隠居したいのだ。前世の記憶が戻る前のニコルなら、愛国心というものがあったかもしれないが、あいにく今のニコルは日本にしか愛国心を持っていないので、こんな1ミリも知らない国のために命をくれてやる場合ではないのだ。
つまり、リ二ア帝国防衛線突破作戦という俺の初陣で戦果を挙げなくてはならなかった。自分の正体は狙撃兵ばっかなのでテキトーに高いところからポンポン撃ってれば戦果が上がるのだ。他の役職に比べ、芋ってればいいので楽な仕事なのだろうか。まぁ後で全然楽な仕事ではないとわかるのだが…。
数日が過ぎ、俺はリニア帝国との戦争に最前線まで来た。これから今回の作戦の指揮を執るなんとか准特等からのありがたいお言葉があるらしく、一等兵以上は集められていた。
前の世界だと、JKと呼ばれるような風体をしている、准特等らしき女が前の世界で言う指令台のようなやつに乗って話し始めた。
『私は准特等兵の「風刃」フタバ・アキヤマだ』
早速二つ名のある将と戦えるのは運がいい。ヘイトが向きやすいからだ。それにしても名前が明らかに転生者なんだが…。
アキヤマ准特等のもう何回も話したかのように、口からスラスラと言葉が出てくるありがたい話は続く。そこで事件は起こった。
『下を向き、戦うのは良くない。前を向きたくなかったら横を見ればいい。``右を向いてみろ!``おまえには仲間がいる。なんのための小隊だ。仲間と励まし合うためだろう。』
やらかした…``右を向いてみろ``は日本語で発せられたのだ。この世界にはもちろん日本語とは違う独自の言語を持っている。つまり上官の話しているときにそっぽ向くやつもいるわけないので、日本人だとバレてしまったのである。しかもアキヤマ准特等とはバッチリお目々があった。
そんな事を考えているうちに、アキヤマ准特等からのありがたいお話も終わろうとしていた。
『``さっき右を向いた兵!お前はこの話が終わってもここで待っとけ。顔は覚えているからな``』
と日本語で話す准特等。完全に同郷であるということがバレてしまったらしい。
アキヤマ准特等からのありがたい話が終わり、ぞろぞろと自室ならぬ自テントに帰る一等兵や上等兵から変な目で見られた。これも准特等のせいだ。
今俺はアキヤマ准特等の執務室に来ていた。
『いやー、本当に引っかかるやつがいるとはな』
准特等がケラケラと笑う。あの話は毎回話していたらしい。だからもう同じ話を何回も話したような口ぶりだったのだ。
『君はこの世界に来て何年目なんだい?』
ケラケラ笑っていた表情はすぐに引き締まり、真剣な顔で俺の目を見て聞いてきた。
『この世界に転生したのは16年目ですが、記憶を取り戻したのは数ヶ月前です。アキヤマ准特等はこの世界に来て何年目なんですか?』
准特等は驚いたように言った。
『そうか…君は転生したのか。私は転生ではなく召喚させられたんだよ。私の二つ名『風刃』も召喚のときに授かった力さ。』
『君、まだ名前を聞いてなかったね。君の名は?』
准特等が思い出したように聞く。
『ニコル・グルマクです。転生前の名前は九条巧です。』
『そうか、巧か。巧、君は200X年の仙台市で高校生が集団で神隠しにあったのは知ってるか?』
『懐かしいですね。集団で消えるのがおかしいって、何回もテレビで取り上げられてましたよ。…まさかアキヤマ准特等がその被害者とでも?』
准特等は驚いたのか目を見開いた。
『いい推理力だ。そう、あのときに異世界に連れてこられて、そのまま闘うことを強制された。その中で、私のように力を開花させる友もいれば、無惨に死んでいく友もいたよ。』
准特等は力を込めるように言った。
『同郷の君だから信頼して言うが、私はこの世を憎んでいる。私は近々反乱を起こす。もちろん無駄死にするつもりはない。元の世界に帰る手がかりもついている。もう遅いのだがね、私は人を殺したくはないのだよ。こっちの世界出身の奴らには、私達ほどそのことに嫌悪感を持っているやつはほとんどいない。私はこんな世界でこのまま一生を終えたくないんだよ。ついでと言っては何だが、君も日本に戻らないかい?もちろん結論はそんな簡単に出ないと思うから、この作戦が終わるまでに決めてくれ。』
『じゃあな』
さっきまで反乱とか物騒な話をしていたとは思えないくらい、准特等は明るく手を振った。これも同郷に和えた嬉しさからだったのだろうか。
『転生早々めんどくさいことに巻き込まれたな』
俺は判断に迷いながら、ニコル小隊のテントに戻っていった。
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