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7.訓練戦

「さて....。訓練戦ってどんな感じでしたらいいんですか?」


室内に入ると手足を回す準備体操を行いながら会話をする二人。


「最初にルールを決めて、合図とともにスタート。あとは自由に戦うだけだ。」


「なるほど....でしたらルールは?どうしますか?」


「....致命傷を負わせるのはなしで。....能力の使用は....ありでもなしでも、俺の能力は藤白さんに無効化されるから、どちらでもいい。」


「....そうですね。ですが、私は他人の能力をコピーすることも出来るので、貴方の能力を無効化せずとも、彩葉ちゃんの雷の能力をコピーすれば、貴方など一蹴できてしまいますが....。貴方が仰っていたことはそういうことではなく、ただの肉弾戦の場合の想定だったので、今回は無しにしましょう。」


「....。」


既に莉瀬の能力の強さを見せつけられたような気分になり思わず息を飲む眼鏡の青年。


「凄いね藤白さん、もう京ちゃんの能力ちゃんと把握してるみたいだ。」


「京、ちゃん?」


ルール決めの間、外で見守っていた三人も会話をしていた。黒目の小さい青年が「京ちゃん」と呼ぶも、彩葉達はまだ彼らの名前すら知らない。


「あぁ、自己紹介が遅れてごめんね。京ちゃんの失礼な発言も....ごめん。こうして話すのは初めてかな。俺の名前は鈴浦翔明(すずうらしょうめい)。医療部隊のD級隊員。中にいるいけ好かない奴は、漆谷京助(うるしだにきょうすけ)。情報部隊のB級隊員。京助の京で、京ちゃん。」


「あの威勢で情報部隊員なの?!てっきり戦闘部隊員かと....って、それに、びぃ?!」


思わず彩葉は大きな声を上げる。戦闘経験も殆ど無い情報部隊のB級隊員が戦闘部隊のS級隊員にそこまで強気で挑んでくるとは思ってもみなかったからだ。


「こらこら、失礼だぞっ。....初めまして。俺は沖永朝陽。こっちは....」


いくら眼鏡の青年、京助に喧嘩を売られたからと言えど、失礼な発言を止めるため彩葉の頭に手を置き、自己紹介をする朝陽。


「君たちの事は知ってるよ。俺ら同期入隊だし、沖永くん達は有名だからね。」


「ま、まじかっ。それにしても、あいつと君、部隊が違うのに仲がいいなんて、凄いな。」


部隊が違うと業務や生活なども変わるため、会うことなどは少ない。そのため仲良くなるのは自然と同じ部隊の人間であることの方が多い。


「あはは、沖永君と蓬田さんみたいに、俺らも幼なじみだからね〜。俺たちは小学生の時からの。」


幼なじみということまで知られているほどに自分達が有名だと知った朝陽は口をポカンと開けた。


「あ!始まるよ!!」


会話を聞きながら彩葉がふと中に目をやると、とうとう訓練戦が始まるようで、莉瀬と京助が部屋の端と端に立ち、向き合っていた。


「では、武器の使用はあり、能力無効化と彩葉ちゃんの能力コピーはなし。怪我をさせるのもなしで。やりましょう。」


「了解。合図を頼む。」


そう言われ、手を挙げ合図を出そうとする莉瀬。京助は、真剣な面持ちで眼鏡を触る。


「よーい、」


ーーメガネ割らないようにしなきゃ。


莉瀬はそんなことを考えながら手を振り下ろし、スタートの合図を出した。二人とも同時に目が光る。

合図と同時に京助は莉瀬から距離を取ろうと後ろに下がる。莉瀬は合図の直後、勢い床をよく踏み込み、京助と距離を縮めた。そして、京助に手が届く範囲に入ったところで、莉瀬は服に隠していたナイフを取り出した。


だが、全く驚く素振りを見せない京助。その上、莉瀬が振りかざすナイフの軌道をまるで全て分かっているかのように攻撃を避け続けた。


「何あれぇ?!」


「全部読まれてるみたいだな。」


状況がよく分かっていない彩葉と朝陽は食いつくように見つめた。翔明は神妙な顔つきで黙って二人を見ている。一見莉瀬の方が優勢ではあるものの、決定的な攻撃は一度もできていない。


「漆谷....?ってやつ、なんの能力持ってんだ?」


気になった朝陽が翔明に聞く。莉瀬も聞いてはいないはず....だが、莉瀬の場合は能力分析で既に把握していた。


「京ちゃんは、人の心を読むことが出来るんだ。」


ー漆谷京助、能力:読心


「いつまで、そうして我武者羅に攻撃を続けるつもりだ?」


避けながら煽るような口調で話しかけてくる京助。莉瀬も一度落ち着く時間を作ろうと距離を取った。


「貴方こそ、いつまでただ避け続けるつもりですか?力で私に勝てると仰ってませんでしたっけ?私の体を押さえつけて、ナイフを奪えばいいのに。」


「チッ....。それができるならさっさとそうしてる。........だから俺は、情報部隊にしかなれなかったんだ。」


莉瀬にも聞こえる大きさの舌打ちをし、吐き捨てるようにそう言った。

京助は戦いの合図の後すぐ、莉瀬の心を読んだ。隠し持っている武器を使うことはすぐに分かり、次の動きも分かるため、攻撃を避けることが出来る。が、莉瀬が脳で考えたことを実行するまでのスピードが早すぎるため、ギリギリ避けるだけで精一杯だったのだ。


「心が読めたって、攻撃が交わせたって、交わすのに精一杯で攻撃ができない。」


ーー攻撃に長けていない。私と同じね


「同じ?ふざけるな!俺は努力してC級からB級にあがった。君のような生まれ持った勝ち組とは違う!」


心を読まれ、会話をしていないにも関わらずいきなり叱責を受ける。外の三人は、完全にただの妬みだ、と思いつつも黙って戦いを見守った。

脳内を空っぽにしようとしても、つい思考が浮かんでしまう。どうにもならないことを分かりつつも莉瀬は自分の頭を抑えた。


「思考がダダ漏れで恥ずかしいだろ?こんな能力、無い方がマシだ。気持ち悪がられるし、思考の早い人間は結局思考を読むのも大変だし。」


眼鏡を抑え、俯く京助。莉瀬はならべく心を無にし、俯く京助に静かに近づきナイフを振る。

時々ナイフを振ると見せかけ、手や足で殴ろうとしてみるも、全て京助にはお見通しだった。


「無駄だ、考えないようにしても脳のどこかでは考えてしまっている。思考を辞めるなんて無理だ。」


莉瀬の次の行動を全て分かっている京助は華麗に避け続け、避ける必要もないような攻撃は腕で受けた。


例えば、彩葉のような能力を持っている者との戦いの場合、次の攻撃が分かっていてもその人外的な速さに体は追いつかない。だが、莉瀬の場合多少一般人より攻撃が速いと言えど所詮ただの人間。

そして、京助も戦闘部隊を志望していただけの事はあり、多少一般人より身体能力が高い。そのため莉瀬の速い攻撃を避け続ける事が可能だ。


「埒が明かないね。」


外でポツリと翔明が呟いたその時、莉瀬は京助から少し距離を取り目を閉じると大きく息を吸った。


「....?」


京助が怪訝な顔をする。それもそのはず、莉瀬の脳内の様々な思考が少しずつ消えていっているのだ。だが、全てが消えるわけではない。


ーー考えるな、考えるな


全て京助に聞こえている。考えないようにしても無駄なのに、と呆れながら京助も莉瀬に殴りかかる。が、もちろん莉瀬はただのパンチ攻撃など容易く避けることが出来る。


ーー落ち着け、落ち着け落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け


脳内で繰り返す莉瀬。ただの思考と言えど京助にとっては耳元で何度も同じ言葉を繰り返し囁かれているのに近しく、とても煩わしい。目を閉じ呆然と立ち、自分を落ち着かせようとすることだけを考えている莉瀬に、京助は勢いよく近づきジャンプし、顔に蹴りかかった。

だがその瞬間、莉瀬がゆっくりと目を開けた。その目を見た瞬間、京助は目を丸めた。それは京助の蹴りを莉瀬が瞬時に腕でガードしたからではない。莉瀬は変わらず脳内では落ち着けという単語しか想像していない。

だが、明らかに攻撃をしてこようと体勢を変えているにも関わらず、次の攻撃に関する思考がまったく読めないのだ。


「なっ....」


京助は目を泳がせながら莉瀬のナイフを掴む腕を掴もうと手を伸ばしたが、莉瀬は掴まれないよう腕をぐるりと回し、同時に逆の手で蹴りかかってきた京助の足を掴み、上へと引き上げた。そして京助の背中が床に叩きつけられると、莉瀬は勢いよくナイフを京助の首元に振り下ろした。


致命傷は負わせない。それがルールだったため、刃は首に当たる寸前で止めている。


「私の勝ちですねっ。」


それまでの重々しい表情とは打って変わり、可愛らしく微笑む莉瀬を見た京助はズレた眼鏡を直すことはなく、そのまま硬直した。

訓練戦はあまりにもあっけなく終わりを迎えたのだった。

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