第33話 リリィ覚醒
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「カナ! カナああああああああああ!」
肩から大量の血を流し、横たわるカナの姿を見て泣きながら名を呼ぶボク。
そんなボクの声に薄目を開けて、笑顔を見せてくれるカナ。
「しっかり気を保って! 今から推し魔法を使うから!」
「……ダメですわ」
そんなボクを静止するカナ。
「なぜ!」
ボクは理由がわからずにカナに尋ねる。
カナはかすれた声ながら力を振り絞り、ボクに伝えてくる。
「あの時……かつて私を救ってくれた魔法を使おうとしてくれているんでしょう?」
「そうだよ! 【推し魔法:エンジェル・キス】を使うんだ!」
「そうすると貴女は……力を使い果たしてしまいます」
カナはボクに現実を突き付けてくる。
「そうかもしれないけど、ボクが推し魔法を使えばキミは助かる!」
「その後は?」
「その後……は……」
カナを説得させる言葉を探す。しかし、詭弁さえ思いつかない。
「いやだ……ボクはカナを……カナを失いたく――」
「自分に使ってください」
カナは、カナの胸の上で泣きじゃくるボクの頭を撫で、言った。
「今……なんと?」
「ポルカ。自分に推し魔法を使ってみてください」
ボクは口をパクパクさせた。
「ボク自身に……推し魔法を……?」
「そうです、ポルカ。貴女自身にその凄い力を向ければ、奇跡を起こせるかもしれない」
「でも……ボクは……」
――ボクは無能冒険者。
一体、自分どこを好きになれば良いのだろうか?
「ポルカ。私達は似た者同士です。実績も何も無かった。そこにあったのは大きな望みだけを抱えたハリボテの自分。だけど……貴女と二人で歩むことで前に進むことができました。そして二人で一人前の冒険者にもなれました」
「ボク達……二人で……?」
「私のことを愛しているのでしょう?」
「ああ! 愛してる!」
「私も愛しています。だから、私が愛するポルカを、貴女自身も愛して」
「ボクは……ボクは……」
カナはそっと左手をボクの手に重ねた。
「私だけじゃないですわ。ミカさんもオボロさんも、そしてヘカテーさんや商人達みんな……それからセツさん。皆貴女のことを愛している」
「……うん」
ボクはカナと一緒に生活を始めてからのことを思い出した。そこで出会った人達が、今ボク達と一緒に居てくれる。
そんな彼らとの時間が、ボクの自信に繋がっている。
――と、その時。ボクとカナの身体が光りだした。
「こ……これは?」
「温かい……」
大量の魔力がボク達に向かって流れてくるのを感じる。
でも、どこから? ……ダンジョンから?
周囲を見渡すと、魔力の光の粒が浮かび上がり、ボク達の周囲に浮かんでいる。そして、粒の一つ一つがボク達の身体の中に入っていく。
――『リリィ覚醒』!
「ダンジョンから祝福されている……?」
ズーレの言葉を思い出した。確かに、そう感じれるほど、心地良く温かい魔力に包まれている。
そして大量の魔力はボク達の身体の一部に集結した。ボクは右目の下、カナは左目の下。集結した魔力はやがて瑠璃色の蝶の形となり、タトゥーのようにボク達の肌に定着した。
――力が溢れてくる……。
胸の奥で生命エネルギーが脈動しているのを感じる。その力のエネルギーは全身を満たしていく。そして、そのエネルギー全てからカナを感じる。
カナの愛を感じる。
だから、僕はその愛に包まれて、自分のことも肯定することができる。
「ごめん、弱気になってしまったよカナ。そしてありがとう。ボクがボク自身に推し魔法を使う……か。ボクも思いつかなかったよ」
ボクはゆっくりと立ち上がった。
その、ボクをこれまで出会った人たちが支えてくれているように感じた。
――皆がボクを愛してくれるから、ボクはボク自身を愛せる!
「見ててよカナ。キミの愛した女は、最高にカッコ良いって証明する!」
ボクは皆の笑顔を思い浮かべた。そして、カナの笑顔を。
ボクは、ボクに対する感情を爆発させた。
――【推し魔法 スキル技:スーパーチャージ(スキルエンハンス)】
魔力コインまたは魔力札を消費して発動。対象が持つスキルの性能を上げる。その効果は相手に対して抱く愛情によって変動する。
ボクは金色の魔力に包まれた。そして、手の平に集まった魔力が金色の札へと変わった。
ボクは、それを抱きしめるように胸に押し込んだ。
――【推し魔法 スキル技:変態】
推し魔法戦闘モード。すべてのステータスが愛する者達の数と想いの強さの分だけ上昇し、また愛する者達のスキルを使用することができる
「ポル……カ……。綺麗……」
ボクの背中から魔力が重なってできた羽が出現した。
そして、その魔力札一つ一つからカナ、そしてミカさんとオボロさんの力を感じた。
「カナ」
ボクはカナに近づき、カナの右手をカナの血まみれの肩に近づけた。
そしてカナに口づけをした。
――【推し魔法:エンジェル・キス】
魔力コインを消費して発動。口づけした相手を治癒する。その効果は相手に対して抱く愛情によって変動する。
カナはとろんとした目でこちらを見つめた。そして、カナの右腕は再生されていく。
「カナ。あの時約束したよね? 二人で『変態』しようって」
「……うん」
ボクは再び口づけした。
――【推し魔法 スキル技:スーパーチャージ(スキルエンハンス)】
魔力コインまたは魔力札を消費して発動。対象が持つスキルの性能を上げる。その効果は相手に対して抱く愛情によって変動する。
「いつもと……違う?」
カナの背からも羽が生えた。それは金色の魔力でできた蝶の羽。
「カナ、ボク達でアサシンを倒そう」
「ええ!」
カナは【スペース・クラッシュ】を解除した。そして壁に再び穴が出現した。
――そしてその穴から、黒狼がこちらに向かって飛び込んできた。
その黒い巨躯がボクに襲いかかる。
その時ボクは、オボロさんの顔を思い出した。
「【氷帝】!」
魔力札を消費し、眼前に氷の壁を出現させた。黒狼はそのまま氷の壁に激突した。
「はああああああああああ! さっきはよくもおおおおお! 【ハード・スラッシュ】!」
――グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
カナが輝く魔力を纏いながら刀を振り下ろした。黒狼は素早く逃げるが、後ろの左足を刀が捉え、切断した。黒狼の足が宙を舞った。
ボクは、足を失った黒狼の隙を見逃さない。着地を狙い、魔力札を1枚使った。
「【炎帝】!」
3本の足でぎこちなく着地した黒狼は火炎に包まれた。
そして逃げようと後ろ足で蹴ろうとするも体勢を崩し、その場で転んで倒れた。
「カナ!」
「ポルカ!」
カナは【スペース・クラッシュ】で空間を握り潰し、自分の目の前にアサシンを瞬間移動させた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ボクもカナを感じる魔力札を使用した。
――【スペース・クラッシュ】!
ボクは左手で目の前の空間を握り潰し、黒狼の傍まで瞬間移動した。
「カナあああああああああああああああああああああああああ!」
「ポルカああああああああああああああああああああああああ!」
二人で叫びながら、そして二人で勝利を掴むため、黄金な魔力で輝く右手をアサシンに向けた。
――【握力強化 スキル技:ハートキャッチ】
対象の半径1メートル以内で発動。対象の心臓や魔力核を強度関係なく空間ごと握り潰す。
――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
カナとボクの右手がアサシンの胸に空間ごと突き刺さった。
いかに身体が強靭な造りをしていても、空間ごと歪まされればひとたまりもない。
黒狼は苦しそうに、そして怒りに震えながら吠える。
「食らええええええええええええええええええ!」
カナがありったけの力を振り絞って叫んだ。
「ボク達の拳をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ボクもありったけの力を振り絞って叫んだ。
二人でアサシンの魔力核を掴む拳に全力を注いだ。そして――。
――ガアアアアアアアアアアアアア……ア……ァ……。
カチッ!
魔核が砕かれた音が聞こえた。そして、手に魔核が儚く崩れ去る感触が伝わった。
――キュウウ……ウン……。
そしてアサシンは力を失い、静かにその場に倒れた。
「はぁ……はぁ……」
ボク達は暫く動けなかった。まだ、勝利の実感が湧かなかった。
そして全力を注いでいた右手に集まっていた魔力は淡く青白い光の粒になって、霧散した。
スーッと魔力が抜けていく感覚を感じると共に、段々と状況が頭に入ってきた。
「カナ……」
「ポルカ……」
ボク達は見つめ合った。
そして駆け寄り、強く抱き合った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「やったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
壁に空いた穴から覗いていた冒険者達が勝利の雄たけびを上げた。
ボク達は抱き合いながら、微笑み合った。
――しかし、ミカさんとオボロさんはどうなったのだろう?
その疑問は即座に解消した。
「カナ! ポルカ! アンタ達やったわね!」
「おめでとう」
冒険者達をかき分けて、ミカさんとオボロさんが顔を出した。
「ミカさん、オボロさんも勝ったんだね」
「あたりまえよ! でも、アンタの推し魔法助かったわよ! やるじゃない!」
「8階で襲われた冒険者達の救出も終わったから安心して頂戴」
ミカさんとオボロさんはボク達に向けてサムズアップした。
ボクとカナは再び見つめ合い、微笑み合った。
「あ、そうだ」
ボクはポケットに入れていた指輪を取り出した。
冒険者ギルドで無意識に作ってしまった、ゴシック・メタルでできた一組の指輪だ。
「ぽ……ポルカ!」
カナは真っ赤な顔になった。そんな可愛い表情を見ながら、ボクはカナの手を取り、片膝をついた。
「カナ。ボクはキミのことを愛している。ボクと結婚してほしい」
ボクはカナの左手の薬指に指輪を通した。
カナは両目から綺麗な雫をこぼした。
「は……はい」
ボクはもう一つの指輪をカナに渡した。
「ボクにも着けて」
「う……うん!」
カナは涙を拭いながら片膝をつき、ボクの左手の薬指に指輪を通した。
「ポルカ。私は貴女のことを愛しております。私と結婚してください」
「はい」
ボクもカナの凛々しい姿を愛おしく感じて、涙が出てしまった。
「カナ……」
「ポルカ……」
ボク達はお互いの愛を誓い合うように、唇を重ねた。
ミカさんやオボロさん、そして他の冒険者達に身も守られながら。
――こうして、新たなダンジョン・ロード、そしてリリィが誕生したのであった。
ついにクライマックスへ!
連休中はこの作品で楽しんでいただけたらと思います!!
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