第21話 未来への布石
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「ここがイクリプス姉妹の屋敷か……立派な屋敷だ」
ボク達はイクリプス姉妹の屋敷の前に立った。
何やら庭で宴会を開いているらしく、どんちゃん騒ぎが聞こえてきた。
「あ、ユメだ」
屋敷の門の向こう側に居る、ピンクのツインテールで眠たそうな目をした女性と目が合った。彼女はボク達の同期。そして、同期内最強と冒険者達の間で評され、実績も出している。
先日、ダンジョン地下10層のボス『バーサク・ゴリラ』を倒し、一人前の冒険者の仲間入りを果たした。
「んー? あ、いつもダンジョンの壁掘ってる人だ。何か用?」
その覚えられ方はなんか嫌だな。
「オボロさんに会いたいんだ」
「んー、わかった」
ユメは眠たそうな顔のまま扉を開き、ボク達を中に入れてくれた。
そして何も言わないままボク達の前をトコトコ歩いている。恐らく、オボロさんのいる所まで案内してくれるのであろう。
「すごい盛り上がりだね。なんの宴会?」
「んー……大規模遠征の前夜祭? 的な感じ?」
「あ、そうなんだ」
疑問形で返されても反応に困ると思った。ユメと話したことはなかったけど、かなり独特でマイペースな人なんだな、と思った。
「オボロさーん。らいきゃくー」
ユメはちゃんとボク達をオボロさんの所まで案内してくれた。
「あら、ポルカさんじゃない」
「こんばんは。突然ごめんなさい。……って、何してるの?」
机で泣きながら事務処理をしているミカさんと、隣に立って見張っているオボロさんの姿が目の前に飛びこんできた。
「いや……このバカ姉がね、事務処理を全くやってなかったの」
「バカとは何よ! このお偉大なお姉ちゃんに向かって!」
「偉大なお姉ちゃんならちゃんとやることやりなさい!」
「いーやーだー! アンタがやってよ!」
「ミカじゃないとできないことなんだから、自分でやりなさい!」
「もうやだやだやだやだやだ! なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ! 伯爵として領地管理の報告? 税の集計? ダンジョン管理の報告? ふざけるんじゃないわよ! 私は王! 冒険者の中の王で女神……って痛い!」
「バカなこと言ってないでペンを動かしなさい!」
子供のように駄々をこねるミカさんをお母さんのように叱るオボロさん。完全に姉と妹の立場が逆転している。
「本当に困ってしまうわ。元々私達も大規模討伐に参加する予定だったけど、伯爵としての仕事の締め切りが迫っていてね……参加できなくなってしまったのよ」
「え……そうなんですか!」
大丈夫なのか……? この二人が居るのと居ないのとでは戦力に大きな差が出てしまう。
「伯爵の仕事よりカラミティ討伐する方が大事でしょ!」
「だまらっしゃい!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
――カラミティ……。
ボクはその名前を聞いて旋律した。
「え……カラミティと戦うんですか……? あの魔法も効かない、物理攻撃も固い外殻に阻まれるという……」
「ポルカさん、よく勉強しているのね」
「……うん」
オボロさんに褒められて、少し嬉しい気持ちになった。
「ええ、私達『アカツキ』を中心に総勢50人もの冒険者達で結成された討伐隊はカラミティに挑むわ。そして今回の目的は私達以外に『アカツキ』のメンバーからダンジョン・ロードを出すことと有力な冒険者に経験を積ませて実力をつけてもらうこと。そろそろ、私達はダンジョン50層より下の階層に挑戦したいと思っているのよ」
「え? ミカさんとオボロさんなら行けるのでは?」
「国の規定で、ダンジョン地下50層以下の階層へは最低4人以上のパーティーを作らなくてはならないのよ」
「そうだったんですか……」
「ええ。なので、私達についていける冒険者を育てないといけないのです」
――第50層……想像もできない領域。
しかし、その未知の領域には冒険者としてワクワクさせられてしまう。
「ユメも討伐隊に参加するんですか?」
「ああ、ポルカさんの同期だったかしら? 彼女も参加するわ。戦力として期待している」
オボロさんはボクにニヤリと笑いかけた。たぶん、激励を飛ばしてくれているのだろう。
――早くここまで登ってこいよ、と。
胸中に悔しさが広がるのを感じ、拳を握りしめた。そして、話を変えるためにも本題を切り出した。
「あの……今日来たのは、個人的に渡したいものがあったということと、この商人のヘカテーを紹介したいと思ったの」
「へえ? 商人の紹介ね」
「お初にお目にかかります。ヘカテーと申します」
恭しくお辞儀をするヘカテー。ボクも言葉遣いや振る舞いを勉強しないといけないかな、と彼女の見事な所作を見て思った。ボクもオボロさん達に対して失礼な言葉遣いをしていると思っているから学びたいのだ。でも、庶民の間では覚えられなかった知識だった。
「まずは、こちらをどうぞ」
「何これ? え……? パンが柔らかい?」
早速、ヘカテーはハンバーガーをオボロさんに渡した。ハンバーガーを受け取ったオボロさんは珍しそうに見つめ、ゆっくりと口に運んだ。
「あら、美味しいわ」
「食べさせてえええええええええええええええええええええええええ! むぎゅ!」
いきなりオボロさんに飛びついてきたミカさん。そんなミカさんの口に、オボロさんは反射的に持っていたハンバーガーを口にねじ込んだ。
「びっくりしたじゃない! もう!」
「もぐもぐ……美味しいなこれ」
満足そうに口をもぐもぐしているミカさん。……この人、25歳だよね?
「こほん。確かにこれは美味しいですし、珍しいものね。それで?」
「この柔らかいパンを作る技術と同様の技術を利用したお酒がこちらです」
ヘカテーはオボロさんにお酒を出した。そしてオボロさんはそれを飲んだ。
「まあ、美味しいですわね。他のお酒よりも味が安定していると思います」
「はい発酵技術なら負けない自信があります!」
「ハッコウ技術?」
聞き慣れない言葉にオボロさんは首を傾げた。
「発酵技術といって、目に見えないほど小さい生物に生命活動をさせて、モノの性質に変化を起こす技術のことだよ。ブドウの甘い果汁をビンに入れて時間を置くと、酸っぱくなったりワインになったりするのが発酵という現象なんだ。ボクもこの現象、技術はアイテム屋時代に旅人から聞いたんだけど、このヘカテーはその技術に関する知識をしっかり持っているみたい」
「ポルカさんがそう言うのであれば、信じましょう」
ボクは助け船を出した。しかし、オボロさんにそう言ってもらえるのが凄く嬉しくて、少し泣きそうになった。
「わかりました。今回の大規模遠征隊の飲料水用ビールの半分をヘカテー、貴女に頼もうかしら」
「はい! ありがとうございます!」
ヘカテーは嬉しそうに、そして涙を流しながら喜んだ。
「で! ポルカさん! 早く出して! アイテム持ってきたんでしょ!」
「わ……わかったよオボロさん」
話が終わるなり、ボクはオボロさんにすごい剣幕で詰め寄られた。
「今日持ってきたのはこれ……『爆発板』だよ」
「『バクハツバン』?」
再び、オボロさんは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
ボクはリュックから爆発板を取り出した。これは今日冒険者ギルドの工房で作成していたアイテム。爆発筒を板状にしたものだ。B級素材ヘヴイメタルと水をお互いに混ざらないようにするために、別々のC級素材メタルでできた平たい板状の水筒を用意した。2つの水筒にそれぞれ粉状にしたヘヴィメタルと水を入れ、2枚を重ねて留めた。
「まずは、『爆発』という現象を見てほしい」
「ねえねえ! 私も見ていいでしょオボロ!」
「……仕方ないですね」
ボクがリュックを広げて準備していると、ミカさんが身を乗り出してオボロさんに事務作業中断を申し出た。
「それじゃいくよ? 爆発に必要なのは、このヘヴィメタルと水の二つ。まずはこのメタルの皿に水を入れる」
皆ボクの手を集中して覗き込んでいる。
「……皆、ちょっと危ないから離れてね」
「え? 危ないって……そんな小さいヘヴィメタルでも危ないの?」
ボクはミカさんに頷いて答えた。
「それじゃあ……水にこのヘヴィメタルを入れるね」
ボクは水が入った皿に少量のヘヴィメタルを入れた。すると、シューシューという音を発生させた後、「バチン!」と小さい爆発が起こった。
「へぇ……面白いわ」
「なにこれなにこれ! バクハツだっけ? 私の【炎帝】でも同じことできるかな?」
イクリプス姉妹は興奮した様子。ヘカテーは爆発が怖かったのか、顔が青ざめていた。
「なるほど。このバクハツの規模を大きくすれば、モンスターに大ダメージを与えられるということね?」
「うん。この爆発板はモンスターに踏ませることが前提のアイテム。この二つの平たい水筒それぞれに水とヘヴィメタルが入ってる。だから、万が一撤退を余儀なくされたときはこれをカラミティに投げて逃げるんだ。追ってくるカラミティがこれを踏めば大きな爆発を起こせて、隙を作れるかもしれない」
「ふふふふふ……あーはっはっはっはっは!」
「お、オボロさん?」
急にオボロさんが笑い出した。
「面白い……面白いわ! やっぱりポルカさん! あなたは面白い!」
「あ……ありがとう」
オボロさんが興奮した様子で褒めてくれた。
「ありがとう。この『バクハツバン』を遠征隊に携帯させることにするわ」
気に入ってもらえたようで良かった。ボクも、自分のアイテムが討伐隊の助けになれば嬉しい。それに、万が一カラミティ討伐が失敗しても、この爆発を利用した攻撃が有効なのか試すことができる。
――次に繋がる一手にもなり得る。
「大規模討伐隊の健闘を祈るよ」
ボクは自慢の一品を、オボロさん達に託した。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
は!ここは家だった!
はにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!




