第18話 ファーストキスの味
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「キミはどうして、無謀に命を捨てるようなことをするの?」
「それは……『生きたい』から」
ボクは目の前で血まみれになって横たわる女性に声をかけた。
その女性の容姿を一言で表すなら、御伽噺に出てくる姫騎士のような美しい人。
猫を彷彿とさせる可愛らしさと鋭さが混在した、確固たる意志を感じる目。さらりと伸びた金髪ストレート。そして豊満な胸に肉付きの良く白く艶やかに光る太ももは、彼女と同性のボクでも目のやり場に困ってしまう。
――ボクは……夢を見ている?
これは……ボクとカナが初めてダンジョンで出会い、初めて言葉を交わした時の記憶だ。
夢の中で「自分は夢を見ている」と自覚しても、夢は終わらずに続いた。
しかも、強烈なリアリティを持って。
「なにそれ。『生きたい』? キミの言っていることは矛盾している」
「そんなことないですわ」
ここ、ダンジョン8層ではボクと彼女以外誰も居ない。この8層は石の床と石の壁に囲まれたエリアで、モンスターが現れないセーフティゾーンとなっている。ダンジョンの天井には緑色の光を発する苔がびっしりと生えており、8層全体を神秘的に照らしている。
――その光景はまるで、死後の世界のようだ。
「ごめん。多分……ボクではキミを救えない。回復魔法も使えないし、満足な回復薬を持っていない」
白を基調とした防具は、腹部を中心として大部分が血で赤く染まっている。白いシルクの生地は血を大量に吸収し、腹部の鉄板は歪に曲がっている。
強大な力で握りつぶされたことを如実に物語っている。ダンジョン10層のボス「バーサク・ゴリラ」によって脇腹を握りつぶされたと見て間違いないだろう。
この、今にも命の灯が消えてしまいそうな女性は「カナ?レイボーン」という伯爵家の娘であり、冒険者である。
――そして、ハズレスキルを持った無能冒険者と評される者である。
「良いのよ、気にしないで下さい。代わりに、最期の時を迎えるまで話し相手になって下さい」
「……わかった」
「貴女の名前は?」
「ボクの名前はポルカ。庶民の生まれだから、家名は無い」
「そう……素敵な名前ですね。貴女の可愛らしいお顔によく似合っています。黒髪のショートボブにクリッとした紅く丸い目。私がこんな状態じゃなかったら、貴女のことを抱きしめていたことでしょう」
「ボクが童顔で背が低いからといって子供扱いするのはやめてくれ。年齢はキミと同じ21歳だ」
「別に子供扱いしたわけじゃないですわ。ただ純粋に、貴女の容姿が好みだというだけ」
「……!」
カナ・レイボーンの白く、細長い右手がボクの頬に触れた。そして、親指でボクの唇を優しく撫でた。
「その……話を戻すよ。『生きたい』と言った意味がボクにはわからない」
困惑したボクは話題を切り替えることにした。
「そのままの意味です」
「その……キミは有名だ。【スキル授与の儀】でハズレスキルを授かった戦えない冒険者。皆からそう言われている。そんな、戦う能力を持たない状態で第10層のボスモンスターとの戦いに参加しても……こうなることは目に見えていたはずだ」
ボクは理解できなかった。彼女が前に進み続けている理由を。
想像することはできる。ボクだって冒険者の端くれだ。ダンジョン踏破くらい夢を見る。
でも、夢を見るだけでは人生変えられない。現実を見なければ生きていくことができない。
――だけど、いつからか……ボクは胸を張って自分の道を突き進む彼女の姿を、ずっと目で追っていた。
「挑戦しないなんて、死んでいるのと同じじゃないですか」
「……え?」
カナ・レイボーンは声を震わせながら言った。それほどに体力が奪われ、声も掠れている。でも、非常に力強い一言だった。
「どうせ死ぬのです、私達は。『現実を見る』と言い訳して夢を諦めても最終的には死ぬ。夢に向かって突き進んでも、そのうち死ぬ。それなら、やりたいことをとことん追求したほうがお得じゃないですか」
「そんなこと……そんなこと人間にできるわけないじゃないか」
「どうして?」
カナ・レイボーンはとても不思議そうな顔でボクを見る。いや、そんな顔をするのはおかしいだろう。キミは貴族なんだぞ。
「人間は一人で生きているわけじゃない。社会的しがらみがある。立場もある。第一、キミは伯爵家の人間だ。庶民一人が死ぬこととは訳が違う」
「それって人間が勝手に決めたことでしょう?」
「……は?」
「私は私です。どうして、どこかの誰かが決めたような生き方に合わせなきゃいけないのですか」
「そんな常識から外れた考えでは……考えでは……考え……では……」
「……急にどうしたのですか?」
ボクは気付いてしまった。ボクは……ボクが家を出る前に両親に散々言われたことと同じことをカナ・レイボーンに言おうとしていた。
――常識外れな夢を追わず、ちゃんと現実を見なさい。
ボクはこの言葉が大嫌いで仕方無かった。皆人生の教科書があると思い込んで生きているようで気持ちが悪かった。
一定の年齢が来たら結婚をして家庭を作る。そのタイミングを逸すれば、何故か人生行き遅れていると周囲から勝手に判断され、憐れな目を向けられる。
ボクは両親から勝手にパートナーを宛がわれそうになった。
だから、ボクは家から逃げ出した。好きでもない相手に身体を許し、生活を共にするなど死んでも嫌だった。
「でも……現実を変えることは……難しいよ」
ボクは家出しダンジョンに潜れば、何かが変わると思った。でも違った。
――ボクもハズレスキルを持った無能冒険者だからだ。
「なぜ貴女が泣いてるのですか」
カナ・レイボーンが細く、なめらかで温かい指でボクの涙を拭った。
ボクは思わずその手を握りしめた。
「悔しい……悔しいよ」
「貴女も闘ってきたのですね」
ボクは頭を左右に振った。
「闘えてない……! 自分の限界を知って、それ以上のことはしなかった! いつも自分の限界を超えようとする君の姿を目で追うだけだった!」
「ふふふ……知っていましたよ。みんな私を白い目で見る中、貴女だけは私に違う目線を向けていました。でもね、私は貴女のこれまでの人生のことは知らないけれど――」
「だめだよ! 動いちゃ!」
カナ・レイボーンは身体を起こし、ボクと目線を合わせた。
「こうやって悔しいって思えるということは、貴女はまだ闘っているのですよ」
「そう……なのかな?」
「ええ。そして私は、そんな貴女の生き様を美しいと思います」
「うう……あ……ああ……ああああああああああああああああああああ!」
ボクは初めて、言ってもらいたいことを言ってもらえた。
それも、密かに憧れの感情を向けている相手から。
「悔しい! 何も変えることのできない自分が! この現実が!」
ボクはカナ・レイボーンに抱き着き、子供のように泣いた。そして、カナ・レイボーンは子供をあやす様にボクの頭を撫でた。同時に、彼女の甘い香りに包まれた。
「悔しいですよね。だから……貴女は私の分まで自分の道を進み続けて」
ボクは絶望的な現実を思い出した。
「嫌だ! キミを……失いたくない!」
「ふふふ……初めて言葉を交わした相手にそこまで言われるなんて、人生捨てたものじゃないですわね」
「諦めないでよ! ボクは……ボクはキミと一緒に生きてみたい!」
ボクはその時、自分の体内で燃え上がるような熱い魔力が身体全身に駆け巡るのを感じた。今まで、こんなに強大な魔力を感じたことが無かった。
「貴女……いきなりどうしたのですか? 身体が輝いて……」
ボクはカナ・レイボーンに回していた腕を解き、自分の身体を確認した。そして右手に青く光り輝く魔力が集まった。その魔力は凝縮され、やがてコインのような形となった。
「これは……ボクの魔法?」
ボクはコインを握りしめた。すると、その力がどのようなものであるかが脳内に浮かび上がって来た。
――【推し魔法:エンジェル・キス】
魔力コインや魔力札を消費して発動。口づけした相手を治癒する。その効果は相手に対して抱く愛情によって変動する。
「ねえ……カナ・レイボーン。もしかしたらキミを助けることができるかもしれない」
「本当に?」
ボクとカナ・レイボーンは見つめ合った。
「そのためには、その……やらなくてはいけないことがある」
「何ですか? 早速試してみましょうよ。何をすればいいですか?」
希望の光を見たカナ・レイボーンはボクを急かした。
「その……キス……」
「……え?」
カナ・レイボーンは頬を朱に染め、口に手を当てた。
真っ白な肌に映える、艶やかなピンク色の唇。それは小さいながらもぷっくりとしており、指で触るだけでもとても心地よい感触だろうと、ボクはごくりと唾を飲み込んだ。
「本当に……?」
上目遣いでこちらを見る。その愛らしい姿に、ボクは抱くべきでない感情が爆発しそうになった。
「ボクはキスをしたことが無いから下手かもしれないけど……とにかくゴメン!」
ボクは恥ずかしくなり、勢いに任せてカナ・レイボーンを抱き寄せ、口を近づけた。
しかし勇気が出せずに、最後の一歩を踏みとどまってしまった。
「では、一つ約束して下さい」
「え?」
唐突に耳元で囁くカナ・レイボーン。彼女の髪や汗ばんだ身体から蠱惑的で甘い香りが漂い、ボクの鼻腔を擽った。
ボクは顔を離し、カナ・レイボーンの目を見つめた。
「ポルカ。私のことは、カナと呼んで」
「うん。わかったよ……カナ」
ボク達は引き寄せられるように抱き合い、唇を重ねた。
ボクはカナの唇の柔らかさに驚いた。感触がとても心地よい。またカナの唇から漏れ出る熱い吐息を感じると、ボクの心臓の鼓動が高まった。さらに、カナの豊満な胸の感触に包まれると、ボクはカナの心臓の鼓動を身体全身で感じることができた。
――カナも、ボクと同じ気持ちなんだ。
そんな推測を証明するかのように、カナの鼓動とボクの鼓動はシンクロし、溶け合っていく。体温も混ざり合い、ボクとカナの身体の境界も曖昧になっていく。
ボクは一度重ねていた唇を離し、カナを見つめる。
カナの目はとろんとしており、上気した頬はほんのりとピンク色に染まっていた。
「……いくよ? カナ」
「……うん」
ボクは再びカナに口づけし、体内で爆発しそうになっている魔力をカナの唇を通して、カナの体内に注ぎ込んだ。ボク達はその魔力の奔流に吹き飛ばされない様に、お互い強く抱きしめ合った。
いつまでそうしていただろう。魔力の流れが収まるまで、ずっと二人で抱きしめ合い、唇を重ね続けた。
「……カナ」
「……ポルカ」
力を使い果たしたボク達は、二人で眠るようにその場に倒れた。
そして薄れゆく意識の中、ボクは一つ思ったことがあった。
――ファーストキスの味は、血の味だった。
連休最終日。
ああ、毎日が休みにならないかな。
クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




