表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3話 無意識に相手のことを下に見ていた

「モブプログラミングがうまくいったんだから、真山くんとのペアプログラミングだってうまくいくはずだ」


さきほどテックサークルの活動として同期3人で想定以上の成果を成し遂げた成功体験を得て、私はそう確信していた。

ペアプログラミングやモブプログラミングの大きなメリットは4つある。

1つめは、複数人で議論して知恵を出し合うことで、最良の選択肢を選ぶ確率が高くなるということ。

2つめは、PCを操作している人と比べて、見ている人は俯瞰した視点になり、1人だと気付きにくい問題が見つけやすくなること。

3つめは、仕様や設計を決める時の思考過程などの暗黙知を共有できること。

4つめは、人と一緒にワイワイ会話しながら作ることが楽しいこと。楽しいからこそ、集中力して高い生産性を発揮できた。


これだけのメリットがあるならば、真山くんとのペアプログラミングも、同じようにうまくいくに違いない。


「真山くん、さっそくペアプログラミングをやってみようか」


そう声をかけて、私と真山くんは、並んで座り、同じ画面を見つめた。


最初は順調だった。


「ここは非同期処理にした方がいいですよね?」

「うん、そうだね」


最初のやりとりはスムーズで、2人で協力してコードは着実に組み上がっていった。

でも、しばらくすると、徐々に私が主導権を持つようになった。


「ん? ここ、処理の流れ的にちょっと変じゃない?」

「あ、そうですか? でも、こうしたほうが・・・」

「いや、違うよ。こういうふうに考えたほうがいいんだよ」


そう言って、私はコードの修正を促した。真山くんは素直にそれを受け入れた。

それが何度も続いた。


「違うよ、そうじゃなくて・・・」


私は、なるべく丁寧に伝えていたつもりだった。でも、気づけば「違うよ」の言葉ばかり口にしていた。


そのうち、真山くんは何か言いかけて、やめるようになった。


(まぁ、大丈夫だろう。ちゃんと説明しているんだから)


そう思いながら、私は作業を続けた。

そうして私が想定していた通りの時間で機能が完成した。

真山くんに、設計の考え方や様々な暗黙知を伝えることもでき、私はペアプログラミングの効果に満足していた。


しかし、その翌日、テストで問題が発覚した。


昨日、ペアプログラミングで作った部分が、致命的なバグを引き起こしていた。

機能は動いているように見えて、実は処理が漏れていた。


「これは・・・まずいな」


私は焦った。どうしてこんな単純なミスを見逃してしまったんだろう?

ふと横を見ると、真山くんが困ったような顔をしていた。


「やっぱり・・・」


彼は小さくつぶやいた。

その一言が、私の胸をざわつかせた。


(もしかして・・・真山くん、気づいてた?)


私は一気に冷や汗をかいた。昨日、真山くんは何か言いかけていた。

そのとき、私はちゃんと耳を傾けただろうか?


いや、違う。

私は自分の考えを押し付けることばかりしていた。

彼の言葉を最後まで聞こうとすらしていなかった。


(私は、何をやっているんだ)


私が想定していた通りの時間で機能が完成したのは当たり前だ。

なぜなら、結局、私が一人でプログラミングをしていたことと同じだからだ。


---


その夜、私はエンジニアコミュニティのオンライン飲み会に参加していた。


「いやぁ、今日はやらかしましたよ・・・」


私は素直に今日のことを話した。


「ペアプロしたんですけど、後輩の意見を全然聞いてなくて。結局バグを出して・・・。なんか、私が自分の意見を押し付けてばっかりだった気がするんですよね」


「あるある」

「わかるなぁ、それ」


経験者たちが笑いながら共感してくれたのが、逆に胸に刺さった。


そのとき、ふと気づいたことがあった。


(あれ?そういえば、私はこのコミュニティでは年下のメンバーにも敬語で話してるな)


なんとなく当たり前にそうしていた。

でも、仕事ではどうだろう?


「みんな、職場の後輩にも敬語使ってます?」

「使いますよ、普通に」

「相手の年齢で言葉づかいを変えないですね」


その場にいた8人のうち、自分以外の全員が後輩に敬語を使っていた。

今まで自分の会社で当たり前だったことが、世間では異常なことだったような気がして、私は血の気が引く思いがした。

その後、私はオンライン飲み会からそうそうに抜けて、一人で今までの行動を振り返った。


私は真山くんに対して、ずっとタメ口で話していた。


「違うよ、それはこうするべき」


真山くんの言葉に対して、私はいつもそれを否定し、自分こそが正しいというスタンスだった。

真山くんよりも、圧倒的に自分の方が優れていると思い込んでいた。

自分の方が上、相手の方が「下の存在」として考えていたのだ。


だから、真山くんは言いかけた言葉を飲み込んだのではないか?


心臓がドクンと鳴った。


そのとき、不意に水樹奈々さんの Pray という曲が頭の中に鳴り響いた。

なぜかいつも、逆境になるとその曲が頭の中に流れ始める。

そして、前に向かって信じて進もうという気持ちがあふれてくる。


頭の中で鳴り響く曲の1番が終わり、2番への間奏となる頃、私の覚悟は決まっていた。

今までの自分の言動は、恥ずべきものであったと自覚した。


そして、ようやく見つけたのだ――――

――――真山くんとのペアプログラミングを成功させる方法を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ