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巻き込まれ宇宙人の異世界解釈 ~エリート軍人、異世界で神々の力を手に入れる?~  作者: こどもじ
漂流者編

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託されしもの

 郷に戻ると、激しい雨音に紛れて、ざわめくような音が聞こえてくる。


 ダンは、捕まっていた女性や子供たちを、念の為エリシャの家に避難させる。


 中に入ると、広場の方で何やら言い争うような声が聞こえてきた。


 「そいつらは……族長の仇だ! 今すぐ引き渡してくれ! ズタズタに引き裂いてやらないと気が済まねえ!」


 「それは許可出来ません。この捕虜は本機が我が主、ダンより命を受けて捕らえたもの。そちらに引き渡す義務はありません」


 殺気立った郷の戦士たちに囲まれながらも、毅然として言い返しているノアの姿があった。


 その背後には、捕らえた捕虜らしき、気絶した兵士たちが倒れている。


 「……待て、何があった? 族長の仇だと? ラース君に何かあったのか?」


 「あ、兄貴か……」


 ダンは、ヘルメットを収納したあと、先陣を切ってノアに突っかかる戦士長、ロンゾに直接尋ねる。


 ロンゾは、一瞬バツが悪そうに視線を逸らしたあと、吐き捨てるように言った。


 「……族長は、ラースは死んだよ……。人間どもが、汚い手使いやがって!」


 「何!? 遺体はどこにある!?」


 ダンがそう尋ねると、ロンゾは「おい」と後ろの戦士たちに呼び掛ける。


 すると――彼らに肩を担がれて、力なく項垂れたラースが運ばれてくる。


 ゆっくりとダンの足元に置かれたその骸からは、既に生気が抜けており、腹部にはナイフが突き立てられ、真っ赤な血が流れ出していた。


 「これは……!」


 「あいつら……最初子供連れの女を囮に使いやがったんだ。盗賊に襲われて、命からがら逃げて来たんで匿って下さいって、この郷まで近付いてきて……普通ならこんなところに、ただの人間が来るなんてあり得ねえ。いつもだったら矢でも射掛けてさっさと失せろってなもんだったんだが……」


 「……匿ってしまったのか?」


 「ああ……なんつーか、兄貴に負けて以来、族長もなんか丸くなっちまって。『人間に歩み寄ることも考えるべきか』、なんてこと言ってたんだよ……。そんで門開けて一旦中に入れてみたら……そいつら、いきなり族長を刺してきやがったんだッ!」


 ロンゾは悔しそうに唇を噛みしめる。


 「そこで俺らが動揺した瞬間、外から一斉に矢が飛んで来て……。気が付いたら郷が大量の兵士に囲まれてて、戦闘が始まってた」


 「彼を……ラース君を刺した、その子連れの女性というのは捕まえたのか?」


 ダンはそう尋ねるも、ロンゾは首を横に振る。


 「いや……いつの間にか、戦場の混乱に乗じて、どこかに逃げちまいやがった。思えばあれは本職の暗殺者だったんだろうな。手際があまりに鮮やか過ぎる。族長は、ここらじゃ名が通ってたし人間どもからも狙われてたからな……」


 そう怒りを滲ませながら言うロンゾに対して、ダンはラースの前で片膝を着いてその死に顔を見やる。


 それは、死んでいると言うより、眠っているように穏やかで、眉間のシワが取れていっそ生きているときより安らいでいるようにすら見えた。


 「……私のせいか。私が、ここに来なければ。郷の人々と交流しようとなどしなければ……」


 「それは違えよ! あんたがいなければ、エリヤさんは死んでたんだ。だからそうじゃねえ、そうじゃねえけど……!」


 ダンの悔いるような言葉に、ロンゾはそうきっぱりと否定する。


 そうこう騒いでいる内に、ダンが連れ帰ってきた女性陣が呼んだのか、エリシャが付き添われて戦士たちの元に近付いてきた。


 ――そして、息子の躯を見て、ガックリとその場に崩れ落ちた。


 「お、おお……ラース! この不孝者が! 母より先に死ぬとは……!」


 そう言って、普段の闊達さや堂々たる振る舞いは鳴りを潜め、年相応の老婆のようにエリシャは嘆いた。


 「エリシャ殿……すまない。これは私のせいだ。私が彼の考えを惑わせてしまった」


 「……ダン殿、それは一体、どういう意味ですかな?」


 ラースの死体の額に手を当てたまま、エリシャは振り向かずにそう答える。


 ダンはその背中に、ラースが殺された経緯を含めて語る。


 「ラース君は、私と会って以降、人間と手を取り合う道も考えていたそうだ。これまでの彼なら、例え誰が助けを求めようと、相手が人間なら容赦なく矢を射かけて追い払っていたはずだ。私が彼の考えを変えて、結果的に死に追いやってしまったのかも知れない」


 「違う! 悪いのは人に付け込むような手を考えついたこいつらだ! 汚い手で族長をハメやがって! 生かしておけるかッ!」


 そう言って、ロンゾは怒りに任せて捕らえた捕虜たちに剣を振り下ろそうとする。


 ――しかし、その手をノアが掴んでピタリと止めた。


 「ぐっ……! 離せ……!」


 「この捕虜たちは本機が船長(キャプテン)の命を受けて確保したものです。許可なく攻撃を行うことは看過できません」


 「やめな、ロンゾ。ダン殿の指示通りにするんだ。この方は、お前やわしらなんかより、遥かに多くのことを知って深い考えを持つ人だ。……それに、お前だってそこのお嬢さんに助けてもらったんじゃなかったのか?」


 そう言って、エリシャはノアの方にも視線を向ける。


 「ぐっ、だけど……!」


 「頼む、ロンゾ君。ここは私の判断に任せてはくれないか? 仇だからと言って、その場の感情に任せて殺してしまっては、相手の手の内も、ラース君を刺した奴が何者かも、なんの手掛かりもなくなってしまう。裁くにしても、まずは情報を聞き出してからだ。それは私がやろう」


 ダンがそう言うと、ロンゾは悔しそうに歯噛みしたあと、ノアの手を払って剣を仕舞う。


 「くそっ……分かったよ。どうせ俺なんかが決めるよりそっちのほうが正しいんだろうさ! 兄貴たちの指示に従うさ」


 そう捨て鉢に言うロンゾに、ダンは「ありがとう」と礼を述べる。


 「……それとロンゾ、族長が死亡した以上、戦士長たるお前が跡目を引き継いで皆を纏めなければならないよ」


 「お、俺が族長……!? が、柄じゃねえって、そんなの!」


 エリシャの指示に、ロンゾは慌てて首を振る。


 「柄じゃないとか、向いてないとか今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ! ……それともなんだい、物言わぬ死者に泣きついて、なんとかしてくれとでも言うつもりかい!?」


 「ぐっ……」


 「今は郷の非常時だ。あんたの泣き言に耳を傾けている暇はないよ! さっさとラースの躯をわしの家に運んで、皆をそこに集めるんだ!」


 「くそっ、分かったよ……言われた通りにすりゃいいんだろ! おい!」


 ロンゾはそう言って下位の戦士たちに命令を下すと、彼らは丁重に族長の遺体を運びながらエリシャの家に入っていく。


 それを見送りながら、エリシャはダンに向けて、ボソリと呟いた。


 「……もしかしたら奴は、自分の死期を悟っておったのやも知れません」


 「死期を?」


 その言葉に、ダンはそっくりそのまま聞き返す。


 「ええ。ダン殿に出会ったあの日以降、ラースは一人で考え込むことが多くなりました。かと思えば周りの者たちに感謝を伝えたり、柄にもなく郷の子供たちに剣を教えたりと……。わしとは前日に酒を飲みながら、これからの郷の未来について言葉を交わしました」


 「…………」


 エリシャの独白に、ダンは耳を傾ける。


 「ラースはその時こう言っておったのです。『新しい時代の者には、古い時代の憎しみを背負わせたくはない』と。……族長として常に人間との戦いを選び続けてきた奴でしたが、ダン殿が現れたことで、もしかしたら自分の役目が終わったように感じたのかも知れませぬ」


 「そんな……」


 ダンは思わず声を漏らす。


 それだとまるで、郷の未来が自分に託されたようではないか、とダンは思う。


 ラースも自ら死を選んだ訳ではないだろうが、族長が死んで、他にも大勢の負傷者や死人を出してしまった以上、これから先のライカン族の道行きが、厳しいものになることは間違いなかった。


 そしてダンには、そんな彼らを救う力があった。


 「……ダン殿は何もお気になされますな。これは我らの問題。我らのみで事に当たります。御身にはもっと重大な成すべき事がおありでしょう?」


 「…………」


 エリシャの見透かしたような言葉に、ダンは何も言えぬまま黙り込む。


 ダンはこの世界においては異物である。


 圧倒的な文明の力を持ち、その気になれば一国を滅ぼすことも簡単に出来てしまうだろう。


 帝国の兵士とやらの装備も見たが、今のダンのものとはそれこそ千年以上の時代の開きがある。


 これなら、仮に万単位で襲い掛かってこられても、なんの脅威にもならないことは実感できた。


 ――だが、それ故に力の使い方は慎重にしたい。


 どこかの勢力に一方的に肩入れはせずに、一線を引いて多少の人道支援を行う程度で、友好関係を築いていきたかった。


 しかしもう、それでは済まないくらいに、ダンは現地の人々と深く関わってしまったのだ。


 「……ノア、君はその捕虜たちを拘束して、どこかの蔵の中に放り込んでおいてくれ。逃げ出せるとは思えんが、誰かが早まって殺してしまわぬよう、見張りにビットアイも付けておいてくれ」


 「了解しました」


 そう短く指示を出したあと、ダンはエリシャに向かい合う。


 「私も、ラース君……いや、ラース殿の最期に付き添ってもいいだろうか。私から、皆に話したいこともある」


 「もちろんでございます。どうか倅のことを見送ってやって下さい」


 そうエリシャに了解を取ったあと、ダンは彼女に付き従う。


 ますます強くなる雨に追い立てられるように、二人は皆が集まる家の中へと入っていった。


 

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