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巻き込まれ宇宙人の異世界解釈 ~エリート軍人、異世界で神々の力を手に入れる?~  作者: こどもじ
七人の子編

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第二次ロムール侵攻③

 「全軍、槍構え!」


 皇子が馬上から直々に号令を掛けると、兵士たちは一斉に槍を前に突き出して、突撃の体勢を取る。


「全軍、前進! 隊列を乱さず、ただ進みなさい!」


 対してエーリカは、進軍を止めず、その何倍もの兵力に武器を構えもせずに正面から立ち向かっていく。


「ひ、姫様! 迎撃はなさらないのですか!?」


 ハルパレオスが、冷や汗をかきながらエーリカに進言する。


「その必要はありません! 我らはただ勝利に向かって進むのみ! 何が起きても神がお護り下さいます!」


「そ、そんな無謀な……!」


 ハルパレオスの言葉に、他ならぬエーリカ自身も内心で同意する。


 しかしこうするしかないのだ。他ならぬゾディアックに、ただ前に進み、乱戦は避けろと指示されたのだから。


 故に内心で愚かと自覚しながらもエーリカは突き進む。


 最悪兵士たちを道連れにしてしまうことになるが、この場においてあのゾディアックという謎の人物に縋る以外、ロムールの民を護る為の手立てが思い浮かばなかった。


 ――そして、その時は来た。


「全軍、突貫(チャージ)!」


「「イイヤアァァァーーーーッ!!」」


 マリウスの号令と同時に、帝国軍が怒号をあげて突撃を開始する。


 平地で十万人規模の突進は大陸の歴史上でも初めてのことであり、大量の土煙を巻き上げながら、大地を揺らして津波のように破壊が押し寄せる。


「ひ、姫様ァ! ご指示を!」


「変わりません! 進み続けなさい!」


「おお、神よ! どうか助け給え!」


「天界の軍勢よ! 我らに力を!」


 ロムール軍もその迫力に思わず声を震わせて神に祈る。


 エーリカ自身も、本当にこれでよかったのかと、膝を震わせて帝国軍を迎え撃つ。


 そして、彼我との距離が二十メートルを切ろうとした、次の瞬間――



 ドンッ!!



 と大地を震わせるような轟音と共に、ロムール軍と帝国軍のど真ん中に雷が落ちる。


 その余りの音と迫力に、帝国軍の騎士たちはパニックになった馬から振り落とされ、兵士たちは驚きのあまり前方につんのめった。


 先程まで晴れていたにも関わらず、空には黒雲が渦巻き、ゴロゴロと雷の音を響かせる。


 ――やがてそれがズズズ、と動いて巨大な人の形を成し始め、天上にその威容を顕現させた。


「あ、うあ……」


「か、神様だ……」


「神ご本人が降臨されるなんて……」


 そう天上には、身の丈千メートル近くにもなる、筋骨隆々で威厳のある白髪の老人――北欧神話のゼウスのような、巨神が威圧的に下界を見下ろしていた。


 これはノアの天候操作によって作られた人型の雲に、エヴァのビットアイのホログラムを投影して作った神の偽物だ。


 ――しかし、そのリアリティたるや近くで見ても本物かと見紛うほどであり、ましてや遠目から見てトリックに気付くはずもなかった。


「………………あれも、ゾディアック様の作ったまやかしなのですか?」


「分からん……多分そのはず、なんだが……」


 ガイウスすらも自信を失うほどの出来であり、ましてやただの兵士に見分けなど着くはずもなかった。


 ダンの作った偽神は、ゆっくりと右手を振りかざしたあと、帝国軍に向かって腕を振り下ろす。


 そして次の瞬間――空が割れるような轟音が響くと同時に、帝国軍目掛けていくつも雷が落とされる。


 どれも直撃はせずに地面に落ちてはいるものの、その轟音と誘導雷によって、何人もの兵士が悲鳴を上げて気絶していく。


「ひいぃぃぃぃぃっ! 神様、お許しを!!」


「何が幻術だ! 本物じゃねえかッ!!」


「神よ! 罪を償いますのでどうかお慈悲を!」


「天に坐す我らが神よ……何卒我が罪をお許し下さいませ。我が魂は神とともにあり……我が血肉は神の賜物……」


「悪いのは全て帝国なんです!」


「くそったれ、神様相手に戦なんかやってられるかッ!」


「もう嫌だ! 家に帰してくれえ!」


 帝国兵十万は一気に阿鼻叫喚となって瓦解し、その場に膝を付いて許しを請う者や、剣も槍も捨てて逃げ出す者。


 狂ったようにブツブツと祈りの聖句を唱える者や、子供のようにわんわん泣きじゃくる者まで様々であった。


 その惨憺たる様子はダンをもってしても、「ちょっとやり過ぎたか?」と思わせるほどであった。


 第二皇子マリウスは側近たちまで全て逃げ出してしまったらしく、指揮官かつ皇族でありながら、ポツンと戦場で孤立していた。


 しかし当の本人すらその現実を受け入れられず、巨神を前にポカンと口を開いて呆然としていた。


「そんなバカな……あんなものが、現実にいるはずが……」


「アウストラシア帝国第二皇子、マリウス殿下ですね?」


 そんな中、マリウスの耳に凛と張り詰めたような少女の声が響く。


 ――そこには、白銀の馬上から自身の喉元に細剣を突き付ける、戦姫、そして今は聖女ともなったエーリカの姿があった。


「貴方には、ロムール王国に対する一方的な侵略の罪があります。よって我が国の元で拘束させて頂きます。捕らえなさい!」


「はっ!」


 エーリカの号令により、兵士たちがマリウスに群がってその身体に縄を打つ。


 茫然自失となったマリウスは特に抵抗する素振りも見せず、されるがままロムール軍に連行されていく。


 こうして大陸史上最大規模となった第二次ロムール戦争は、両軍に大した死者も出すことなく、六倍規模の帝国軍が完敗するという、異常な結末で幕を下ろしたのであった。



 * * *



 「おいおい……あれは少しやり過ぎじゃないか? あんなもの見せられたら帝国側にPTSDが何人出るか分からんぞ……」


『うへへ、だって新しく手に入れた天候操作ウェザー・コントロールとの合わせ技を試してみたかったんですもん! パパだって容赦するなって言ってたじゃないですか〜!』


 エヴァはホログラム投影機の中でうりうり、とダンを指差しながらニヤニヤと笑う。


 ノアの妹たちの中でも、エヴァは特にお調子者のケがある。


 思いっ切り帝国軍をビビらせてやれとは言ったものの、まさかあんなものまで作って、一発で帝国軍を瓦解させるとは思ってもみなかった。


 恐らくあの内の何割かはもう二度と兵士として使い物にはなるまい。そのことに少し頭が痛くなるが、ひとまず当面の危機は乗り越えることが出来たと言っていいだろう。


「……とまあこんな感じで大した血も流さず帝国軍を退けることには成功しました。もはや皇帝は二度とロムールに手を出そうとは思わないはずです。こちらの力を信じて頂けましたか?」


「…………………………………………………………」


「い、いやいや、なんなんですか今のは!? まさか、本物の神を召喚したとでも!?」


 現実を受け止めきれずに完全に真っ白になったフリックを他所に、ランドルフはそう声を荒げる。


 戦場の様子はビットアイの監視網を使って、休憩室のモニターから逐一見ることが出来ていた。


 それはもう、天の軍勢の登場から、天穿つ巨神の一撃、第二皇子の捕縛まで、逐一モニターで監視していた。


「いえいえ、あれは私どもが雲を操作して作った"もどき"の神です。決して本物などではありませんよ」


「あれがもどきじゃと……!? では雷を落としたのは……!?」


「それは純粋な私の力です。一応死人が出ないよう直撃はさせませんでしたが、何人か怪我はしたでしょうね。まあそれは戦の常ということでご容赦ください」


「戦……戦とはあのような一方的なものではない……あんなものはただの断罪ではないか……」


 ランドルフは頭を抱えながら唸るように言う。


「殿下、お気持ちは分かりますが……今は……」


 ようやく再起動したフリックに諭され、ランドルフは正気を取り戻す。


「そ、そうじゃな……。それで、首領殿は我に一体何をさせたいと言うのですかな?」


「先程も申し上げた通り、殿下に皇帝になって頂き、奴隷制を廃止し、侵略戦争も止めて頂きたいのです。今見せた通り、私には殿下を皇帝に押し上げる力があります」


「それは十二分に理解したわ……。神の権威を借りても、御身が後ろ盾となってご助力下さるのなら求心力も得られよう。しかし、何故自分でそうなさらないのですか? 先程見た通りの事ができるのなら、帝国を征服して支配するようなことも容易なはず」


 ランドルフはそう尋ねる。


 あれだけのものを見せられても、ランドルフはダンの底をまだ見通せていないように感じられた。


 その最もな言葉に、ダンは応える。


「それはしてはならないことだからですよ。我らとて守るべき法があります。我らの中では文明的に遅れた国家に対して、力で抑圧して支配するようなやり方は、非常に野蛮で愚かなことであると見做されています。我らが出来るのは現地人をそっと後ろから手助けして、良い方に導くことがせいぜいです」


「それは……表に出ずに、殿下を傀儡にして帝国を裏から支配することを目論んでいるようにも聞こえますが」


 ダンの言葉に、フリックが鋭い目線を向ける。


「申し訳ありませんが、そんなことに一切興味はありませんな。私が求めるのはたった三つだけ。それは奴隷制の廃止と、これまで囚われていた者たちの解放と賠償、そして帝国の侵略を止めさせることだけです。その約束さえ守ってくれるなら、私は帝国の運営には一切口出ししませんし、なんなら殿下に武力のみならず金銭援助をしても構いません」


「…………」


「無論、強制するつもりはありません。あくまで殿下にその気があるのなら、という話です」


「もし我が断れば……帝国はどうなりますか?」


 ランドルフは懊悩しながらもそう言葉を絞り出す。


 ダンはそれに、肩を竦めながら応えた。


「残念ながら、帝国は解体させて頂くことになります。ロムール王国や他の国々と結託し、今日のような手段を取って帝国を端からどんどん切り崩して行くことになります。その際犠牲は大きくなりますが、奴隷解放の為にはやむを得ません。それも帝国が生み出した業ですから」


「…………少し、考えさせて貰えんかの?」


「ご自由に。私は少しロムール王国の姫様と話して来ますので、その間にどうぞ存分にお二人でご相談下さい」


 そのランドルフの言葉に、ダンはご自由にと言って、ランドルフとフリックの二人だけを残して休憩室を後にする。


 そして船を降下させてハッチから、既に静まりつつある戦場へと降り立った。


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